ココロザシナカバ~壮絶な自分史~ 第12話/60話:「高校生活」
【ここまでのあらすじ】
岩手→練馬→川口→浦和→茨城・・・と住まいを転々としてきた阿部家。
父の酒とギャンブル好きが原因で、貧乏で夫婦けんかが絶えない。
家計のために小学生からバイトで稼ぐ長女まゆみ(私)が
中学生になり、恋をし、好きな人と同じ高校を選んだが・・・。
クラスのほぼ全員が公立を受けていた。
発表のあと午後は中学校に来て、担任に試験結果の報告をするのだ。
昨日あんなに泣いていたのに、ケロっとした顔で集まってくるクラスメイトたち。そんな中、意中の岩ちゃんも合格していてほっとした。
こうして私たち3年11組の生徒は、それぞれの道に進んで行くのである。
私が合格した高校まで15キロはあったと思うが、自転車で通学した。
高校で岩ちゃんと同じクラスにはなれなかった。
私がインテリジェンスなせいで、特進クラスに入れられたからだ。
まあ良い、同じ校舎にいるのだから。
それに私は岩ちゃんが入った野球部のマネージャーになったのだ。
いまだ交換日記が返ってこないことが聞けずにいたが、なんとなく、
聞いたらはっきりとした答えを言われそうで怖かった。
その頃の毎日は、部活がある放課後が待ち遠しくてたまらなかった。
マネージャーは私のほかに2人入った。
ひとりは同じ中学で隣のクラスだったケイちゃん。
背が高くて美人でバレーボールが上手だった。
彼女がバレーボール部に入らなかったことが気にかかったが、あまり話したことがない子だったので聞かないことにした。
そして2ヶ月ぐらい経ったある日の帰り道。
私は見てしまった。
岩ちゃんとケイちゃんが一緒に帰っていく後ろ姿を。
それは明らかに付き合っている2人の後ろ姿だった。
何がそう思わせるのかは知らないけど、とにかく間違いなく付き合っていると分かった。
私は自分がどうやって学校から帰ってきたのか覚えていないぐらい動揺して、混乱した。
片思いをしていただけだったのに、岩ちゃんに裏切られたような気分だった。そしてケイちゃんに対しても一方的に怒りがこみ上げた。
私の方が先に好きだったんだと、勝手な理由で怒っていた。
しばらく学校を休んだ。
家にも帰らなかった。
あの高校に進学した理由は、岩ちゃん以外に何もなかった。
だから学校に足が向かなかった。
とにかくショックだった。
1週間ほどして、泊めてもらっている友達の家に親が迎えに来て、私は連れ戻された。
どう説得されても学校に行く気になれなかった。
欠席が続いたものだから、とうとう岩ちゃんまで心配で家に来てくれた。
でも家には来て欲しくなかった。
私の家がどんなとか、
きょうだいがいっぱいいるとか、
母がデブっちょとか、
ぜんぶ知られてしまう。
だから家の前の道路で立ち話をして、とっとと帰ってもらった記憶がある。
嬉しさよりも恥かしさが勝ったのだ。
岩ちゃんは「何があったか知らないけど、とにかく学校に来いよ。俺で良ければ相談に乗るからなんでも言いなよ。」と優しさ全開だった。
そういう男だ、鈍感で優しい。
「分かった。」と、ここまで来てくれた厚意に対して小さく返事をした。
でも次に学校に行ったのは、中退する手続きをするためだった。
1年生の夏休み直前のことだった。
つづく
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