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流転するパズルピース

八重洲ブックセンターが閉店した、というニュースを観た。

子どもの頃は長期休みになると祖母の家に行くのが恒例だった。
常磐線を上野で乗り換え、東京駅で新幹線。
ちいさな旅はどれだけ車窓を見慣れても飽きることはなかった。

楽しかった休みが終わり、東京から自宅へ帰るときは決まって高速バスで。
八重洲南口からバスに乗り、窓からぼんやりと眺めた景色にはいつも「八重洲ブックセンター」という文字が浮かんでいた。

足を踏み入れたことがあったか否かは定かでないけれど、八重洲ブックセンターという響きに重なって、帰路の断片が甦る。
ツバメが描かれた車体、八重洲ブックセンター、夜のネオン、黄金の泡がたなびくビール会社の不可思議な建物、川面に映る夜景、トンネルのオレンジ色の光。

数年前に訪れた八重洲はすっかり様変わりしていて、なんだか気遅れしてしまったのを覚えている。

すこしずつ、いろんなものが消えては、塗り替えられていく。
毎日見ている景色が十年後は、五十年後は、百年後はどうなっているのだろう。
あの時あんな場所があった、それすらゆっくりと、ぼんやりと、そうだったかもしれない場所に変わっていく。

今いる場所をもっと隅々まで覚えておきたいと思うけれど、めまぐるしく流動する景色に置いていかれそうになる。
自分の時間と、今いる場所の時間は、重なったり、遠ざかったりしながら離れていく。

今年はもうツバメがやってきていた。








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