【アーティストレビュー】少年キッズボウイという、遊び心満載&人生をも感じさせる唯一無二なバンドから目が離せない
東京に、少年キッズボウイというバンドがいる。子供や男の子を意味する単語を3つ並べたバンド名が表すように、彼らのライブは観る者にとてもわんぱくな印象を抱かせる。
メンバーは総勢8名。ただし1名はお休み中につき、実質7名で活動している。
アキラ(Vo)、こーしくん(Vo)、山岸(Gt)、GB(Dr)、きもす(Tp)、カツマタ(Gt)、服部(Ba)
※テツ(Ba)お休み中
某大学の軽音楽部出身メンバーたちを中心に、社会人として働きながらライブや音源制作等を行っている。お休み中のテツについて「脱退なんて寂しいからメンバーのままでいます」と説明しているのだが、ここに少年キッズボウイの魅力が詰まっているような気がする。
彼らを知るきっかけとなったのは、私が2020年7月の立ち上げ時から参加している新人アーティスト発信・発掘プロジェクト「IMALAB」の、注目のニューカマーを集めたプレイリストだ。そこでピックアップされた「だってTAKE it EASY」がめちゃくちゃ良い曲だった。
好きすぎて、当時のIMALAB楽曲レビューでこの曲を紹介したほど。
そして2021年11月、個人的に応援しているロックバンド・NIYOCOの対バンに彼らの名前を見つけ、初めてライブを観た。その時の感想は下記にまとめている。
このレポートにも書いているが、とにかく少年キッズボウイのメンバーたち、とくにこーしくんの、音楽愛が溢れまくっている姿に感動すら覚えたのを記憶している。ステージの上で音楽を表現する際も、フロアでリスナーとして対バンのライブを観る際も、とことん楽しむというスタンスにブレがなかった。パフォーマンス、という点においてはまだまだ伸びしろを感じさせるものがあったが、それでも少年キッズボウイという存在が強烈に刻まれたのは確かだ。
そんな彼らは、2022年以降いくつかの新曲をリリースする。
「南池袋セントラルパーク」
「スラムドッグ・サリー」
「ぼくらのラプソディー」
きもすによるトランペットが楽曲に華をもたらし、また「得体のしれない男」感のあるこーしくん(褒めてる)を筆頭に、大人数による賑やかな映像とも相まって、彼らを形容する際の代名詞ともいえる「わちゃわちゃ」「わんぱく」を体現するような活動が続く。
そんななかで、ひとつの転機になったのは、2023年3月リリースの「最終兵器ディスコ」ではないだろうか。
加藤マニ監督による映像も素晴らしく、底抜けにポップで明るく、でもタイトルにある「ディスコ」や、ポジティブではない描写も散りばめられた歌詞のせいか、「夜」のイメージが浮かぶ。落ち込んでいるとき、気持ちが沈んでいるときに、心に生まれた影をその光で消し去ってくれるような楽曲。無邪気なようでいて、実は繊細な一面もあり、そこにグッと惹かれてしまうのだ。
この曲で、フジテレビ系音楽番組『Love music』に出演し、ライブパフォーマンスを披露している。
また、同年6月リリースの「なんてったっけタイトル」は、こーしくんが「好きなものを全部混ぜ込んだ」とコメントしているように、様々なオマージュを詰め込んだ一曲。タイトルからしてすでにオマージュだが、歌詞の一部を拾うだけでも、あの歌手のあの名曲が浮かんでくることだろう。
そんな遊び心たっぷりな曲のあとに発表したのがまた驚きの一手。なんと、東京・中野駅南口にあるオシャレな小道に店を構えるBAR「麦酒大学」とのコラボソングだ。MVでは店内での飲食風景だけでなく、店主も出演。そして曲中には店主による麦酒指南のセリフまで登場する。
「中野シャンゼリゼ -麦酒大学のテーマ-」
企業や商品ではなく、またチェーン展開をしているお店ではない、中野に佇む一軒の飲み屋さんに曲を作るというアクションが心憎い。メンバーの多くが卒業した大学が私の母校だと知ったときには驚いたが(こじんまりした大学なので)、毎日のように通る中野レンガ坂のお店の歌まで作ってしまうなんて。彼らの曲が好きで聴いていたはずが、気づけば縁を感じる身近な存在として、応援するような感覚が育っているのを自覚した。
