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一眼レフをもう一度 〜モンテネグロ・コトルを旅したあの日から〜

「なんでこの絶景をファインダー越しで見てるんやろ」

港町・コトル

20歳が終わろうという頃、私はモンテネグロにいた。
トルコ留学中に大学の長期休みを利用して旧ユーゴ圏に旅に出たのである。
モンテネグロの海沿いの港町・コトル。もし私がオススメの旅行先を選ぶとしたら、この町を選ぶと思う。

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城壁に囲まれた旧市街は、日本からやってきた私にとっては絵本の世界ともいえる場所だった。見るものすべてがファンタジックなこの町では、やはりシャッターを切るのを止められない。

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バックパックを背負い、首から一眼レフをぶら下げた私を見かねてか、ゲストハウスのオーナーは有益な情報を教えてくれた。どうやら日が沈む頃にゲストハウスの裏から、山を登るとなんだかいい景色に出会えるらしい。

時を同じくして、居合わせたヨーロッパ系の女性旅行者から「いまからバーに行くけど、一緒にどう?」なんて誘いを受けたが、私は山を登ることにした。そのくらい私は、この町に魅了されていた。

カメラ越しの絶景

山を登ると、思ったよりも早く日が沈み始めた。年明けの厳寒期のコトルにはもっぱらオフシーズンで、私の後ろには誰もついてくる人はいなかった。

前方から一人の男性が息を切らしながら山を下りてきた。私より少しお兄さんの彼は、この山で出会う最初で最後の人間だった。彼が言うには、あと10分もすればゴールだという。

無心に上り続ける私には、あの美女の誘いを思い出す余地さえない。もちろん今となっては、若干の後悔は否定できないのであるが。

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入り組んだ港湾とその中に佇む城郭都市のコントラストは、私が今まで見たこともないような景色だった。まして夕日が海上を反射するその姿は、もはや町中のファンタジーを事実として冷静に見つめられるくらいの幻想のようにも思えた。

もちろんカメラを構え、シャッターを切る。しかし、シャッターを何枚か切るうちに、

「なんでこの絶景をファインダー越しで見てるんやろ」

と急に我に返った。つまり、今この瞬間を目に焼き付ける方が私にとっては大切なことに思えたのである。
これ以来、一眼レフを手に取る頻度は途端に減っていった。

記録と表現

時は流れ、コトルを訪れて早6年。やはり写真にはあまり興味を持てないまま、今に至る。今でこそ事業を始めたおかげで否応なくスマホで写真を収めるようになったが、友人と旅行に行っても、写真は友人たちに任せっきり。それはやはり、目の前の景色であったり、友人たちの笑い顔であったりを写真としてではなく、目に焼き付けようとしていたからである。

そんな写真に興味を持てない私は、とある一節に出会った。

「スマホは日常の記録のために、一眼カメラは表現のため」

にカメラを使い分ける人がいるというのだ。

確かに私がスマホで写真を撮るのは、まさしく記録のためだ。それは作物の成長であったり、手作りの料理であったり。その記録は主に自身のSNSに載せられていく。ましてSNSの性格上、定期的な更新が有用とされるせいか、スマホでの写真は投稿素材をストックしておく記録と化していた。

でも、本当はその写真を通して、伝えたい何かがあったほうがいいんじゃないか?この一節から、そんなことを考えてしまったのである。

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知人が菜園にて一眼レフカメラで撮影した一枚

一眼レフをもう一度

宿業と農業を営む私にとっては、お客様と過ごした時間の素晴らしさであったり、「ウチの唐辛子はこんなに可愛いのです」なんていうある種の自慢であってもいいのかもしれない。

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1月に一眼レフで撮影した今年唯一の写真

今思えば、一眼レフで撮った写真は「丁寧」だったように思う。写真の上手い・下手はプロではないので分からないが、ファインダーをのぞき込み、レンズの焦点が合うのを待つ。そして、玄人ぶって露出を変えてみたりする作業には私なりの「丁寧」さがあった。

「丁寧」な写真は、当時の情景をつぶさに蘇らせる。それは、コトルの写真が「なんでこの絶景をファインダー越しで見てるんやろ」と感じたことをいつも思い出させてくれるのと同じなのだ。

いまや一眼レフよりもスマホの方が綺麗に写真が撮れるなんてこともあるらしい。でも、これからの私は下手でもいいからきっと一眼レフを活用すべきなのだと思う。
なぜなら、一眼レフを使えば、「この瞬間を切り取ることで、何を伝えたいのだろう」と写真に丁寧さを取り戻すことができるからだ。

あの日の一眼レフは今、私の手の中にある。
このカメラで何を表現できる?いや、何を表現したいのだろう?
その答えを探して、もう一度ファインダーを覗き込んでみた。

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今回の記事はこちらの記事を読んで、思い出した旅の記録でございました。

★よければ、一眼レフで記念写真お撮りします↓


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