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第6話 連続不採用を乗り越えて! 念願の内定

※マガジンで週刊連載の6回目です。

理想の海外転職は実現不可能?

底辺フリーターからの一発逆転を目指して海外就職を決意。2014年3月末に片道航空券でシンガポールへ飛んで、現地での就職活動。

4月と5月は面接を受けて、落ちて、泣いて、また受けてまた落ちての繰り返しだった。就職活動でよくある、「あんたなんかいらない」と自分の存在が全否定される感覚。これを絶望というのかな。

つらくてつらくて、全財産の所持金は減るばかりでそれも不安、だんだんゲッソリしてきた。

2日に1件面接を受ける、翌日に不採用連絡、まさに負のスパイラル。そんなどん底経験を1ヶ月ほど味わった。消耗するには十分な時間。

【キラキラシンガポールでゆるふわ会社員】

そんな理想を掲げて、接客業以外、脱シフト勤務の仕事を探して面接を受け続けた。

高望みしすぎたのかな、やっぱ無理かも。もう疲れてきた。日本に戻らなくていいなら、内定もらえるなら、もうなんでもいいや。

ヘロヘロになって応募したのは、日系企業の接客業。毎週求人情報が更新されていて、私が転職活動を始めたころから何度も見かける。つまり、何度募集しても人が来ないブラック企業の可能性がかなり高いってこと。

いいよ、もうどこでもいい。

転職エージェントを通さずに直接応募。エージェント通すと高額費用がかかるもんね。このあたりも中小企業のブラック感がにじんでる。

直接応募のメールアドレスに、面接希望のメッセージと履歴書を送った。すぐに返事が来て、3日後に面接が決まった。

燃え上がる仕事観と内定


面接を受けたのは女性向けのスキンケアやメイク関連の販売する日系企業で、あの頃はシンガポール国内にお店が5店舗くらいあった。

メールで指定された日時にその場所へ行くと、店舗のひとつだった。お店の奥の事務所のような狭いスペースで日本人男性と面接開始。見た目は30代くらい。

彼は荻野さん。1人でシンガポールに駐在していて、人事や店舗運営、経営などひとりで全てこなしているらしい。
面接というより、仕事に対する姿勢と壮大な夢を荻野さんが熱く語る時間だった。

うちはゼロベース思考なわけ。とにかく自分で考えて動いてほしい。
指示待ち人間はいらないんだよね。

いきなり? まあ、その考え方は好きなので同意します。
そうなんですね! と元気よく、適当に相づちを打つ。

ちょっと変わった会社と責任者だなとは思いつつも、面接モードの体と表情がハキハキと元気よく受け答えしてしまう。もう受かりたい、これ以上面接落ちたくない、という気持ちが圧倒的に心を占めていた。

店舗運営で大事なのはさ、とにかくコストカットなわけ。
内装とかも業者入れると高いから、自分たちでやるようにしててさ。

ぶっちゃけすぎじゃないか? なんとも言えずにうなずく。私の反応が気に入ったのか、荻野さんの語り口はますますヒートアップしていった。

オレにあんまり連絡しないで。好きに動いてくれたらいいから。
今は5店舗しかないけど、年内に10店舗、3年以内に20店舗まで拡大したいんだよね。
オレたちと一緒にがんばろう!
じゃ、内定!

ないてい…?

内定?

はじめて! 

シンガポールで! 内定もらえた!

荻野さんは情熱を一通り語り終えた後、あっさりと内定だと言ってくれた。
シンガポールに着いて2ヶ月ほど経過、はじめてもらえた内定。
ブラックとかゆるふわOLとか、もうどうでもよかった。私でいいと言ってくれる、私を必要としてくれる場所に出会えた。

もう面接受けなくていいし、不採用通知も見なくていいんだ!

販売職の経験はあるけど、スキンケアもメイクも全然分からない。仕事内容はエリアマネージャー。なにそれ? 具体的な仕事は不明。荻野さん流に考えると、与えられた仕事じゃなくて自分で考えて自分で行動しろってことなんだろう。

よし、この会社で、仕事がんばろう!
内定の2文字を聞いただけで、不安は全て消えて俄然やる気になった。

一気にウキウキモードに

すぐにビザ申請の手続きに入りたいと言われ、あらかじめ準備しておいたパスポートのコピーや大学卒業証明などをすみやかに提出した。

さらに、スマホないと仕事できないよね、と会社名義でiPhone 1台と電話番号をその場で手配してくれた。iPhone はぬかりなく一番安いモデルだったけど。

会社支給の携帯! 海外っぽい! エリアマネージャーっぽい! いちいちテンションが上がって嬉しくなる。

内心浮かれていたら、じゃあ後は任せた、と荻野さんはいきなりお店から出ていった。残ったのは、私とシンガポーリアンスタッフ3人。スタッフは荻野さんの突然の行動に慣れているらしく、淡々とビザの手続きについて説明してくれた。

説明してくれたスタッフがジュノ。リーダーみたいな存在らしい。ジュノ以外の2人は、荻野さんがいる間はニコニコしてまっすぐ立っていたけど、いなくなった途端にお客さん用のイスに座ってけだるそうにスマホを操作しはじめた。

おお、これも海外っぽい。でも荻野さんの前ではやらないのか。

オンとオフの切り替えの素早さに関心してじっと見ていたら、目があったけど無視された。すぐにスマホに視線を戻して何やらタップしてる。

私にはニコニコしてくれないんだな。まあ、最初だしこんなもんだよね。未経験のエリアマネージャーが歓迎してもらおうっていうのが甘い。

よーし、ばしばし働いてスタッフのみんなにみとめてもらうぞー。

ジュノに言われた通りに必要な書類を記入しおえた帰り道、ししもん師匠に内定ゲットの報告。

『おお、ついに内定? ぶっちゃけもう無理じゃんって思ってたけどなんとかなるもんだね。おめでとー』

あいかわらずグサッとくる一言が含まれてる。そっか、ぶっちゃけもう無理だったのか…。
でもなんとかなったもんね!!
内定とビザ準備の効果はまだまだ持続していて、何を言われても平気だった。
やっと働ける。しかも未経験の仕事に、海外で挑戦できる。

自分で考えて自分で動く、エリアマネージャー。決められた仕事で1日中座りっぱなしのOLよりワクワクするじゃん。荻野さんはちょっとクセがある人だけど、優しいところもある。スタッフも親切にしてくれた。きっと大丈夫!

なるようになる。悩んでもどうしようもないことは悩むのやめよう!
シンガポール政府からビザが発給されるまでの数日間は、むりやりポジティブな言葉を自分で自分に言い聞かせて過ごした。所持金は減る一方。でも働き始めたら給料がもらえる。

いよいよ働けるんだ、元フリーターが海外就職できたんだ。
ぶっちゃけ理想の仕事とは全然ちがうけど、日本で働くよりずっといい。ここまできたらやるしかない。

「じゃ内定!」

といわれた日から10日ほど経過して、私の就労ビザが正式におりた。

しかし――初めての海外就職は、日本で働いていた頃よりもずっと恐ろしい経験となるのだった。



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