見出し画像

ないはある。

一度も信号に捕まらずに目的地までたどり着けた日は、何かすこしだけ特別な気分になる。

日々は毎日それほど変わらない。
そう思っていた頃があった。
今よりももっと若くて、今よりももっと時間があって。
それなのに、「ない」と感じることが多かった。

「ない」と思うことはいろんなことを見えなくさせた。
今もその頃と変わらず「ない」ものもあるけれど、「ない」ことばかりを考えなくなったように思う。

それは些細なようで、案外大きなことだった。
「ない」ところからはじまった人や、「ない」ところから生まれた人たちをくる日もくる日も見つめ続けるるうちに、「ない」ことはあまり重要ではなくなっていた。

今日は雨が降っている。
一昨日も降っていた。
けれども、一昨日は濡れていなかった葉が、今日は濡れていることもある。

赤信号で引き止められてばかりだった昨日と違って、今日は停滞なく自転車を走らせている。

もちろん、反対のこともある。
ただ反対なだけ。
「ない」わけではない。

そうやってすべて、ひっくり返ったり、微妙に角度を変えたりしながら、進んでいく。
前にいた場所とほんのすこしでも違うなら、起こることもきっとどこかしら違う。

毎日書く言葉も、毎日描く絵も、ひとつひとつが今だけにあるもの。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?