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一般女性と皇族との結婚は、日本国憲法の重大なバグである件

天皇・皇族には保障されない基本的人権

 天皇・皇族に一般国民と同じようには基本的人権が保障されていないのは、誰もが知っています。これを「天皇・皇族には人権そのものがない(=国民とは別枠の存在であり、身分上の特権や義務だけがある)」とみるか、「天皇・皇族も国民の一員であって、人権はあるが、制限を受けている」とみるかは解釈が分かれますが、いずれにしても一般国民と違う扱いであることは疑いはありません。
 日本国憲法では14条で平等原則を定め差別を禁止していますが、1条から8条では世襲による象徴天皇制やそれに伴う様々な特別扱いを定めているので、天皇・皇族が国民と異なる扱いになることは、憲法そのものが自ら認めているわけです。

「皇族と結婚して皇族になる人」の人権は?

 ここで一つ、厄介な問題が出てきます。それは「皇族と結婚して、新たに皇族となる人」の問題です。
 現在の皇室典範では、一般国民の男子は皇族女子と結婚しても、皇室入りすることはなく、逆にその皇族女子が皇族の身分から外れることになっています。ですから、皇族と結婚することによって皇室入りするのは、一般国民の女性だけということになります。(なお「血縁関係の離れた皇族同士の結婚」も制度上はありえますが、ここでは触れません。)

皇族と結婚すると、なぜ基本的人権の保障がなくなるのか?

 先ほどの議論からすると、皇族と結婚した一般国民の女性は、国民として受けていた基本的人権の保障を失い、特殊な身分としての制約を受けることになります。
 このことはあまりにも当然のこととして誰も触れてこなかったのですが、憲法の条文から見た場合、これは実はまともに説明をつけるのは困難なのです。
 もともと生まれつき皇族だった人は、この世にあらわれた最初の瞬間から、一般国民とは「違う」のですから、「生まれた時から基本的人権がない」ということで一応は説明がつきます。
 これに対して、一般国民の女性が、結婚によって基本的人権の保障を受けなくなるという事態は、どのように説明したら良いのでしょうか。

「生まれながらの不可侵の権利」の保障が、なぜ結婚によってなくなるの?

 基本的人権は、人が生まれながらにして当然に持っている権利であり、不可侵とされています。そうだとすれば、一般国民の女性が皇族と結婚すると、どうして「生まれながらにして当然に持っている不可侵の権利」を失うことになるのでしょうか?

自己責任で基本的人権を放棄?

 これについて敢えて理屈をつけるとすれば、「皇族と結婚する女性は、自分の意思で結婚して皇室入りするのだから、人権を失うのも自己責任」という説明が考えられます。
 これは、基本的人権とは自分の意志で放棄できるものなのかという点がまず疑問になってきます。「私は自分の意思で基本的人権を捨てます」と言えば、捨てることができるのでしょうか?例えば自分の意思で奴隷になることができるかといえば、それは無理でしょう。

自己責任をいうなら、説明責任と明確な同意が求められるはず

 仮に自分の意思で基本的人権を捨てることを認めるとしても、そのためには、どのような基本的人権を捨てることになるのか、どのような不利益があるのか、十分な説明を受けて、そのうえで判断したものでなければならないはずです。

 権利を捨てたと見なされるには、自分がどのような権利を捨てることになるのか、ちゃんと説明を受けてわかったうえで決断して同意なければならない。当たり前の理屈です。十分な説明や情報を与えられて、はじめて自己責任原則が成り立つのです。

人権放棄の「同意書」や「重要事項説明書」が必要では?

 以上のことからすると、皇族と結婚する女性には、「どのような人権が失われるのか」「どのような不利益があるのか」について、同意書や重要事項説明書のようなものを交付して、それに署名押印してもらうことが必要だと考えるべきではないでしょうか。
 美智子上皇后や雅子皇后が結婚した際に、そのような書面が交付されたという話は寡聞にして聞いたことがありません。
 後日問題になることを避けるため、今後は「人権放棄同意書」「重要事項説明書」の交付をするべきでしょう。

旧宮家復帰などでも同じ問題が・・

 なお皇位継承問題で、旧宮家や皇別摂家の男系子孫の男子に皇室に戻ってもらうべきだという意見もあります。ここでも当然、同じ問題が出てきますが、当然、同意書や重要事項説明書は必須ということになります。

 旧宮家や皇別摂家の子孫の人々も、現在は生まれつき基本的人権を保障された一般国民なのですから、まったく同じ問題が起こるわけです。

憲法のバグとしての「結婚による基本的人権の保障喪失」問題

 以上まとめると、「天皇・皇族の基本的人権」については、生まれつき別な身分だから元々人権は存在しない(制約される)などの理屈で説明されてきたのですが、「結婚によって新たに皇族になろうとする人の基本的人権」の問題については、なかなか厄介であることがわかります。元々持っていたはずの不可侵の基本的人権を、結婚によってどうして制限または喪失させることができるのか。
 その場合、基本的人権が失われることについて、本人に対して国が十分説明する責任があるのではないか。
その説明を受けたうえで本人が同意の意思表示をしなければならないのではないか。
 そういう問題です。

結婚問題が語る皇室の孤立状態

 なぜこのような問題が起こるのかといえば、現在の日本の皇室の結婚相手は、もはや「基本的人権を持つ一般国民」しかいないからです。前近代は公家や大名の女性、さらに戦前は華族階級の女性が皇族の結婚相手となっていたのですが、そのような特殊身分は、もうどこにもありません。

 現在の日本国は、「基本的人権を持つ一般国民」の圧倒的多数の中に、皇室だけが取り残された飛び地のように残っている状態なのです。
 そしてその皇室が出産によって存続していくためには、基本的人権を持つ一般国民の女性に皇室入り(=要するに「嫁入り」)してもらわなければなりませんが、そのためには、「皇室入りすることによって、理論的には不可侵であるはずの基本的人権を捨てさせられる」という問題が出てきてしまうのです。

 これまでそのような問題がおおっぴらに議論されていなかったのは、単に世間が「国民の基本的人権」を深く考えていなかったからというだけでしょう。

「皇室制度は男女差別だ」という主張の本当の意味

「現在の皇室制度(または天皇制)は、男女差別だ」という批判がされることがあります。これは「皇族男子は天皇になれるのに、皇族女子は天皇になれないから、差別だ」という意味に受け取る人が大半でしょう。

 しかしこれに対しては「皇族はもともと一般国民とは別枠なのだから、皇族の中での男女平等は考える必要がない」という反論がありうるでしょう。本当の意味は、そんなことではなく、別なところにあります。

 「皇室制度が男女差別だ」という本当の意味は、一般国民の男子は皇族と結婚しても基本的人権を奪われないのに、一般国民の女子は、皇族と結婚すると基本的人権を奪われてしまう、ということなのです。

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