見出し画像

魅力度ランキングに、僕は怒っている

僕は、明快に怒っている。

件のランキングで、出身地が最下位評価をつけられているからではない。多くの人たちが、この得体の知れない調査に一喜一憂しているからだ。本来序列がつけられない(つけられるべきでない)事項に対する違和感を、特にマスメディアの人たちは気付かないといけないと思う。

メディアに取り上げられ、この調査結果が広がれば広がるほど、調査元であるブランド総合研究所の名前は売られていく。彼らは「(これだけ全国的に知られた)魅力度ランキングの調査元ですよ」という「バリュー」を土産に全国各地で講演やセミナーを開く。その結果として「ブランド戦略の理解・普及活動、戦略立案などを担当するほか、ブランド力を高めるためのPR、調査、テストマーケティング、コンサルティング、商標管理などの専門業務」という商品が買われることになる。

なるほど、巧妙なマーケティングである

*

予めことわっておくと、僕はブランド総合研究所のことを知らない。もしかしたら彼らは、本当は「良いこと」をしているのかもしれない。彼らに対して怨嗟や個人攻撃の思いはない。

僕には発信力や影響力はない。

だけど「この調査が一人歩きしている」現状を、看過したくないと強く思った。問題点を指摘することで、もしかしたら健全な反響が生まれるかもしれない。生まれないかもしれないけれど、このnoteを読んだ少数の方々が「確かにおかしいよね」と共感してくれたら嬉しい。

魅力度ランキングというおかしな序列づけが、来年以降サッパリ消えてくれたら本望だ。そんなことを期待しながら、筆を取った。

問題点は3点ある。

──

1. スコアの妥当性が低い(序列への納得度が低い)

ひとえにランキングと言っても、序列の付け方は様々だ。

ミシュランは星(1〜3)をつけるが、店の1つ1つに順位はつけない。一方でプロ野球では勝敗(勝率)に応じてチームに順位をつける。シーズン終了時に全く同位にならないよう細かく運用ルールも決められている。

*

都道府県の「魅力度ランキング」は、後者に近い。同位もあるが、基本的には1〜47位まで明確な順位をつけている。順位は以下のように決められている。

提示した地域名に対して「どの程度魅力的に思うか」を質問し「とても魅力的」から「まったく魅力的でない」までの5段階評価で回答してもらい、そのうち「とても魅力的」と「やや魅力的」と各地域を「魅力的」と回答した回答者割合のみを反映し、それぞれ選択肢に付与した点数(重み)を加重平均したものです。
魅力度 = 100点 × 「とても魅力的」回答者割合 + 50点 × 「やや魅力的」回答者割合
(地域ブランドニュース「都道府県の魅力度等調査結果(地域ブランド調査2020)」より引用)

指摘したい点は幾つもある。

例えば、この「100点」「50点」という配分は誰が決めたのだろうか。この部分を「100点」「75点」にするだけで順位は変動する。

また5段階評価であれば「普通」「あまり魅力的でない」「まったく魅力的でない」の割合も算出されるはずだ。上位の都道府県が「まったく魅力的でない」の割合が極端に高いとも限らない。そうした場合にもスコアには反映させない。

この運用ルールは妥当だと言えるだろうか。

※2020年以外の調査についてはスコア算出方法の記載が見当たらなかった。僕が見逃しているだけかもしれないが、現時点で、同じポリシーで算出しているかどうか不明瞭だ。

2. 都道府県の魅力を「ランキング」にすることはできない

スコア算出方法や基準は調査元が規定することで、外野がとやかく言うことではない。またPRの一貫として「ランキング」形式が世の中の耳目を集めるツールとして「効果的」であることは間違いない。そう言われれば、前項のロジックは破綻する。

ここでは「調査」の目的に立ち返りたい。

確かに調査項目をもとに、スコアなどに無理やり定量化することはできるかもしれない。だけど、これほど価値観が多様になってきた社会の中で、47都道府県それぞれが持っている魅力を数値換算することにどんな意味があるのだろうか。「うちの県は、この点は全然魅力じゃないけど、この点はすごく好きなんだよね」というポイントは無数に出てくるはずで、それを一概に「北海道は1位、栃木県は47位」と評価をくだすのは乱暴ではないだろうか。

