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G7広島サミットの歴史的成果

G7広島サミットが終わりました。中身の濃い歴史的なサミットだったと思います。無事にやり切った関係者の皆さんに心から敬意を表したいと思います。

原爆慰霊碑の「過ちは繰り返しませぬから」の意味

岸田総理と各国首脳が並んで慰霊碑に献花した場面は印象的でした。連合国側である英米、フランス、カナダと、敗戦国側である日本、ドイツ、イタリアが同時に並んで献花する姿には感動を覚えました。

私が以前から気になっていたのは、あの慰霊碑に書かれている「過ちはくり返しませぬから」という言葉の意味です。日本は戦争を仕掛けた国であり、さらに敗戦を経験し、国内外に大きな犠牲も出してしまった点を反省してきました。一方、原爆を落とした米国や連合国側に過ちはなかったのでしょうか。バイデン大統領は米国内世論を考えると言葉を選ばなければならない立場ですが、共に慰霊をすることによって世界全体が核兵器を使うような戦争を起こしてしまった過ちを認識する機会になったのではないかと思います。バイデン大統領がかなり踏み込んだ言葉を記帳しています。

「この資料館で語られる物語が、平和な未来を築くことへの私たち全員の義務を思い出させてくれますように。世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう」

あの資料館を見て、慰霊碑の前に立った後にサミットが始まったことはその後の議論に影響したと思います。広島ビジョンに関しては、核廃絶を謳わなければならない広島で核兵器の存続を認めたという批判もありますが、私は同意しません。現状において世界がやるべきことを提示したと思います。それは核兵器の脅威から世界を解放すること、ロシアが核兵器攻撃を行うことを絶対に許さないということであり、核拡散をこれ以上許すことができないということです。

もちろん最終的な目標は核廃絶です。その大きな目標を達成するために今は核による威嚇を続けるロシアに対して包囲網を形成することが重要です。

F-16供与のインパクト

サミットのクライマックスはゼレンスキー大統領の参加でした。大統領の演説の締めは「ロシアが世界の最後の侵略国(通訳は攻撃国)になるように」という言葉でした。ゼレンスキー大統領の強い意志を感じました。資料館に記録された廃墟になった広島とウクライナを重ね合わせていたことにも心を揺さぶられました。世界のウクライナ支援疲れを払拭するのに十分な効果があったと思います。

F-16戦闘機の供与は象徴的です。第4世代の戦闘機の能力はウクライナが持っている旧ソ連製の戦闘機とはレベルが違います。現状、ウクライナの戦闘機は質的・数量的にもロシアには遥かに劣っています。以前からヨーロッパ諸国から戦闘機を供与する動きがありましたが、製造国であるアメリカからのF-16戦闘機の供与が承認されたことで事態が動き出します。

ここから1つの教訓が浮かび上がると思います。アメリカから供与されている国であっても自由にF-16を使用できるわけではないのです。日本もこれからトマホークミサイルを配備しますが自由にこれを使えるわけではない。同盟国であるアメリカとは、ほぼ利害を共有できると思います。ただし、他国からのミサイル攻撃の脅威が米国本土に及んだ時に、日本が本当に自由にトマホークを使用できるのか。100%の利害を米国と共有することが難しいケースも考えられる。日本が独自のミサイル開発をおこなう意味はそこにあります。

F-16の実戦配備は簡単ではありません。パイロットの練度にもよりますが、戦闘機の世代間のギャップがありますので数か月はかかります。それでも近い将来、F-16が実戦配備されるということになればウクライナの防空体制は格段に向上します。第二次世界大戦において日本は連合国から大規模な空襲や原爆投下を経験しました。ウクライナがロシアに占領された地域の制空権を取り戻せば戦局は大きく変わります。ウクライナが占領地域を奪還すれば力による現状変更を認めないという強いメッセージを世界に出すことにもなる。

グローバルサウスに変化が生じるか

ゼレンスキー大統領とグローバルサウスとの距離が縮まったのは大きな成果だと思います。ロシア包囲網を形成するという観点からするとインド、オーストラリア、韓国、ブラジルという参加国の選択も絶妙でした。

