教科書を読む「ごんきつね」⑥
担当しているTBSラジオ「生活は踊る」で
朗読の指導をさせてもらいました。
今回は「雨ニモマケズ」。
沢山の方が研究されているし
有名な俳優さんも朗読されている詩なので
読み方は無限にあります。
でも何度も何度も口にしていると
自分なりの思いが溢れて
一遍の詩は書き込みで真っ黒になるのです。
いつか「雨ニモマケズ」も
朗読解析したいです。
そして「ごんきつね」です。
解読していく事に新美南吉愛が高まります。
それでは始めて参りましょう。
十日ほどたって、ごんが、弥助やすけというお百姓の家の裏を通りかかりますと、そこの、いちじくの木のかげで、弥助の家内かないが、おはぐろをつけていました。鍛冶屋の新兵衛の家のうらを通ると、新兵衛の家内が髪をすいていました。ごんは、「ふふん、村に何かあるんだな」と、思いました。
「何なんだろう、秋祭かな。祭なら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが」こんなことを考えながらやって来ますと、いつの間まにか、表に赤い井戸のある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、こわれかけた家の中には、大勢おおぜいの人があつまっていました。よそいきの着物を着て、腰に手拭てぬぐいをさげたりした女たちが、表のかまどで火をたいています。大きな鍋なべの中では、何かぐずぐず煮えていました。
前からの文章にたっぷり間をとって「十日ほどたって」としっかり独立させてください。たってのてを、てっとちゃんと破裂させるといいと思います。
「おはぐろを付けていました。」「かみをすいていました。」は同じリズムで読み、並列にします。弥助の家内のお歯黒も、新兵衛の家内の髪梳きも、いろんな情景を見るというプロセスをあえて踏ませている。新見南吉にまた惚れてしまう一文です。「兵十の母が死んだ」という事実にじわりじわりと近づけていくのです。
兵十の「その小さな、こわれかけた家の中」も決して豊かでない兵十の家をごんに認識させなくてはならないのでゆっくりと大事に読んでください。ごんの目線でスピードを合わせるのです。
「ああ、葬式だ」と、ごんは思いました。
「兵十の家のだれが死んだんだろう」
お午ひるがすぎると、ごんは、村の墓地へ行って、六地蔵さんのかげにかくれていました。いいお天気で、遠く向うには、お城の屋根瓦やねがわらが光っています。墓地には、ひがん花ばなが、赤い布きれのようにさきつづいていました。と、村の方から、カーン、カーン、と、鐘かねが鳴って来ました。葬式の出る合図あいずです。 やがて、白い着物を着た葬列のものたちがやって来るのがちらちら見えはじめました。話声はなしごえも近くなりました。葬列は墓地へはいって来ました。人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。
ごんはのびあがって見ました。兵十が、白いかみしもをつけて、位牌をささげています。いつもは、赤いさつま芋いもみたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。
前段にある「ふふん、村に何かあるんだな」①「何なんだろう秋祭りかな」と後段の「ああ、葬式だ」②「兵十の家のだれが死んだんだろう」は呼応しています。情景を見ながら一つ一つごんがわかっていくんです。悪い予感がほんの少しづつ生まれながら真髄に迫るにつれて疑問ももう一つ強くなっていく。ですから①は軽い疑問、②はゆっくりと考えながら誰がにテンションをかけるといいかと思います。
お昼が過ぎると〜なんだかしおれていました。は一気に読み進めたいところです。六地蔵の陰から見るごんの小さな視界の画角の中ですーっと絵が動いていくイメージです。淡々と他の文章よりも1.2倍速の読みで。最後の「きょうは何だかしおれていました。」の一文もしおれるとう言葉に引っ張られて寂しく読む必要はありません。ここまで同じリズム、間、です。
「ははん、死んだのは兵十のおっ母かあだ」
ごんはそう思いながら、頭をひっこめました。
その晩、ごんは、穴の中で考えました。
「兵十のおっ母は、床とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっ母は、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」
それまで同じリズム、間で淡々と読んできたからこそ、立ち上がるのがこの「ははん。死んだのは兵十のおっかあだ」です。ははんの出し方も何通りもあります。ははとんの間に小さいアを入れ込めば同時に考えている音にものなります。ここではまだ盗んだうなぎとの因果関係はわかっていないのですが、思考は展開していくのです。
頭をひっこめるの時も、もうすでに何か引っかかっているのですから、強く出すのでなく、悩みながら発声してください。この時点で、あれ俺なんかやっちゃった?という兆しがあるのです。
そして穴の中で考えるです。アナと出してあげてください。一人で狐が考えている感じがアナだけで表現できます。
そしてごんが考え始める「兵十のおっかあは〜」の部分後半に向かって、クレッシェンドしていきます。この勝手にどんどん思考が膨らんでいく感じが、この後のごんの行動の原動力になるのです。本当はどうなのかわからないのに思い込んでいくごん。ああそうに違いないと人が思う時の被せ方の勢いと一緒です。
ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。は吐き捨てるよりも、もしや死ぬのに加担したのかもという不安と後悔をのせたいので、むしろ文末に向かってデクレッシェンドでしょうか。
今日は会社で本業の仕事がいろいろあって。 帰ってきても事務作業がいろいろあって。
ヘトヘトで書き始めたのは24時でしたが、
1日の最後に楽しい時間でした。
ではまた。
2020・05・13 TBSアナウンサー堀井美香