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マッドパーティードブキュア 322

 深緑色の空が広がっている。懐かしき混沌地区の空だ。
 はっと、マラキイは空を見上げた。舌打ちが漏れる。
「まずいな」
 マラキイの隣で、メンチが呟いた。
 そこには方陣が輝いていた。巨大な黄金の方陣だった。
 マラキイの記憶にあるものよりもさらに大きくなっていた。構成された方陣の諸要素は隣接する部分を映し出し、顕現する速度は加速度的に早くなっていく。方陣によって描き出される巨大な手もその姿を大きく、そして確かなものにしていた。
「とめないと」
 メンチの焦った声が聞こえる。
「ああ」
 マラキイは頷く。あれがこのまま顕現してしまっては、この地区は根本的に存在を変えられてしまうだろう。いや、その影響がこの地区だけで済むとは限らない。この地区を変容させて、併合したあの秩序が、その質量をもってドブヶ丘の街に進出したらどうなるだろうか。
 忌々しい想像にマラキイは顔をしかめた。あの街はけっして暮らしやすい街というわけではないけれども、正黄金律教会の連中が書き換えた街で暮らしていけるとも思えない。
 結局のところ、ここで止めるしかないのだ。マラキイ一人ではできないかもしれない。けれども、二人ならば、メンチと一緒ならばなんとかできるかもしれない。
「でも、どうやって?」
 メンチが空を見上げながら言った。
 マラキイは考える。状況を打破する方法を。この街では、この地区では完璧な作戦など存在しない。どれだけ不確定要素を排除しようとしたところで、予想しえない要素は忍び寄る。今ここにマラキイとメンチがいること自体もそうだ。
「まずは、術者を探るんだ。今のお前ならできるだろう」
「やってみる」
 珍しく硬い表情でメンチが頷いた。その肩を優しく叩いて、マラキイは言葉を続ける。
「お前ならできる。でもできなくても大丈夫だ、俺が何とかする」
「ああ」
 メンチは安心したように目をつむる。
 なんとかする方法は思いついていなかったけれども。

【つづく】

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