私が興味があるのはインドのモディ首相が事前にゼレンスキー大統領がこのサミットの会議に参加することを知っていたのかどうかです。インドは親日的な国ですので信用を損なうことはできません。モディ首相がゼレンスキー大統領と冷静に会談していた姿をみると、事前に通知されていた可能性が高いと思います。インドはロシアから武器やエネルギーの供与を受けていますので、ウクライナとの友好的な環境を築くのは難しい現状ですね。ただサミットに招待されてそこでゼレンスキー大統領と会うことになったのであれば、ロシアに対しても言い訳ができる。モディ首相はサミットを有効に利用しようとした可能性も考えられます。

ウクライナがロシアに侵略された地域を奪還する武器を持つことは戦争を終結させるために重要です。しかし、それはロシアが核兵器の使用を考えるリスクを高める面がある。ロシアの核使用を世界は許さないという声をG7だけでなくグローバルサウスも含めて上げなければならない。ゼレンスキー大統領は、「ロシアの力による現状変更を認めたらまた侵略する国が出てくる。それを防ぐためにウクライナの領土の一体性が重要だ」と繰り返し強調しています。

ロシアのほかにもう1つ、今回非常に強いプレッシャーを受けた国があります。中国です。ロシア包囲網が形成されれば、中国とロシアの密接な関係が浮き彫りになる。今年に入って中国も外交面の対応を軟化させつつある。台湾について去年は力による現状変更を排除しない姿勢を鮮明にしていましたが、今年に入ってから表現を和らげています。

G7に日米韓、クアッド、グローバルサウスを組み合わせることで、ロシアと中国にプレッシャーをかけることに成功した日本の外交は高く評価されるべきだと思います。

欧州のしたたかさに学ぶべし

サミットを通じて欧州のしたたかさを実感しました。ゼレンスキー大統領を日本に引っ張って来たのはフランスです。NATOの欧州の盟主としてのフランスの矜持が示されたと思います。マクロン大統領はつい先日、中国に行って台湾問題についてあらぬ方向の発言をしましたが、やはり今回のサミットで示された大国フランスのしたたかさには目を見張るものがあります。

G7における欧州の存在感の大きさも印象に残りました。7カ国の中にはイギリス、フランス、イタリア、ドイツの4つが含まれています。つまり7分の4ですね。それに加えてEUの大統領と欧州委員長が入っています。欧州委員長はドイツの防衛大臣経験者です。この2を加えるとサミットの9分の6は欧州によって占められています。各国のスタンスや首脳の発言を見ると役割分担をしている部分もある。世界をリードするG7の役割を考えた時に、欧州の戦略性を非常に強く感じました。

そう考えると、日本がアジアで唯一サミットに参加している意義は大きい。日本はこのポジションを重要視すべきだと思います。ヨーロッパが6を占めている中で、日本は1に過ぎないが、背負っているものは格段に大きい。今回のG7には韓国のユン大統領、クアッドのオーストラリアやインド、ASEANのベトナム首脳も来日しました。日本は事前にアジアや太平洋諸国の声をしっかり聞いて、それらの国々の声をも背負ってサミットの議長国を務めました。こうしたアプローチを継続すれば日本のG7における発言力やプレゼンスは更に高まります。

政治家の役割

サミットでは事前に各国の外務省のシェルパが準備作業を行います。その準備作業をしっかりとやり遂げた上で、各国首脳がサミットで確認するという方法が取られてきました。この方法自体も悪くありませんが、ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍事的な台頭など重要な歴史的局面においては、政治家の言葉や行動が非常に重要な意味を持つと再認識しました。岸田総理は立派に議長としての役割を果たされたと思います。

また、最後まで安全を守り抜いた全国の警察の皆さんに敬意を表したいと思います。特に極秘で進められたゼレンスキー大統領の訪日は準備が難しかったと思いますが、やりきった関係者の皆さんに感謝の気持ちを伝えたいと思います。

おわりに

歴史的なサミットを皆さんはどのように感じられたでしょうか。核廃絶に向けて広島サミットが重要な一歩となることを願っています。歴史がいつかそれを検証することになるでしょう。それを見届けたいと思います。

※こちらの記事は、Voicyの5月22日配信分をGoogleドキュメントで文字起こししたものをベースにしています。

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