星屑マチネ

この世の誰かの日常の切り取って。 フィクションなんだかノンフィクションなんだか。

星屑マチネ

この世の誰かの日常の切り取って。 フィクションなんだかノンフィクションなんだか。

最近の記事

【短編小説】トウサク

【盗作】  他人の作品の全部、または一部をそのまま無断で使うこと。また、その作品。(大辞泉より)  「この21世紀に執筆活動を鉛筆を使ってしている文筆家は、段々肩身が狭くなってきている。  しかし、私の創作活動はいつだってこの鉛筆から始まっていた。  400字詰めの原稿用紙が私の世界、HBの鉛筆が私の人生そのものなのだーーーーー。」  最初の一文で読者を惹きつけようとしすぎて、意味がありそうでないことしか書いてない。  このあとも大して面白い展開になりそうにないし。  こ

    • 【短編小説】あわないふたり

       「今日これから時間ある?」  「もう、それやめてって言ってるじゃん。  急に言われても空いてないよ。」  「ちょっとだけ!まじでちょっと!ねっ?」  「無理なものは無理。」  「あーあ、会いたかったなぁ。」  「そう思うなら早めに連絡くださーい。」  「はーい、わかりましたー。」  「お願いしまーす。」とこっちが返事をする前に電話が切れる。  何なの、もう。  私を何だと思ってんの?  その答えは、承知している。  だけど、深いため息と一緒に頭から追い出した。  あれ、

      • 【短編小説】不倫ちゃん

         高校生のころ、現国のテストで芥川龍之介の「蜘蛛の糸」から出題された問題が、未だに忘れられない。  問.天国から地獄へ垂らした糸が切れてしまったとき、お釈迦様はどのような気持ちだったか、簡潔に答えなさい。  確か「自分だけ助かりたいカンダタを見て、浅ましく思い悲しくなった」みたいなことを書けば正解だったと思う。  でも、あたしは「暇つぶしと気まぐれ」って書いてバツにされたの。  テストを返してくれたときの現国の先生の呆れた顔、ちょいブスで面白かったなぁ。  でもさ、よく

        • 【短編小説】その選択をしたから

           世間は5月初旬の9日間もある大型連休を目の前にしてみんなふわふわと浮き足立っていた。  短大を卒業して第一志望の旅行代理店に就職した私は、研修期間にもかかわらず体調が悪いと会社に嘘をついて今ここにいる。  いや、全部が全部嘘ではない。  体調が悪いのは、本当だ。  ただ、会社の上司や同僚が想像しているような体調の悪さでは、きっとないのだけれど。   「竹川さーん、竹川美月さーん。」  看護師から名前を呼ばれた私は、鉛のように重くて怠い体をソファーから持ち上げて、のろのろ

        【短編小説】トウサク

          【ショートショート】僕の話

           僕の名前、ケンジって名前ね。  僕のママが好きなアイドルから取ったんだって。  ほら、知らないかな。  随分前に解散しちゃった、伝説のアイドルグループ。  あの、ケンジ。  ママがケンジの大ファンで、ケンジみたいなイケメンになってほしくてつけたんだって。  少しおつむが弱いでしょ。  でも、僕のこと大事に育ててくれたんだ。  溺愛ってやつ?  僕、父親がいないしね。  おつむが弱い女だったから、騙されたんだか逃げられたんだか…。  まあ、そこら辺よくわかんないんだけど。  

          【ショートショート】僕の話

          【SF(すこしふしぎ)小説】ラミステ ラパステ(後編)

           我々は、「ラミステラパステ」の出現によって、「個人としての存在」や「人間としての尊厳」を反故にされている。  「ラミステ ラパステ」を利用しない人間のそういった主張は、現代社会においては傲慢で、原始的で、野蛮だと捉えられている。  「ラミステ ラパステ」の存在が、そもそも「誰もが争わず、否定されず、博愛に満ちたものでありながら、合理的に人間の進化と繁栄をもたらすもの」なはずなのに、利用しない人間は、その恩恵は享受できない。  矛盾している。  おかしくはないか。  何故、俺

          【SF(すこしふしぎ)小説】ラミステ ラパステ(後編)

          【SF(すこしふしぎ)小説】ラミステ ラパステ(前編)

           この世は、テクノロジーによって進化と繁栄をもたらされてきた。  鳥に憧れた人間は、飛行機を作って空を飛び、山のように積まれた文献を貪り読んで、叡智を身につけていた人間は、指先一つで欲しい知識を得られるようになった。  他の動物を狩ったり植物を育てたり、自分達で火をおこし水を汲んで、ようやく食事にありつけるということも、もうない。  現在では、食材は店まで行かずとも購入出来て、スイッチ一つ押せば、火も水も思うままに操ることが出来る。  今日まで、テクノロジーの進化と繁栄は様々

          【SF(すこしふしぎ)小説】ラミステ ラパステ(前編)

          【短編小説】私は、今夜も港区女子。

           煌びやかな都会の夜景が見える、赤坂のマンションの一室に、私は今夜もいた。  部屋のあっちこっちに設置されたスピーカーは殺人的な大音量で、EDMの重低音に合わせて震えている。  室内を彩るネオンやパーティーライトの眩しさで、この部屋の良さを引き立てるためにあるはずの夜景は、ただの背景にすらなり得なかった。  決して狭いわけではないはずのこの部屋には、 年商20億円の実業家やら、若手イケメン俳優やら、何とか賞を獲得したスポーツ選手やら、ごちゃ混ぜにして一緒くたに集められている。

          【短編小説】私は、今夜も港区女子。

          【短編小説】その雫の理由

          「信じらんない!」  パタパタと俺の前髪から水滴が垂れ落ちる。  カウンター席で喧喧諤諤やり合っていた50代くらいのサラリーマン二人組も、ソファー席で男同士で抱き合ってる絵が表紙の本を読んでいるメガネ女も、ボックス席なのに二人で並んで座ってイチャイチャしてる学生カップルも、みんな女に水をぶっかけられた俺を見ていた。  信じられないのは俺の方だ。  普通、公衆の面前で人の顔にコップの水をぶっかけるかね。  あ、氷、シャツの中に入ったかも。冷てぇ。  目の前の俺に水をぶっかけて

          【短編小説】その雫の理由

          【短編小説】幸せな結婚概論

           私は今、テレビを見ながらビールを飲んで、2枚目の離婚届を書いている。  離婚とは、自分や配偶者の人生を大きく揺るがすターニングポイントであり、今後の人生を左右しかねないビッグイベントである。  それに使用する離婚届とは、とても重要で、且つ丁寧に繊細に扱わなければならない書類だ。 それは、私も十分承知している。  十分承知しているのだけれど、面白いんだかつまらないんだかよくわからないテレビ番組を見ながらでも、グラスに大量の汗をかいたビールを飲みながらでも、考えなしに何だかスラ

          【短編小説】幸せな結婚概論