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第11話 強くてニューゲーム! 2回目の転職活動

週刊連載の第11話です。

順調すぎる2回目の転職活動

気分転換のつもりで、仕事の合間に転職活動を再開した。

転職エージェントでカウンセリングを30分受ければ、その後はメールのやりとりだけで進めることができるので、移動中にさっと済ませることができた。

これはオフィス勤務や店舗に常駐する仕事ではできなかったので、店舗を巡回しながら働くエリアマネージャーという役割を与えられて本当にラッキーだったと思う。

止まない雨はないというか、明けない夜はないというか。ツラいと思いながら耐えた分だけ、幸運は舞い込んだ。

まず、予想通り2回目の現地での転職活動はかなり順調だったこと。
シンガポールでの就労ビザは新規取得より更新の方がずっと簡単らしい。 

勤続たったの3週間でも不利になるどころか、転職エージェントのカウンセリングでは「就労ビザお持ちなんですね!」と大歓迎ムード。

それから、エリアマネージャーという役職も効果的だった。

「ローカルスタッフを束ねる管理職のご経験があるんですか!」とますます盛り上がるカウンセリング。

そうですね、アリかナシかで言えば経験アリです。

でも実際は全然言うこと聞いてもらえないし、鼻で笑われて中国語でなにか言われてるし、必死にお願いしまくってお使いひとつ行ってもらえる、くらいのもんです。

という事実を打ち明けることもなく、ええまあ、と一言言って笑ってごまかした。

これがいわゆる「強くてニューゲーム」といわれる現象なのかも。ロールプレイングゲームでよくある、1度目の経験を全て活かせる2度目の同じルート。ものすごく順調だ。

ただし、転職エージェントが紹介してくれる求人案件は日系企業の接客業ばかり。
日本での経験、現職、そしてシンガポールにおける求人のトレンド、どれを見てもそりゃそうだよね、という印象。

担当者はプロで、私を転職させることが最優先。理想の外資系OL なんて求人情報はいくら待ってもやってこない。

前回同様、日系企業の接客業で探すしかない。だけど今回は慎重に。
ブラック企業から逃れるために、ここ以外のどこでもいいからと転職したら、さらに大変なことに…なんてこともよくあるらしいし。

幸いなことに、無職でわずかな貯金でギリギリの生活をしていた前回と違って、今は仕事も時間もある。
今すぐどこか新しい会社に雇ってもらいたいのが本音だけど、とにかくどこでもいいからって決めた仕事で消耗しまくってるのが現実。
いい経験になったと思って、今度こそ理想の職場に出会えるまでがんばろう。

気持ちを切り替えて、転職エージェントの担当者に手配してもらった面接に臨んだ。

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面接① 日系書店の店舗スタッフ

2014年6月、とある月曜日に一次面接を受けた。

内容は、シンガポール国内に4店舗ある日系書店での店舗スタッフ。レジを売ったり本を並べたり、フツーの日本の本屋さんと変わらない印象。
求められている特殊スキルは、日本人顧客に日本語で日本的なサービスを提供すること。つまり日本で働いた経験のある人ならほとんど持ってる能力で、私の得意分野だ。

そして掲示されている月収は2800シンガポールドル(約22万円)。今の仕事より200ドル下がるけど、まあいいかと思った。でも、転職=月収アップのシンガポール社会で、月収ダウンでもいいと言ってる人材でいいものなのか。

さらに気になることがあった。
実は、この求人情報は転職エージェントのサイトで何ヶ月も掲載されていて、なんていうか、怪しかった。
希望者を何人も不採用にして落とし続けて、理想のひとりをずっと待っているのか、サクラみたいな役割の求人情報で、実際には募集終了してるとか。

コレならいけそう、と求人の詳細問い合わせすると、こちらはあいにく募集終了したことろでして、と言われてすかさず新たな求人をオススメされるという一連の流れ。そういうのを予想していた。

できるものなら挑戦してみたい、大好きな本に囲まれて働く環境。でも日本では、アルバイトでも正社員でも給料安くて大変そうだったから避けていた。それがシンガポールのゆるい働き方で、しかも正社員待遇でまあまあのお給料もらえるなんて…!

