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ヒントは成蹊大の特設サイトにあり!? “学び方のレシピ”の集積から考える「学修者本位の教育」への向き合い方。

2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」で示された「学修者本位の教育への転換」は、これからの教育の方向性を示す指針として、どの大学も大いに意識しているように思います。とはいえ、これをどのようにすれば教育に実装できるのでしょうか。多くの大学が模索段階だとは思うのですが、このたび成蹊大学が公開した特設サイトは、この難問を考えるうえで、いいヒントになりそうに感じました。

複雑に絡まり合いながら深まる”学び方をイラスト化”する

成蹊大学の特設サイトの名前は「成長する成蹊大生の図鑑」。17名の学生の成長の軌跡を、学生インタビューとイラストによって伝えています。興味深いのはイラスト部分で、何をどう身につけていったのか、またそのときのマインドの変化と体験した内容などを、手書き文字とイラストを使って伝えています。

会議やプレゼンテーションの内容を、文字やイラストを使ってリアルタイムで記録するグラフィックレコード(グラレコ)という手法があるのですが、これに似た印象を受けました。グラレコでは、意味内容ごとに情報を区分したうえで文字やイラストで表現し、それぞれがどういう関係性なのかを矢印等で示します。各学生のインタビュー記事には、このグラレコ的なイラストが冒頭に載っており、学生が何を感じ、どう成長していったかが視覚的に大づかみできるようになっているんです。

「成長する成蹊大生の図鑑」より

これを見て、たしかになあ、と思ったのは、カリキュラムであれば1年次、2年次、3年次…とステップを踏んで、体系的に学びが深まっていきます。でも実際に学んでいる学生にとっては、階段を上るような単純な経路で成長しているわけではないんですね。人によっては、1つの出来事がきっかけで、2つの興味に広がり、それがさらに分岐するけど最終的に一つの将来の目標に帰結したり、自身の専門にさまざまな興味が結びつくことによって、独自の研究テーマを見出していったり、大学の学びや体験は複雑かつ有機的に絡み合い、その結果、学生は成長していきます。

さらにいうと、今回の成蹊大のサイトでは、大学が提供する科目やプログラムに主眼を置かれていましたが、実際はアルバイトであったり、クラブ活動であったり、旅行であったり、いろいろな体験も含めて、相互に影響しあいながら、学生は成長するのだと思います。大学の提供する学びだけで考える段階で、もしかしたらすでに学修者本位という視点からズレているのかもしれません。だって学生からしたら、ここまでが大学、ここからはドコソコと、提供サイドで区分して、ものごとを把握したり、体験しているわけではないと思うのです。グラレコ的な表現にしたからこそ、こういう視点が浮かび上がってくるのかなと感じました。

学修者視点で学びをリデザインするためには

このグラレコ的なイラストをいくつも見ていると、ほんといろいろなんですね。もちろん取材対象者の学部学科が違っていたり、3年生だったり4年生だったりするので、変化がでて当然といえば当然です。でも、けっこう複雑なイラストもあって、これってどこまでが大学側が想定した通りの学び方になっているんだろう?と気になりました。

提供側である大学は、意図があってカリキュラムをデザインしているわけで、この科目(群)とこの科目(群)がつながるように学んでほしいとか、そういう思いがあるはずです。でも実際は、学生ってその意図とは違う学び方をしていたり、想定したものとは違う気づきを得て、そこから思いもよらない方向に学びが広がったりと、そういうことが多くあるんじゃないか、そんな気がしました。以前、大学案内の企画を考えるときに、ある調査結果で、作り手の想定する大学案内の読み方と、受験生の実際の読み方は、ぜんぜん違うというのを見たことがあります。作り手は、表紙から順にストーリー立てて内容を考えるけど、受験生は自身が興味あることや、直接関わることのみを“つまみ食い”するように読むわけです。なんか似たようなズレが、ここにもあるのかもしれません。

じゃあ、学修者視点で学びをリデザインしたらいいのかというと、たぶんそれって、すぐにできないし、けっこう難しいと思うんですね。というのも、グラレコ的なイラストが人によって大きく違っているように、学び方や学びのデザインには正解というものがなく、学生一人ひとり異なっているように思うからです。そうであれば、学びの内容そのものを変えるというより、コンシェルジェ的に、その人に合った学びをエスコートすることが、まずは大事なように思います。もちろん、何人もエスコートしていくなかで、自ずと新たにこういうのが合った方がいいとか、これはいらんわってのが見えてくるはずなので、そこが貯まってきた段階で、教育内容をあらためて検討することができるようになるのかもしれません。こういう風に考えていくと、学生がどのように学んでいるかをグリップしていない段階で教育改革をするのって、ほぼ博打なんじゃないかという気さえしてきます。

“学び方のレシピ”を集めることからはじめよう

成蹊大学のリリースには、本取り組みを「学修成果の可視化・教学IR活動の一環として」実施したと書いていますが、それだけではなく、この取り組みは学生たちの “学び方のレシピ”の集積という意味合いがあります。サイトのトップに「チカラが伸びた17人の物語」と明示されているので、今後、増やす予定はないのかもしれないのですが、ぜひ中長期的に考えて更新していってほしいです。教育改革・改善のためのヒントと根拠になりますし、学生が自分に合った学び方を考えるための先行事例にもなるはずです。

私自身、このグラレコ的なイラストをいくつも見ていると、いろんなことが頭に浮かんできました。教職員でこれを眺めながらブレストすると、けっこう有意義なんじゃないでしょうか。「学修者本位の教育」というわかるようでわからないことを実践する上で、学修者視点での学びの視覚化というのは、まずはとっかかりとしてやるべきことなのだと感じました。

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