副区長OB天下り先への補助金を考える【なぜコロナ5類移行後も杉並区独自の病院補助金が続いたのか】
一度始まった補助金が漫然と継続され、社会環境が変化しても適切な見直しが行われないことは、過去にもしばしば確認されてきました。
これはポスト・パンデミック時代に入っても同じでした。
2023年(令和5年)5月、新型コロナウイルス感染症/COVID-19は、5類感染症に移行し、その扱いは季節性インフルエンザと同じになりました。
これによって、程なく他区の全てが区独自の病院補助を終了させていきました。
しかし、杉並区だけは、その後も長く区独自の病院補助を続け、特に2023年10月以降に支払われた経営継続支援事業補助金は、その75%が副区長OBの天下り関係先に対する支払いとなっていたのです。
杉並区は、感染法上の5類感染症に移行した後も(杉並保健所による患者の全数把握などが終了したにもかかわらず)、特定病院に対する区独自補助を長く継続させていたのです。
コロナ緊急事態(当時)においては必要だった区独自病院補助金
新型コロナウイルス感染症の国内発生・感染拡大に伴う区独自の病院補助金は、2020年に緊急事態が宣言された時期には、緊急性・必要性がありました。
もともと入院を要する医療行政は広域行政を担う都道府県の事務です。
しかし、2020年当時その対応を待っていたのでは医療崩壊の懸念があり、病院経営を支えるための緊急措置として(時限的に)区独自に対応することとなったものです。
その後、国や都の支援制度が整うようになりました。2類相当の感染症であったことから、国の責任において対応が図られたのです。
「5類感染症」になるとは?
「季節性インフルエンザと同じ5類感染症になった」という意味を整理すると、次のようにその要旨をまとめることができます。
1)行政介入の法的根拠が消失
外出自粛要請などの法的根拠がなくなった
杉並保健所長による入院勧告その他強制力ある措置(強制入院措置)を講じる法的根拠もなくなった
2)個人判断による感染対策への移行
外出や就業は個人及び事業者の自主判断に(居住移転の自由の完全保障)
マスクの着用なども個人及び事業者の自主判断に
3)医療体制の変更
医療費負担の法的根拠が失われ、通常の保険診療(1~3割負担)に戻った
広域医療に責任を持つ東京都が病院に関与することはあっても、個別の症例事案に対し区独自に関与する根拠はなくなった
4)保健所による管理体制の終了
杉並保健所(杉並区)による患者の全数把握が終了し、通常の定点観測に戻った
受診制限などが原則解除されるとともに一般の医療機関での受診も可能に
他区は5類移行によって区独自病院補助を終了
季節性インフルエンザと同じ5類感染症に移行した理由としては、
発生初期に比べて重症化リスクが低下したこと
国や都の支援で医療体制の整備が進んだこと
治療薬の開発や予防接種が進むなど、効果的な治療法や予防策が確立されてきたこと
感染対策の知識が広く普及蓄積され、各個人・各事業者の自主判断による対応が可能になってきたこと
などの理由がありました。
これらにより、行政機関が特段に関与する仕組みは終わり(行動制限などを伴う強い措置は不要となり)、通常の取組に移行したわけです。
この移行により、広域医療に責任を持つ東京都が病院に関与することはあっても、個別の事案に対して区独自に関与する根拠はなくなりました。
5類移行後、区レベルの独自補助が次々に終了したのは当然のことでした。
しかし、杉並区では、なぜかそのような判断にはならず、5類感染症になっても2類感染症の時代と同様に区独自の病院補助が長く継続され、しかもそれが特定病院を利する形で運用されていたのです。
杉並区独自の病院補助金は、なぜか5類移行後も2024年3月まで続いた
新型コロナウイルス感染症に係る各区の独自補助は、区によって若干内容が異なっていましたが、医療機関に対して入院者の受け入れや休診休業が発生した場合に区独自に補助金を支給するものが中心となっていました。
2類相当の感染症であった2023年4月時点において区独自補助を継続していたのは、東京23区のうち4区(板橋区、世田谷区、新宿区、杉並区)でした。
その後、2023年5月、新型コロナウイルス感染症は5類に移行します。
5類移行により、各種行政介入の法的根拠が失われる中、杉並区を除く3区は独自補助を順次を終了させていきます。
板橋区は5月に補助終了、世田谷区は6月に補助終了、新宿区は9月に補助終了となりました。
ところが、杉並区のみが新たな補正予算に追加経費(下半期分の補助金)を計上するとともに、2024年3月まで漫然と区独自の病院補助を継続させたのです。
追加補正された補助金の実態:下半期分の75%が河北系2病院に集中的に補助されていた
