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少年法のない世界、想像してみませんか?

 1989年に起こった通称「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の加害者の1人とされる人物が埼玉県川口市で殺人未遂で逮捕された事件で、少年法がまた話題になっています。
 中には「少年法は再犯防止に役立っていない。少年法を廃止しろ」という人もいるので、ここでちょっと考えてみましょう。

少年法が存在しなくなったら、具体的に何がどうなるのでしょうか。

少年法がなくなったら何がどうなるの?

 細かい話は省いてわかりやすくいうと、少年法が廃止された場合、14歳以上は原則として大人と同じ刑罰を受けるようになります。(ただし少年法と関係なく、日本も批准している子どもの権利条約の関係で、18歳未満の未成年を死刑にすることはできません。)

 少年院は、少年法24条1項3号に定める保護処分を行うため少年を送致する施設ですから、少年法がなければ当然、少年院に行くこともなくなります。

少年院とはどんなところ?

 例えば15歳や16歳の年齢の少年少女が、振り込め詐欺、覚せい剤所持、強盗などで逮捕された場合を考えてみましょう。

 現在の少年法のもとでは、これらの少年少女は、家庭裁判所の調査官(心理学・教育学の専門家)の調査を受けたうえで、少年審判という手続の中で処分が決まります。家庭裁判所は、少年を処罰するためではなく、将来の成長や立ち直りのため必要と判断した場合は、少年院に送致する決定を行うのです。少年院に送致されないケースももちろんありますが、ここでは立入りません。(法務省の参考サイト

 少年院は刑務所のようなイメージで見られがちですが、下記の画像(法務省パンフから引用)を見ると、むしろ強制的に拘束される中学校や高校に近いということがわかると思います。
 将来のことを考えて就労支援さえやってくれるのが少年院ですが、刑務所はここまでしっかり個人個人の面倒をみてくれません。

少年法がなくなれば、少年院のかわりに刑務所

 さて、少年法がなくなってしまえば、この手続がそっくり消えてなくなり、大人と同じになるわけで、まず通常の裁判所(普通は地方裁判所)に起訴され、大人と同じように刑事裁判を受けて、有罪とされれば(場合により執行猶予を付されることはありますが)、刑罰としては刑務所で服役することになります。
(もっと正確にいえば、比較的軽い犯罪の場合は、罰金刑で終わるケースや、そもそも起訴猶予でお目こぼしになるケースもあります。そういう場合は何のケアも教育もなく、ただ単に放置されるだけです。)

 刑務所で数ヶ月~数年服役して、刑期が終わればそのまま出所して社会に戻ってくるのですが、刑務所はそもそも教育施設ではなく懲罰を与える施設であることに注意しましょう。懲役刑の場合は、工場での強制労働が待っています。少年院のように個々人の成長や将来の社会復帰に配慮したきめ細かい教育や支援を行ってくれるわけではありません。
 下記で刑務所の1日の例を法務省パンフから引用してみましたが、さきほどの少年院の例と比べてみて下さい。

罪を犯した少年を刑務所に入れるのが良いのか?

 現在の少年法の考え方は、思春期の少年を刑務所に放り込んで単に刑罰を与えて、そのまま社会に放り出すというのでは、本人の改善や社会復帰にとっても、また社会の全般的治安にとっても望ましくないので、刑務所ではなく教育施設(少年院)で、本人の人格的成長や反省を深め、就労支援まで含めた丁寧な教育を行って社会に戻すべきだという発想に基づいています。

 少年法を廃止しろということは、この考え方を全部否定して、普通に大人と同じように刑務所に入れろということを意味するのですが、たとえば15歳や16歳の思春期の少年を、少年院ではなく刑務所に放り込んだら、出てくる時にはどうなっているでしょうか?

少年院ではなく刑務所に行っていた女子高生殺人の加害者

「でも、凶悪な事件を起こした奴はどうするんだ。女子高生コンクリ殺人犯のような連中はどうすればいい?」と言われるかも知れません。
 冒頭の話に戻ると、今回川口市で逮捕された人物は、事件当時16歳だったようです。

 実はこの人物は、そもそも少年院に送致されていないのです。少年院での教育や就労支援を受けることなく、いきなり刑務所で数年服役し、そのまま出所していました。
 少年法でも一定の重大な犯罪を犯した者は、例外的に家庭裁判所の少年審判ではなく通常の刑事裁判を受ける制度があるのですが、この人物もその扱いを受けたということになります。

いつかは社会に戻ってくることを考えてるか?

 この問題には特効薬はありません。今回の加害者とされる人物が、女子高生殺人事件のあと、刑務所ではなく原則どおり少年院に送致されていたら、もっと改善されていたかどうか、それは誰にもわかりません。
 ただ、少年法を改正しようと廃止しようと、犯罪を犯した人は、大人でも少年でも、死刑や無期懲役の場合を除いて、いつかは必ず社会に帰ってくる、という現実を忘れてはなりません。少年法を改正・廃止すればみんな社会から消えてなくなるというわけではないのです。

#社会

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