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初恋の彼に婚約指輪を売った話

初恋の彼と再会した。

5年以上ずっと大好きで、

別々の高校に行ってしまって、

連絡先を交換する事すら出来ず、
片思いで終わってしまった彼だった。

久しぶりに会った彼は、あの頃よりずっと背が伸びていて。

当たり前だけど、大人っぽい顔つきで。

でも、昔と同じやんちゃな雰囲気もあって。

本当ならここで盛大に喜んで、近況や昔の思い出に浸っていただろう。

でも、
私が最初に彼にかける言葉は


「いらっしゃいませ、お探しはご婚約指輪ですか?」



再会はブライダルジュエリーショップで

私はちょうど一年前に製造の仕事から転職し、
結婚・婚約指輪の専門ショップへ転職した。

元々ブライダルの世界に憧れがあり、
やっと就けたこの仕事。

カップルに一生に一度のお買い物の手伝いができるこの仕事はとても楽しかった。

転職から6ヶ月後、

仕事にも慣れ始めた頃、2人の男性が店にやってきた。

私はいつものようにニコニコ笑顔で、男性2人を出迎えた。


…あれ?

ふと片方の男性の顔を見ると、
どこかで見たことあるような気がしたのだ。


お客様の顔をまじまじと見る訳にはいかず、
すぐに私は目線をそらした。

だめだ、すぐに思い出せない。

でもその顔を見た瞬間、
心の奥底からザワザワと胸騒ぎがした。

「いらっしゃいませ、指輪をお探しですか?」

「え?えぇ…まぁ」

聞きなれない低い声。

緊張しているのか、
落ち着きのなさそうな様子だった。


私は一度普通に接客をすることにした。

「プロポーズされるのはいつ頃なんですか?」

「はは、まぁ近いうちに。来年仕事の都合で引っ越すんですよ」

ズキッ

「なるほど!お相手様についてきてもらわなきゃダメですもんね笑」

「そうなんすよ、手続きとかも色々あるし」

ズキッ


なんでこの人の言葉がいちいち刺さるんだろう。

私はもう一度彼の顔をしっかりと見る。



……あ。



私はその男性の口元にホクロがあるのを見て、

1人の男を思い出した。

私が小学校から中学生までずっと好きだった男の子。


その男の子にあったホクロと位置が全く同じなのだ。


身長も声も変わっていて気づけなかった。

私は咄嗟にもう1人の男性を見る。

実はもう1人の男性も見覚えがあるような気がし
たのだ。



…こいつも小学校の時の同級生に似てね?



気まづいと言うか、
本当に初恋の男の子なのかが気になって、



口数が明らかに少なくなっていると、

心配した男の先輩が自然な流れで一緒に間に入ってサポートしてくれた。

しばらくはその状況で何とかやっていたが、

それでもやっぱり気になって、


「…あの、すみません。間違っていたら申し訳ないんですが」


「はい?」


「通われてた小学校って、○○小学校ですか?」



思い切った質問。


間違っていたら絶対気まづい空気が4人の間に流れてしまう。

数秒間の沈黙が流れる。


その時、



「やっぱり地元っすよね?俺ら」



「ははっ、お久しぶりです…」


本人だったことへの安心なのか、

相手も私のことを覚えててくれたことの嬉しさか、

それとも、こんなところで出会ってしまったことの悲しさか、


私は一気に力が抜け、ショーケースにもたれかかってしまった。

続きます。


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