*

そもそも、ランキングが有効なのはどんなときだろうか。

僕は「順位を決めることが求められる(スポーツの順位、お笑いコンテストなど)」または「明確に順位として認識しうる(CD売上ランキングなど)」に限定されるべきだと考えている。

魅力度ランキングは上記に該当しない。井戸端会議で議論されるならまだしも、多くのメディアで大々的に報道されるほどのニュースバリューはない。これが「国別の魅力度ランキング」だったら国際問題に発展するわけで、それこそ調査元が所属する「国」は赤っ恥をかくことになるだろう。(そういったネガティブな可能性を秘めている序列づけであることを、誰もが認識すべきだ

*

余談だが、TOEICやTOEFLが算出するスコアは極めて精緻だ。加重平均という単純な代物ではない。

テスト結果は合格・不合格ではなく、リスニング5~495点、リーディング5~495点、トータル10~990点のスコアで5点刻みで表示されます。 このスコアは正答数そのままの素点(Raw Score)ではなく、スコアの同一化(Equating)と呼ばれる統計処理によって算出された換算点(Scaled Score)です。
(【公式】テスト結果について|TOEIC Listening & Reading Test|【公式】TOEIC Program|IIBCより引用)

要は、これまでのアーカイブや各国や地域のテスト結果を参照した上で統計処理が加えられて、誤差も加味した上での「換算点」として結果が出るということだ。

スケールスコアなわけだから、スコアが650、655の人がいたときに、655の人が優れているとは(少なくとも運営元は)見做していないということだ。

3. 倫理的な問題、センシティブな影響を加味していない

これほどセンセーショナルに取り上げられてしまうと、多くの方がランキングを知ることになる。その結果、不要で無用な劣等感や優越感が生じることにはならないだろうか。

例えば、メディアリテラシーが十分でない子どもにとって。「僕らの県は、隣の県に比べて劣って(優れて)いるのだ」と考える / 思い込むことは容易に予測がつく。劣等感や優越感が過度になると「ねたみ」「そねみ」に繋がり「いじめ」が起こる。

こんな現状が放置されていて良いのだろうか。

*

僕の場合でも、友人知人との間に、

・「最下位だね、ご愁傷様」「さすが最下位の県だね」
・「最下位になっちゃったねえ。まあうちらの県って、あんまり魅力ないからなあ」「●●県に比べたら魅力的だと思うんだけどな、おかしいなあ」

といった類の言葉が交わされていた。

言っている側も、言われる側も、悪意なく冗談を言い合っているだけだ。

だけど悪意のない冗談が、本物の悪意に繋がることもある。こんな調査を真に受ける必要などないのだが、大人であっても自らが不当な評価を受ければ、反論したくなるのが当然である。

不要で無用な劣等感や優越感、敵対心など生じてほしくない。そして調査元やマスメディアにそれなりの想像力があるのならば、各都道府県で地域貢献に尽力している当事者の気持ちを汲んでほしい。

もちろん、実際に改善する点は多々あるのだろう。

だが、こんな調査に頼らずとも、住民や観光者に直接話を聴くことで十分なはずだ。こんな配慮に欠くコンテンツとまともに向き合っていたら、消耗戦に陥るだけだし、結果として魅力度ランキングの存在が無闇に広がってしまうだけだ

──

結論、僕が求めることは3点だ。

① 調査元は、今後一切、ランキングという形でのリリースを出さないこと
② メディアは、それがニュースバリューがあるのかを適切に判断し、読者の影響も加味した上でのコンテンツを作ること / あるいは「取り上げない」という判断をくだすこと。バラエティ番組などでもランキングを取り上げないでほしい
③ 一人でも多くの人がメディアリテラシーを高めること / また「おかしい」と感じたコンテンツに対しては異を唱えること

*

最後に補足です。

僕自身、怒りの表明をnoteでするのは本意ではなかった。どんなことにも心血注いでコンテンツを作ろう / ものを伝えようとする人がいる。どんなことにもリスペクトの気持ちを持てる自分でありたいと思っている。

だが、冒頭にも述べた通り、僕は明快に怒っている。

違和感という言葉だけで、その思いを十分に表現できなかった。noteを読んで気分を害する方がいるとしたら、それは僕自身の言語化の至らぬ部分(=力不足)によるところだ。予めお詫びを申し上げたい。

記事をお読みいただき、ありがとうございます。 サポートいただくのも嬉しいですが、noteを感想付きでシェアいただけるのも感激してしまいます。