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ダニエル・ピンクの本の書き方 | きのう、なに読んだ?

Tim Ferris のポッドキャストの、ダニエル・ピンクが出てる回がかなり面白かった。

Tim Ferris は起業家で『「週4時間」だけ働く』など生産性向上本の著者であり、ここ数年はポッドキャストが大人気。本は「そこまでやるか」というエキセントリックさを楽しむ面白さはあるけど、実用書としては私には合わなくて、その印象があったのでポッドキャストが人気なのは知ってたけどずっと食わず嫌いだった。

それが、何かをきっかけにひとつ聞いてみたら、超絶よかったんですよね。彼のインタビュアーとしてのスキルがすごい。ゲストは各界で活躍している著名人で、その人の仕事や人生に関する考え方、ターニングポイントになった経験、具体的な仕事の進め方、発想法やスキルを磨く方法、お勧め本などを聞き込んでいく。話が盛り上がるゲストだと2時間以上の長尺Podcastになる。毎回、全文書き起こし、話題ごとの目次、話題に出た本やウェブサイトのリンク集がサイトに出る。全部無料。ご興味あらば、リンク先を見てみてください。


ダニエル・ピンクは「ハイ・コンセプトの時代」「モチベーション3.0」などベストセラービジネス書の著者。最新刊は「When」。感想にこちらに書いてます。

で、二人の対話のPodcastを聞いたわけです。

2時間以上のおしゃべりで、内容てんこもり。前半で印象に残ったのは、ダニエル・ピンクがアル・ゴア副大統領のスピーチライターだった時の話。実際にスピーチされる様子を見ながら、原稿に1行ごとに「ウケた」「届いた」「すべった」「ついてきてない」など、聴衆の反応を書き込み、それを次のスピーチに活かしていたそう。その時の経験が今も習慣になっていて、本を執筆する時は、草稿段階からすべて自分で読み上げて奥様にきいてもらい、また奥様に全て読み上げてもらってそれを自分がきいて、推敲を重ねるんだそう。私はダニエル・ピンクの語りかけるようなユーモアあふれる文体が大好きなのですが、あれは読み上げてるからこそ生まれたスタイルなんだと感じ入りました。それにしても、奥様凄い。

後半に出て来た、読者層を想定するのに「読まない人」のことも考えるという話も、面白かった。

アメリカでノンフィクションを出版しようと思うと、まず book proposal というのを書いて、それを売り込むらしい。ダニエル・ピンク曰く、40-50ページの文書で、テーマ、それを主張できる根拠、市場の中での位置づけ/独自性、想定読者像...などを書く。

ダニエル・ピンクは売れっ子なので、プロポーザル書かなくても出版契約はすでに締結されている。それでも本のアイディアを練るプロセスで必ずプロポーザルを書く。いいプロポーザルが書ければいい本になるし、逆にプロポーザルがしょぼければその企画は本にしない。書きながら、だんだん企画の質が分かってくる。

で、ダニエル・ピンクがプロポーザルに必ず入れるのが【この本を読まない人ってどんなひと?】、つまり想定読者像の逆。

いい企画が生まれると、つい「皆が読む!」と思いがちだけど、本というのはかなり狭い層に深く入り込むタイプのメディアで、そんなことはあり得ない。「僕のお隣さんはいい人で近所付き合いもいいけれど、歴史小説と伝記が大好きで、絶対僕の本は読まないと思う」と。

誰が読まないか、は、誰が読むか、と同じくらい大事だと主張してました。

それを受けてティム・フェリスも「スタートアップのビジネスプランも全く同じ!」と賛同してました。想定するユーザー層と同じくらい、「このサービスを利用しない人」イメージを明確にするのは、大事。ティム・フェリスは、少し違う角度だけれど、スタートアップにアドバイスする時「もしこのサービスに1000人しか登録してくれないとしたら、どんな人たち?」と質問するそう。また、「サービスローンチ前にウェブサイト見てフィードバックもらえますか」と頼まれたら、想定ユーザー像を物凄く細かく(年齢性別職業年収職業住所趣味…)きき、イメージをしっかり叩き込んでからサイトを見る、という話も。

この話しをきいて思い出したのが、アダム・グラントの「Originals」で読んだエピソード。ある起業家が資金を集めるため投資家を回っていたとき、プレゼンの中に「当社に投資すべきではない、3つの理由」という項目を入れていたそう。逆説的だけれど、事業の狙いを創業者が客観視できる力があり、自信があるような印象を与えた、という話でした。

以上です。ごきげんよう。

(photo by Raul Pacheco-Vega)

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