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4/24(金)夜能特別公演~夜語りの会~ 終演後インタビュー

2020年4月24日(金)に配信した、「夜能特別公演~夜語りの会~」にご出演頂いた、声優・細谷佳正さんと能楽師・柏山聡子さんのアフタートークです。
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初めて能舞台に上がった感想は—
細谷「ものすごく静かで、台詞や文章を読み上げる際にも細かいニュアンスまで自分でも把握できる、とてもいい環境でした。デッドの効いたスタジオで台詞を収録するのとは違って、心地のいい反響があって、生で台詞を伝える朗読劇の環境としては最高だなと思いました。また、揚幕からゆっくり摺り足で舞台へ出て行くとそれだけで気持ちが落ち着いて、自分の心が静かになって行く感じがしました。」

祇王という物語について—
細谷「僕は、祇王自身はそんなに嫉妬に振り回されているようには感じませんでした。嫉妬というものが自分の中に確かにあるという自覚はありながらも、それを人として抑えようとする品格と人間性みたいなものによって客観的にその状況を見ているような感じがしました。『ああ、もう来てしまったんだな』という。それはすごく自分に近い気はしました。ある時間の終わりが見えた時に怖くなってあがくタイプの人間もいると思うんですけれど、そこを『来てしまったのだから仕方がない』と思える人間性というのは自分に近いなと思いました。」

細谷さんの言葉を聞いて—
柏山「非常に能の本質を芯でとらえて感じてくださっているなと伺っておりました。多分、能の物語って今生きてる人たちにとっては昔の物語だと思うんですけれども、いつの時代も共通する人間の思いとか、世の中が変わっていく中で変わらないものを、それこそ観阿弥・世阿弥のいた時代でも同じように皆がその思いを時代を超えて共有できるというのが一つの魅力なのではないかなと思います。流れてゆくもの、連なってゆくものをハートでキャッチしてそれを舞台に乗せてくださっていたことがお話を伺っていてすごくよくわかりました。同じ気持ちで舞台に乗せていただいていたんだということが今改めてわかって嬉しく光栄です。」
細谷「ありがとうございます。」

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配信という形になって—
細谷「個人的には残念という気持ちは大きくはないです。お客様にお越し頂いて上演することに越したことはないのですが、自分としては能の舞台で朗読をさせていただくということや普段から能舞台で演じられている共演者の方達と一緒に何かを作ったり、お話しさせて頂くこと自体あまり無いことなので。2020年はお客様の前で、ライブで何かを伝えていくことをたくさんしていく年にしようと思っていたんです。今回それは叶わなかったわけですが、それでも得たものは非常に大きかったです。自分が舞台に臨む上で気をつけていることは、自ら意図的に魅せに行く事をせず、観客は観る目的で来ているのだから”ただそこにいるということをする”ということで、お話しを伺いながら、能を演じられる上でも、それに近い考えがあるのかも知れないなと。そういった感覚を知ることが出来ただけでも、自分にとって本当に豊かな時間でした。こうして上演させていただけたことが本当に有り難かったし嬉しかったです。」
柏山「細谷さんの話を伺って、私とは真逆で羨ましいと思いました。本来は能楽師として『泰然自若』で常にどんな舞台であろうとお客様がいらっしゃろうがいらっしゃるまいがいつもの通りに出来なければいけないのですが、そこはまだまだ未熟で。今回は『相舞』という二人で舞を舞う、その難しさも心配していたところに、お客様がいらっしゃらないかたちで、しかも配信されるということでガチガチになりました。けれども、始まる前にご宗家が、『たくさんの方たちが配信を受け止めてくださってるみたいですよ』と言ってくださって、それをお聞きして吃驚して緊張するけれども、グググっとお力をいただくというか。その辺りから『見えないお客様』を想像して、たくさんの方が観ていてくださって、見えないけれども力を送ってくださっているに違いないという気持ちになれました。鏡の間で面をかける時に暗い中で自分の世界に、その物語の役の中に入っていくということを必ず行って舞台に出て来るのですけれども、その雰囲気をこの中に作っていただいているような気持ちがしました。」

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お客様へのメッセージを—
細谷「いろんな捉え方が、物事にはあると思っています。やはり今は大きな意味合いで言うと流れが止まっている、立ち止まっている状態だと思うんですけれども、実は僕も休業の時にそれを経験したことがあります。毎日を繰り返していると、考えることを忘れてしまってなかなか深く考えるということをしなかったなと思いました。今回多くの人たちが立ち止まらざるを得ない状況になった時に、確かにネガティヴな側面もあるとは思いますが、立ち止まって考えることができるというのは貴重なことだし、こんなことが世界で同時多発的に起こることはあまりないと思うんです。当たり前にあるものが当たり前ではなくなった後でそれが戻ってきた時に、またそれを大事にできるという感覚は、当たり前を無くした時でないと味わうことができないと思います。少しオーバーな言い方ですが、
いつもの平穏が戻った時には二度目の人生を生き直せるような感覚になる人もいるのではないかと思っています。今は自粛に次ぐ自粛で皆さんストレスが溜まっていると思いますが、だからこそ出来ることがあって、だからこそ生まれてくる感覚も必ずあるのでそれをずっと持っていてほしいと思いますし、この騒動が終わったらその感覚を持って劇場にまた足を運んでいただけると嬉しいです。また違った世界を感じられるのではないかと思いますので。」

能楽ファンの皆様へ—
柏山「このようなことになって当たり前のように会えていた方達、楽屋の皆さんも日常的に会えていたのに会えない、話せない。友達にも家族にも容易く会いに行ってはいけない。そういう心細い時を過ごしているんですけれども、だからこそ今までがどんなに結ばれていたのかと、結ばれているということを容易く感じられていたのかということを改めて感じました。これは今回の一つの大きなきっかけ、例えば能楽堂に1000人は入らないですが1000人の方達に観ていただけるかもしれないという一つの企画の形としてもしかしたら広まっていくのではないかと思いますし、逆に皆様の前で演じさせていただくということがどんなにラッキーなことなのかと改めて大事にしていきたいなと思います。今後ともよろしくお願い致します。」

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