見出し画像

体験は拡張する|ショートエッセイ

私はテレビドラマを観るのが好きだ。
名刺代わりのドラマ5選にも書いたが、ビンジ・ウォッチング(binge-watching)よりも、毎週の放送を楽しみにするのが好き。放送を心待ちにする時間が、3ヶ月間の「生きる糧」になるからだ。

と、なんとなくぼんやりと感じていたこの感覚を、作家・又吉直樹が言語化してくれていた。

「本を読む前に、読書はもう始まっている(大意)」みたいなことを言っていて、非常に共感できた。読む前に、スケジュールとか体調とかを万全に整えてから、読書に入るそうだ。

私もドラマの放送日には、仕事が終わったらお風呂にさっと入って、ご飯を食べて、ゴミを出してから観るぞ、とか、いやいや、ご飯を外で済ませた方がいいのか、とかそんなことを考えている。ドラマの世界に入るまでの導線をシミュレーションするのだ。
何なら、前日には掃除をして、視聴中に床のホコリとかが気にならないようにするし、グループLINEが動いていようものなら、申し訳ない、と心の中で手を合わせつつミュートにする(その後ちゃんとミュート解除しているので悪しからず)。とにかく準備は怠らない。

そうやって、楽しみにしている時間というのはむしろ、そのドラマ(映画や本の場合も)を楽しんでいる時間がもう始まっているんだなと、又吉の語る読書論で気付かされた。

それはもはや、体験が拡張していると言ってもいい。

好きなドラマだと、観終わった瞬間から来週が待ち遠しいので、私のドラマ体験はずーーっと続いていることになる。
観終わった瞬間から、もう、始まっている。


で、現在そんな風にとっっても楽しみにしているドラマが、Apple TV+の『フォー・オール・マンカインド(For All Mankind)』である。

米ソ冷戦時代、もしもソ連が先に月に着陸していたら。
宇宙飛行士だけでなく、その家族やNASAの職員、政府関係者などの人間模様も重厚に描くドラマだ。現在はシーズン3が毎週最新話配信中。

現代社会にも蔓延る女性の社会進出や人種差別、LGBTなどの問題も取り扱っていて、社会派な一面もあり、宇宙遊泳などのシーンも美しく、毎週映画並みの満足感がある。

周りに観ている人が誰もおらず、興奮を分かち合う相手がいなくて悶々としていたが、最近ではTwitterに感想を書くことを覚え(今更ながらでお恥ずかしい限り)、少ない日本語のツイートと、無理して英語のツイートを読むのも楽しみの一つだ。


これもまた、ドラマ体験を後ろに引き伸ばす方法とも言える。
工夫次第で、体験を前にも後ろにも拡張できる。

大袈裟に言えば、人生を豊かにする方法をまたひとつ学んだ。


この記事が参加している募集

また読みたいなと思ってくださったら、よろしければスキ、コメント、シェア、サポートをお願いします。日々の創作の励みになります。