5類移行後、杉並区のみが長期にわたり単独で深刻な事態を見せていたようなエビデンスはどこにもありませんでした。
なぜ、このような不自然な補助を長く続ける必要があるのか、私は当時の補正予算に反対した後も関心が尽きませんでした。
そこで「杉並区新型コロナウイルス感染症に係る区内医療機関に対する休業期間経営継続支援事業補助金」について詳細を確認してみたと、2023年4月から2024年3月までの間、この補助金を受けていたのは、2類相当の時代を含め6医療機関に過ぎなかったことがわかりました。
このうち5類移行後、補正予算で追加経費を計上した後の下半期(10月から3月まで)に当該補助金を受けていたのは、3病院のみとなっていました。
この3病院のうちの2病院は、河北博文氏が理事長を務める2病院(河北総合病院・河北前田病院)でした。
下半期支給分の実に75%が、この2病院への補助となっていたのです。
入院患者受入加算事業の実績数値を確認したところ、2024年3月までの1年間に最も多くの感染者を受け入れていた区内の病院は、立正佼成会附属佼成病院となっていました(同病院は2024年3月末に事業譲渡され、現在は杏林大学医学部付属杉並病院となっています)。
なお、2023年度上半期に経営継続支援事業補助金を受けていた3つの医療機関(佼成病院含む)は、5類移行後の下半期には当該補助金を全く受けていませんでした。このあたりは決算審査でも話題にしています。
不自然な補助延長は、副区長OB天下り先への配慮ではないのか
折しも、その河北氏が理事長を務める河北医療財団(河北総合病院ほか)の顧問に吉田順之氏が就任していた事実が明らかになりました。
吉田順之氏は、杉並区の元副区長です。田中区長時代に一般職(技術系)から副区長に就任され、2022年に田中区長が選挙に落選すると、落選した前区長とともに退職されました。
前区長の任期満了日である2022年7月10日付で、副区長としての任期を約2年を残して退職されたのです。
副区長であった吉田順之氏は、もともと1級建築士です。
阿佐ヶ谷駅北東地区まちづくり/土地区画整理事業(主たる地権者は、河北医療財団、相澤氏、杉並区)などを担当していました。
総合病院などを持つ医療財団の顧問に1級建築士を起用する事例など聞いたことがなく、極めて異例の人事です。
現区長の就任後に着任した現在の杉並保健所長(医師)もまた同様に、このような事例は個人的にも聞いたことがないと述べていました(杉並区議会2024年10月8日決算特別委員会)。
不思議でなりません。この人事は、不自然な「区独自病院補助の延長」と本当に何の関係もないものだったのでしょうか。
直接の利害関係先に堂々と天下りした元副区長
繰り返しになりますが、顧問に就任した吉田順之氏は、かつて杉並区の副区長として、土地区画整理事業が進んでいる阿佐ヶ谷駅北東地区まちづくりを直接担当していました。
河北総合病院などを擁する河北医療財団(河北博文理事長)は、当該事業における地権者のひとりであり、再開発を含むJR阿佐ヶ谷駅北東地区まちづくりの将来に強い利害関係を有しています。
顧問就任は、おそらく副区長OBとして、杉並区の内情及び内部事務に精通していることを買われたものでしょう。
副区長は、政治任用の特別職であるため、退職管理(再就職規制)の対象となっている一般職とは異なり、退職後にどこで何をしていたとしても、原則として咎めを受けるものではありません。
しかし、自ら直接担当していた事務事業に係る利害関係先の顧問に就任したことについては「強い癒着」が疑われても仕方がないものです。
「不自然に延長交付された補助金」と「元副区長の顧問就任」は本当に何の関係もないものだったのか
2023年5月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、感染法上2類相当の感染症から、季節性インフルエンザと同じ5類感染症に移行しました。
その後、他区でコロナ対策の区独自病院補助が終了する中、杉並区では補正予算に追加経費を計上してまで長く区独自の病院補助を続けました。
この間、杉並区という狭いエリアのみで激しい感染拡大をみせていたようなエビデンスは存在しません。
なぜ、このような不自然な対応を図る必要があったのでしょうね。
前述したように、延長後の経営継続支援の75%が河北系2病院に対する補助であった事実などを踏まえると、あえて河北系の病院のために補助期間を延長したのではないか?と受け止められても仕方がありません。
不自然に延長交付された補助金と元副区長の顧問就任は、本当に何の関係もないものだったのでしょうか。
いつも応援ありがとうございます。2025年も地味に地道に調査活動を続け、議会活動を充実させていきます。
2025年が、みなさんにとって希望に満ち、実り多き年となりますように。