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「老人と海」の読書感想文を書きたかった(後半)

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■NHKの100分de名著はすごい

それは、NHKの「100分de名著」を見たからである。
「老人と海」の映画を観るために契約したU-NEXTへいくらかお布施すれば、過去の放送分を見ることができると知り、物は試しと視聴してみたのだ。

100分で名著とは
一度は読みたいと思いながらも、手に取ることをためらってしまったり、途中で挫折してしまった古今東西の“名著”。この番組では難解な1冊の名著を、25分×4回、つまり100分で読み解いていきます。プレゼン上手なゲストによるわかりやすい解説に加え、アニメーション、イメージ映像、朗読などなど、あの手この手の演出を駆使して、奥深い“名著”の世界に迫ります。案内役は、タレントの伊集院光さんと、安部みちこアナウンサー。偉大な先人の教えから、困難な時代を生き延びるためのヒントを探っていきます!

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/
公式サイトより引用

上記の通り、25分×4回の100分で作品の理解を深めよう!というのがこの番組のコンセプトであるが、「老人と海」は、「ヘミングウェイ特集」4回のうち2回で完結するので、110円×2回=220円で視聴することができた。
以下に、この番組を見たことで得た知識の一部を箇条書きする。

・ヘミングウェイは、メディアの力によって男らしくマッチョな作家として広く知られているが、幼い頃、母親から双子の妹として育てられ、男性にも女性にもなりきれない時期が長く存在した。力強い文章の中にも、弱く繊細で女性的な表現があるのはそのためである
・ヘミングウェイは、高校卒業後に半年間新聞記者見習いとして働いた経験があり、その際「文は短く。最初の段落は短く。気持ちの入った言葉を使え。自信を持って書け。逃げ腰になるな。ムダなことは全部削れ」と教育され、その教えを生涯守り洗練させていった。彼の「難しい言葉を使わなくとも、深く美しい文章を書く」能力はその経験から生まれている
・老人と海が掲載された全国誌「ライフ」は、48時間で532万部(!)を売上げ翌週には単行本が出版された
・出版された1952年はキューバ戦争が始まる前であり、「老人と海」の最後の場面で出てくるアメリカ人観光客は、事の本質を全く理解していないアメリカ人へに対する痛烈な風刺であった

などなど、作品を読むだけでは分からない、バッググラウンドを知ることができた。
この情報はググればわかることかもしれない。しかし、少なからず古典に苦手意識を持っている初学者が、それらの背景が作品のどの部分と繋がっているのか、というところまで理解できるだろうか。
……少なくとも私には理解できなかったはずだ。Fラン卒で地頭が悪い私を舐めてもらっては困る!

そんな私でも「老人と海」回は終始興味深く視聴することができた。
なにせ、アメリカ文学のプロ(都甲幸治)、読書初心者の代表でありしゃべりのプロ(伊集院光)、司会のプロ(阿部みちこアナ)、演技のプロ(寺脇康文)、そして、天下のNHKが様々な手法を駆使し、全力で視聴者を理解させにくるのだ。
それでもその作品に興味を持てなかったのならば、そもそもその作品とは縁がなかったのかもしれない。盲目的にそう信じてしまえるほど、抜群の安心感がこの番組にはある。

ニューロマンサー特集はよ

■「老人と海」は面白かった

視聴が終わり、興奮した気持ちはそのままで、改めて新潮版に挑んでみた。
なぜ老人は一人で漁に出ている間、やたらとひとりごとを呟くのか。そして本当に大切なことは決して口に出さないのはなぜか。
それを理解しながら読み進めると、「え、サンチアゴ意外と格好良いところあるじゃん……」と、初読とは正反対な感想を持ったのである。

■同じ作品を共に語る楽しみ

そして次に、文芸部部員の読書感想文を読んでみた。
実は、部員の感想文は投稿のお知らせが来たらすぐ読んでいたのだけど、作品の背景を知る前は、(なんか凄いことは分かるけど、具体的に何が凄いのかよく分からん!)という、失礼極まりないスタンスで読んでいた。
それが、物語を理解した後にもう一度読んでみると、どこが気に入ったのか、明確に指し示すことができるようになったのだ。
同じ作品を読んで、どこに発想を飛ばし自分らしさを出すのか。教養というのはこんなところに滲みでてしまうのね。
……と、気づいてしまったので、ますます読書感想文は書けそうにありません!!!責任取って!!
しかしながら、本をここまでじっくり読んだのは初めてで、このような体験をさせていただいたことに、ただただ感謝している。
こういう読書体験の積み重ねが本当の教養になっていくのかもしれないね。

■まとめ

そんなわけで、読書感想文は書けなかったけれど、気づくと私は「老人と海」に対し、親しみと愛情を持つようになっていた。
相変わらずサンチアゴに共感はできないが、なぜこの作品が今でも世界中で愛され読み続けられるか、は理解できるようになったと思う。

〜了〜

■みなさんの記事

最後に「読書感想文の練習」の企画に参加していただいた方の記事へのリンクを載せておきます。
「老人と海」を一緒に楽しんでいただき、ありがとうございました。

ヌマさん:読書感想文「老人と海」
https://numamemo.hatenablog.jp/entry/2022/10/23/222608


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