見出し画像

紙と積み木とアンパンマンと

うちにはもうすぐ2歳になる子どもがいる。アメリカに来るとき、彼の身の回りのあれこれをどうするかは地味に悩んだ。

服は、去年のものはどうせサイズアウトするだろうから、大きめだけ選んで足りない分はこちらで買うことにした。日本語には触れて欲しいから、絵本は送れるだけ送った。オムツは圧縮袋に入れて、4パック分くらい。日本と比べるとアメリカのはゴワゴワして感じられると思うよ、慣れるまで大変かも、という友人のアドバイスを聞いて、生活が落ち着くまでの間、オムツで悩まずに済むよう少し多めに用意した。

あとはおもちゃだ。かさばるから、そんなにたくさんは持っていけない。夫と相談して、出産祝いに頂いた、あいうえおが書いてある積み木と、アンパンマンのキャラクターたちの人形がセットになったブロック、赤ちゃんの頃からそばにあるぬいぐるみだけ持って来ることにした。

こちらに着いてしばらくは、時差ボケのせいで、子どもも大人も夜中の3時とかに起きて、昼間からこんこんと寝たりしていた。3週目に入った今は、生活時間こそ環境に合ってきたものの、外はすでに秋の気配である。寒くて公園に行けない日もある。

だから、こちらに来てからは家で子どもと遊ぶ時間がとても長い。細々したおもちゃは全部置いてきたから、寂しいかな、ごめんね、となんとなく思っていたのだけど、子どもはすごい。あるものでいくらでも遊びの世界を広げていく。最初は、積み木で「おふろ」を作って、そこにアンパンマンたちが入りに来た。子どもは、「あー、きもちいー」と言いながら、アンパンマンやドキンちゃんを積み木の枠の中に入れていく。バイキンマンがおふろに入るときは、ちゃんとダミ声になる芸の細かさだ。私まで、日本で日帰り温泉に通っていたあの懐かしい日々にしばし戻る。想像力は人間をどこまでも解放してくれる。

食事の買い出しに行ったスーパーで、紙とペンを見つけて買って帰った。ふと見ると、夫が紙をちぎって丸めて黄色く塗って、「はい、ポテトです!」と子どもに渡していた。彼はそれはそれは嬉しそうに、「おいしー!」と言って自分で食べる真似をした。それ以来、私と夫のところには、ひっきりなしにアンパンマン達がやって来て、「ぽてと、くださーい」「あいしゅ、くださーい」と注文が絶えない。紙を丸めて、適当に色を塗って、せっせと要望に応えている。冷静に見ればただの紙くずだけど、我が家で今、これがアイスであることを疑う人は誰もいない。

よそのお宅に遊びに行ったら、おもちゃの山に目を輝かせて、一目散に飛んで行った。ごめんよ、うちでも少しずつ揃えるからね、と約束しつつ、今のこの状況もこれはこれで面白いと思ってしまう。積み木がおふろに、ブロックが車や野菜に、紙くずがアイスに、本当になる時間はあとどれくらいあるだろう?きみはいつまで、きみの世界を私たちに分けてくれるのかな。

最後まで読んでくださってありがとうございます。良かったらサポートいただけたら嬉しいです。何かおもしろいこと、人の役に立つことに使いたいと思います。