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近畿大学「なら近大農法」のプレスリリースから考える、ブランド化のためのリリースという考え方とアプローチ。

言わずもがななことですが、大学の広報活動においてプレスリリースは大きな意味を持ちます。私もこのnoteやほとんど0円大学のネタ集めのために、毎日チェックをしていますが、大学が伝えたい大学情報を得るうえで、プレスリリースは非常に効率がいいです。今回は、そんなプレスリリースの使い方で、ちょっと面白いなと思ったものがあるので、こちらを取り上げようと思います。発信元は、大学広報の異端児かつ先生といえる大学、そう近畿大学です。

認知拡大を意識して、丁寧にプレスリリースを展開

今回、見つけたプレスリリースは、「なら近大農法(ICT農法)」というICT(情報通信技術)を活用し、農業初心者でもできる農業を近大農学部と奈良県で推進しており、その農法で作成した「近大ICTイチゴ」がECサイトで販売されたというもの。これだけであれば、内容としては興味深いものの、プレスリリースの使い方が面白いとはなりません。面白いのは、このプレスリリース、というより、このテーマでの一連のプレスリリースの打ち方です。

というのも、このプレスリリースを最初に見たときに、あれ?同じようなのを少し前に見たような……と思い、調べてみると一月半前に奈良市内のホテルで同じイチゴを販売したというプレスリリースを見つけました。そして、さらにさかのぼること、1年前に同じイチゴの初収穫がプレスリリースされています。

初収穫、ホテルでの販売、ECサイトでの販売というところにリリースとしてのニュースバリューがすごくあるかというと、そうではないように思います。これらリリースで注目するポイントは、あくまで「近大ICTイチゴ」であり、それを生み出した「なら近大農法」です。近大側もそれを理解したうえで、この二つの認知拡大をはかるために、あえて細かくリリースを打っているのかなと感じました。

ちなみに、「近大ICTイチゴ」については、すでに紹介した3本のリリースしかありませんが、「なら近大農法」のリリースは、この3本に加えて、8本のリリースが打たれていました。古くは「なら近大農法」の確立をめざして奈良県と近大農学部が覚書を取り交わすというのからはじまり、その後、ミニトマト、メロン、そして、今回のイチゴと続きます。内容も栽培に関わるものだけでなく、販売や加工食品の開発など、かなり丁寧にリリースを打っています。

時系列で見ていくと、「なら近大農法」というフレーズは最初からあるものの、栽培された農作物については、はじめの方はミニトマト、メロンとだけ書かれており、途中から「近大ICTメロン」「近大ICTイチゴ」といったように固有名詞に変わっていきます。ここらへんに試行錯誤の跡が見えてなかなか興味深いです。

単なる告知ではなく、ブランド化を意識したプレスリリース

プレスリリースを打つのは、当然そこで紹介しているイベントや取り組みを知ってもらいたいから、というのが普通です。もちろん、近大の「なら近大農法」のプレスリリースにもこの思いがあると思います。でも、近大の取り組みからはこれだけじゃないというか、計画的にプレスリリースを打つことで、「なら近大農法」や「近大ICT◯◯」をブランド化しようという意志を受け取りました。

ブランド化が目的であれば、プレスリリースを打つ基準も当然変わっていくように思います。端的にいってしまうと、プレスリリースが完結した広報活動ではなく、手法の一つになるわけです。計画的かつ戦略的に続けていくことに意味が出てきます。そして、継続を前提にする場合、広報と現場で目的をすり合わせて置くことが必須になるでしょう。

多くの大学では、リリースを打つとき、取り組みのニュースバリューの大小で判断はできても、長期目線で取りあげるあげないを判断するのは難しいように思います。でも、広報ドリブンとも言える動きをする近大なら、もしかしたら通常のプレスリリースと、ブランド化のためのプレスリリースを分けているのかも…と思わなくもありません。少なくとも「なら近大農法」のリリースの打ち方にはそんな気配を感じ取ることができました。

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