そんなにうまいこといかないって。

きっと書籍に関する知識や経験豊富な人材とか求めてるんだって。
面接を受けさせてもらえただけでも、機会に恵まれたことだけでも感謝しよう。
本が好きな素人だけど、本と読書に対する情熱だけとにかくアピールするんだ。

面接官は2人。優しい雰囲気の男性と、キリッとした真面目な印象のショートカットの女性。ふたりとも30代半ばくらいの中華系シンガポール人。

現在の仕事について、普段どんな本を読むか、日本式の接客マナーについてなど、予想していた質問が続いた。
現職については、できるだけ客観的に、感情を抑えて今の仕事がツラいと正直に話した。でもそんなことより、好きな本のジャンルや、今の仕事よりも月収が下がっても問題ないか、日本人顧客の対応にはクレームも含まれるが大丈夫なのかとか、「もし入社したら」という前提の質問が多かった。

あれ? なんか前向きに検討してくださっている。
業界未経験、勤続わずか1ヶ月で転職活動中なのに、2人にはなんだか好印象みたい。「最低3年は続けないと」みたいな日本の転職基準だったらありえなかったことが起きるのがシンガポールなんだな。

30分くらいの面接の最後に「今後の水曜日って空いてる?」と面接官にたずねられ、ハイ大丈夫ですと即答。その結果、一次面接が終わって20分後に最終面接の通知が届いた。

そんなにうまいこと、いくこともあるんだなあ。
いやまだ一次面接だけど。

仕事では否定されっぱなし、バツだらけの毎日のなかで、たったひとつのマルじるしをもらえた気がして嬉しかった。

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面接② 日系飲食店のホールスタッフ兼マネージャー

翌日の火曜日に受けた面接は、開店したばかりの日本のラーメン屋さんでのスタッフ。
掲示されている月収は3200シンガポールドル(約26万円)。昨日面接した本屋さんより高いな。

面接官は見た目が若くて元気で、白いタオルを頭に巻いて黒いTシャツを着た日本人GMが1人だった。GMとはゼネラルマネージャーのことで、日本語で言うと統括部長。現地での経営や管理を全て任されている、まあ日本的ななんでも屋さんだ。
腕を組んで背景を炎にしたら、まさにラーメンチャンピオンといったインパクトのなんでも屋さん。

午後3時頃の閑散とした店内で面接。席に座って1対1で話していたら、面接というよりGMの仕事観をずっと聞く形になっていた。これが熱い語りだった。
GMは、日本国内の地方都市で有名店なラーメン屋さんでずっと働いていて、仲間たち(熱い!)と、「東京なんて目じゃないぜ」とばかりに海外出店を計画したらしい。

その第一弾がシンガポール、その次にカナダ進出を計画していて、最終目標はニューヨークとのこと。

俺たちと一緒にニューヨーク目指そうぜ!

とはっきり言われた。シンガポールのラーメン屋さんの店内の座席で。
はい、ニューヨークいいですね! と昨日につづき即答した。
まあなんか、面白そうだし。なにより、GMの話し方や人柄がいいなと思った。一緒に仕事するなら刺激があってワクワクする人がいい。

一通りの仕事に関する説明を受けて、じゃあよろしくね、と面接が終わった。
あれ? 一次面接じゃなくて、これが最終面接?

まさかのスピード内定ふたたび。
え、やだ、嬉しい。
私も仲間にしてもらえるんだ!

でもちょっと待って。
いくらやりがいがあって面白そうな職場とはいえ、これでいいのかな?

ラーメン屋さんから移動する地下鉄に乗ったところでスマホを取り出して、日本にいる友達数人とのグループチャットにふと投げてみた。

『私、ラーメン屋さんでニューヨーク進出を目指すためにシンガポールに来たんだっけ?』

いきなりなんだ、とすぐに返信が来て、面接での話をちょっと説明した。友達の返事は全員「NO」
そうか、そうだよね。話を聞いてもらうことで、落ち着いて考え直すことができた。断るのはもったいないけど、やっぱりちがうや。

次の駅で降りて、プラットフォームで転職エージェントの担当者に電話をした。
さっきラーメン屋さんから内定をもらったことと、その内定を辞退したいことをまとめて伝える。内定後15分で辞退。早くしないとどんどん話が進んじゃうから、自然とこちらの対応スピードも早くなる。

内定させることが最優先業務である転職エージェントは不満そうな声色だったけど、内定辞退を受理してくれた。
「まあ、本屋さんの最終面接もありますしね! 次もがんばってください!」というアドバイスも。さすがプロは気持ちの切り替えがすばやくていいな。

まさか勤続1ヶ月で転職できるわけがない、特別な資格も経歴も持っていないし。
そう思い込んでいただけど、実際に動き出してみたら結果は全然違った。
カウンセリングも面接でも、うまくアピールすれば評価してもらえるし、実際に内定ももらえた。

よし、どうにかなる気がしてきた!がんばろー!
翌日の最終面接、うまくいくといいなと願いながら面接対策を夜遅くまでやった。

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