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暗闇こそが、明かりになる。(樋口智巳『映画館を再生します。』を読んで)

火災によって焼失した映画館が、地元の映画ファンや商工会、俳優たちの支えによって復活を遂げる。

映画とともに、映画館をも愛する人たちにとっては必読の一冊だ。

『映画館を再生します。〜小倉昭和館、火災から復活までの477日〜』
(著者:樋口智巳、文藝春秋、2023年)

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福岡県北九州市で80年以上の歴史を誇った映画館「昭和館」。2022年8月に火災に巻き込まれ、貴重な資料とともに建物が焼失。「小倉昭和館」として復活を決意する、三代目館主の樋口智巳さんの葛藤が「聞き書き」の形で書籍化された。

「映画はサブスクで」という時代背景を語るまでもなく、映画館の経営が厳しいというのは周知の事実だ。

東京でも岩波ホールや渋谷TOEIなど、歴史ある映画館が軒並み閉館している。採算ギリギリだった映画館を火災によって失い、「よっしゃ、再建するか!」なんて並の覚悟で言えないことは痛いほどよく分かる。

本書でも、樋口さんの葛藤(主に弱音)が何度も記されている。先代、先々代から受け継がれ著名人からも愛されてきた映画館。「つくられることで、こわれるものもある」と、緊張のあまり医師から精神安定剤を処方されたエピソードは、読んでいて苦しくなった。

本書は樋口さんの悩みや葛藤もリアルに描かれているが、決して希望がないわけではない。映画館再生を決断するに至る樋口さんは、何度も「映画館の役割とは何か?」「自分しかできないことは何か?」を考え抜いていた。

彼女の覚悟があったからこそ、周囲のサポートを集められたというのは紛れもない事実であろう。

作家の田中慎弥さんは、昭和館80周年に向けてこんなメッセージを寄せたそうだ。

八十周年という年月を実感するのは難しいが、暗闇の中で映画に浸る数時間であれば私にも分かる。分かりすぎるほどだ。働きもせず、勉強もせず、将来がどうなるか全く見えていなかった頃、私は、何度も小倉昭和館の暗闇に救われた。ささやかな、確かな救済だった。その時、暗闇こそが私にとっての明かりだった。野蛮で優雅な明かりだった。これからも、人知れず悶々とする誰かの明かりであり続けてくれるように、と切に願う。

(樋口智巳(2023)『映画館を再生します。〜小倉昭和館、火災から復活までの477日〜』文藝春秋、P39〜40より引用)

改めて言うのはくすぐったい気もするのだが、僕は映画館が好きだ。

物語に触れ、映像や音楽に没入し、些細な一言が琴線に触れる。凝られた伏線回収にスカッとした気持ちになるし、背筋も凍るようなバイオレンス描写に胸焼けを感じ、ばかばかしいメタファーに大笑いする。

そんな経験ができるのも、映画館の「暗闇」が穏やかな気持ちをもたらしてくれたからだろう。自宅テレビのスクリーンやスマートフォンの画面では、決して再現できない「明かり」であろう。

2024年3月現在も、きっと映画館の経営は大変だと思う。

でも僕が小倉を訪ねることがあれば、復活した小倉昭和館に足を運ぶつもりだ。すぐに駆けつけることができなくとも、物理的な距離が離れていようとも、映画の愛や暗闇への信頼を口にする樋口さんの「形」を、これからも応援したいと思うのだ。

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この本を読んで思い出したのが、地元の映画館だ。

小倉昭和館には及ばないものの、僕の幼少期にオープンし、今でも現役の映画館として地元の映画ファンに愛されている。僕も帰省するたび映画館に足を運んでいるが、作品によっては客足が寂しいことも。微力ながら、映画館維持のためにこれからも通い続けようと思う。

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