“中野レンガ坂”のフレーズが存在する楽曲は、おそらく世界中探しても現時点ではこの曲くらいなのでは。中野レンガ坂商店会にはぜひ、オフィシャルソングに指定してほしいくらいだ。
そして、今の少年キッズボウイ最新曲が「君が生きる理由」。
ゴルフ練習場を舞台にしたユニークなMVも楽しい曲だ。冒頭で“甲州街道”の文字が出てくる。作詞したこーしくんによると、これは新宿南口の歩道橋のあたりを指しているとのことだが、「南池袋セントラルパーク」や「中野シャンゼリゼ -麦酒大学のテーマ-」など、東京の具体的な地名がちらほら出てくるのも、彼らの曲の特徴かもしれない。
彼ららしい華やかなさと軽やかさを備えた太陽のようなサウンドと、弱った心に寄り添い、時に優しく、時に力強く支えてくれる月のような歌詞の化学反応が、涙腺を強く刺激する。
初めて聴いたときから、サビのこの歌詞をはじめ、あちこちのフレーズが刺さりまくってしまった。決して落ち込んでいるわけでも、塞いでいるわけでもないと思っていたのに、この曲を聴き、歌詞を味わうなかで、不思議とパワーが湧いてくるのを感じた。そこで初めて、今自分がネガティブな状態にあることに気づかされたのだ。HAPPYな気分とは少し違う種類のブチ上がり。それはまさしく生きるためのエネルギーが充填されていくような、胸の奥が熱くなる、あの感覚。
こーしくんによるセルフライナーノーツに、「生きるエネルギー」を感じたその理由が書いてあった。
楽曲のサウンド面に関する様々な「原典」についての解説もとても興味深いので、ぜひ最初から最後まで読んでほしい、素晴らしいライナーノーツ。
「君が生きる理由」は、少年キッズボウイを次のステージへと連れていく曲になるかもしれない。夜な夜なパーティに興じる人たちよりも、「喜怒哀楽」という感情を思い出せなくなってしまった人たちにこそ届いてほしい、生命力に溢れた曲なのだ。
少年キッズボウイのライブや音楽に触れると、「わちゃわちゃ」「わんぱく」と表現したくなる無邪気なオーラを感じることができる。一方で、その歌詞を読み解きながらじっくり聴き込むと、人生における様々な場面や感情が詰め込まれた、深くて濃厚な曲だと気づく。
不思議と、彼らの音楽や映像作品に触れると、映画を観たくなってしまう。もしかしたらそれは、曲の中に「人生」が描かれているからなのかもしれない。
これまでの歴史の中で生まれてきた音楽や映画といったエンターテインメント作品のエッセンスや断片を、コンポーザーであるこーしくんを中心としたメンバーたちのフィルターを通しながら、彼らのクリエイティブと融合させ新たに構築し、この世に生み出していく。
カルチャーの継承という視点からも注目したくなる、それが少年キッズボウイ。
社会人として働きながらの活動ゆえにライブ本数もそこまで多くはないが、機会があればぜひ直接、自身の目と耳と肌で、彼らの発信する「音楽」と「表現」を感じてほしい。そこには、熱血とは違う熱さがある。緩いMCや肩の力を抜いたスタイルも彼らの個性であり魅力のひとつ。そして、そんなリラックスした雰囲気のなかでも、今この瞬間を全力で楽しもうとする、そんな姿勢が伝わるステージとなるはずだ。
太陽のようなサウンドに身を委ね、頭を空っぽにして楽しむもよし。月のような歌詞を噛みしめ、感情を揺さぶられるもよし。楽しみ方は人の数だけある。
初の全国流通となる、10月25日発売の1stアルバム『少年キッズボウイ 1』。これに伴うレコ発ライブも、発売から約1ヵ月後の11月25日に渋谷 Milkywayにて開催予定だ。板歯目にインナージャーニーという、これまた今注目のバンドが集結。
今まさに羽ばたかんとする少年キッズボウイを、これからも楽しみながら応援していきたい。
■少年キッズボウイ OFFICIAL SITE
https://shonenkidsboy.wixsite.com/website
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