見出し画像

海のある奈良-2

電車は大きく分けると動力車(モーターの付いた車)付随車(モーターのない車)が存在する。当然、動力車に対して付随車の比率が少なければそれだけモーターの性能が発揮できて加速力が上がる。車両の知識には疎いため迂闊なことは書けないが、都会で長大な編成を組むことを前提にした電車などは、最短2両編成で組もうにも構造の都合上、全ての車を動力車にせざるを得ない。付随車がないのでそれこそ最大の加速度を発揮できるようになるのだ。

何を言いたいかというと山陰本線を疾走するこの国鉄型113系の加速が心地よいのだ。早送りのように唸り、ワンマン運転の放送が慌ただしく響く。風情はローカル線のそれだというのに、わちゃわちゃと忙しく動くこのアンバランスな感覚は癖になりそうだ。

綾部からは進路を北に切り替え舞鶴線だ。激しくなった縦揺れがローカル線に入ったことを物語る。舞鶴市は城下町で商業の街西舞鶴と、軍港舞鶴鎮守府で有名な港町東舞鶴が文字通り東西に山を隔てて分かれているという珍しい都市である。残念ながら一過性の乗り鉄ではその興味深い都市の様相をじっくりと眺め感じることは叶わず、車窓に気を取られて気が付いたときはもう終点の東舞鶴だった。11:04着

東舞鶴での乗換は2分と慌ただしい。こと18きっぷのシーズンとなると同業のマニアたちが我先に席を取らんとぞろぞろホーム向かいの列車に乗り換えていくので写真など撮っているとすぐに立席に甘んじることとなる。ひとまず乗ったという証明をこさえて東舞鶴11:06発敦賀行き933Mに大慌てで乗り込んだ。

小浜線は若狭湾を望み「海のある奈良」とも称される小京都小浜を通る風光明媚なローカル線であるが、この路線のマニア的面白さはまた別にある。この路線は125系と呼ばれる電車が走っている、つまるところ電化路線である。沿線自治体や民間の出資(電力会社主体であったという)によって電化されためでたい路線だが、変電所の数があまりにも少なく意図的に電車の性能を落として運転せざるを得ない状態となっているのだ。

定刻で東舞鶴を発車するが、出足が明らかに遅い。加速しきるのに普通の電車の2倍はかかっている気がする。これではまるでディーゼルカーと変わらないではないか。確かに乗り心地や居住性の良し悪しでは電車に軍配が上がるであろうが、巨額の費用を投じて架線を引いた結果がこれというのもいかがなものか、そんな余計なことを考えてしまうくらいには鈍足で、この加速の悪さはあのキハ40とも張り合える勢いに感じる。

一つ先の松尾寺を出ると早くも県境を越え、若狭湾の見事な海岸線が車窓左側に展開される。途中の小浜は小京都とも呼ばれる歴史ある街並みで、古くから日本海沿岸の産物を都へと送る役割を担っていたとのこと。生憎と今回は通りすぎることしかできないが、いずれはじっくりと見て回りたい街の一つだ。

小浜を過ぎ北川に沿うように内陸部へと進むと長閑なローカル線の趣で、有り体に言えばありがちな車窓が展開されていく。のっそりと加速していく電車の揺れに身を任せると途端に眠気が襲い掛かってきた。西敦賀で山上の北陸本線を見上げたあたりより前の記憶が定かでないことを見ると、うたた寝をかましてしまったに違いない。

13:00敦賀着
敦賀は北陸の玄関口として知られる駅で何度か訪れたこともあるが、未だに北陸トンネルを抜けて日本海に逢いに行ったことはない。谷村新司ではないが体だけは大人に変わった23歳、近いうちに日本海に逢いに北陸の地を訪れてみたいものである。

今日はこれから京都に引き返す。