杉並区独自の補助金(総額3億円)を2億円の経費をかけて配った話【支給1件当たり経費3万円超】
杉並区の令和5年度(2023年度)決算の審査が終わりました。
その中から、今回は中小企業光熱費高騰緊急対策助成事業(区内の中小企業などに対し光熱費の高騰を踏まえて配った補助金)の決算状況について紹介しましょう。
この補助金事業は、光熱費の高騰を大義名分として、杉並区独自に総額3億円の補助金を経費2億円をかけて配ったというものです。
区内の中小企業対策として独自補助金を配ったわけですが、皮肉なことに最も収益を上げたのは業務委託を受けた大手企業J社となって終わったのです(特命随意契約)。
最終的に補助金給付1件あたり3万円超の経費をかけていた事実が判明しました。
1)1件あたり約3万4千円の経費をかけて補助金を配った計算に
新型コロナウイルス感染症/COVID-19は、2023年5月に感染症法上の5類に移行し、季節性インフルエンザと同じ扱いになった一方で、コロナ禍に始まった臨時給付・補助金は、2023年度中も続きました。
例えば、2023年度においては、杉並区で新たに「中小企業光熱費高騰緊急対策助成金」を配ることが決定され(現金給付)、区内中小企業等の光熱費を一部補助する事業が打ち出されました。
その決算額は、次のとおりです(令和5年度杉並区一般会計歳入歳出決算)。
決算額5億1,078万2,000円のうち、補助金の支給総額は3億1,008万3,000円に過ぎず、2億69万9,000円が事務経費などに使われていました。
これに対して中小企業等(個人事業主を含む)への助成件数は5,772件でした。
単純計算では給付1件あたり約3万4千円の経費をかけて補助金を配ったことになります。
支給状況の内訳を確認すると、この補助金を支給した事業者全体の61%が個人事業主だったことがわかっています。
支給基準では、個人事業主など「自宅兼事業所」となっている方に対する補助金の支給額は3万円が上限でした。
つまり、1件当たり3万円を超える支給経費をかけながら「3万円以下」の補助金支給に終わった事業者も少なくなかったのです。
今回の実施結果(上の表)については、杉並区産業振興センターが意図的に「3万円未満」「4万円未満」などと公表しているため、非常にわかりにくくなっています。
「自宅兼事業所」に対する助成金額の上限3万円については「4万円未満」のところに含まれている点にご注意ください。
この件に限った話ではないのですが、最近の「見える化」は、見せ方に作為のあるものが少なくないですね。
2)省エネ効果を一切評価しない「一過性のばらまき補助金」の限界
この補助金事業は、コロナ禍を生き残ったものの光熱費の高騰に苦慮している中小企業などに格別の補助金を支給するという事業でした。
省エネ配慮行動の有無など経営努力は全く評価対象とはなっておらず、単に光熱費の上昇のみに着目して支給する「一過性のばらまき補助金」でした。
前向きに補助金を申請する側の立場で考えてみれば、煩瑣な事務処理を経てわずかの一過性給付を受けたところで、今後につながる抜本的な経営改善に結び付かなければ意義を感じないはずです。焼け石に水では事業活動への持続可能性もありません。
杉並区から(委託事業者から)一方的に申請書類を送り付けるなどしたにもかかわらず、それでも申請が伸び悩んだ原因はここにあったと受け止めるべきでしょう。
杉並区には約2万の事業所が存在します。これを受けて区は最大1万7,480件の補助金申請を想定して支給事務体制を構築していましたが、申請期間を2倍に延長したにもかかわらず最終的な助成件数は5,772件に終わっています。
補助金給付のために2億円もの経費を要する結果となったのは、あまりにも補助金申請の数が伸びなかったために、申請期限を2カ月延長したため(追加経費が必要となったため)との説明が行われています。
業務委託を受けていたJ社はウハウハだったことでしょう。
補助金申請が伸びなかったことが問題視されるどころか、さらに追加経費を受けて事業を続けることができたのです。
結果は見るも無惨で、総額3億円の補助金を配るために2億円もの経費を使う結果に終わっています。
当初から本事業の実施に反対していた私としては、もはや怒りを通り越して言葉を失うしかありませんでした。
戸別訪問(個別訪問)なども行われていたようで、そのなかには議員などがやってきて補助金を申請するよう熱心に宣伝していった事例もあったと聞いています。
区の執行判断もさることながら、そこまでしても思うように申請が伸びなかった事実こそ重く受け止める必要があるというべきです。
このような対処療法が費用に見合った効果を持続的に生み出すことは難しく、そのことが再確認されたといえます。
3)一方で、本年実施された省エネ効果の高い冷蔵庫・エアコンへの買い替え支援は早々に予算上限に達した(令和6年)
令和5年度に実施したこの光熱費助成は思うように申請が伸びず終了となりましたが、その一方で、令和6年4月1日から申請を受け付けた「杉並区省エネ家電買換促進助成金」については、あっという間に予算上限に達しました。
申請が殺到し、開始からたったの半月(16日間)で予算上限に達したのです。
こちらの補助金は、省エネ効果が低い(多くの電気代がかかる)古い冷蔵庫・古いエアコンの使用者に対して、省エネ効果が高い(継続的に電力使用量を抑制できる)冷蔵庫・エアコンに買い替えることを支援する助成金でした。
なお、こちらの事業の業務委託先は、J社ではありません。
4)省エネ効果に見合ったメリハリある支援に転換することで、その成果は中長期的に持続可能になる
冷蔵庫やエアコンは、一度購入すると中長期にわたって使用されますが、10年前の製品と最新製では省エネ効果・温暖化抑制効果が全く異なります。
技術革新に応じて買い替えを後押しすれば、中長期的に電気代が抑制されるのみならず温暖化の抑制にもつながるなど、環境に対しても優しい結果を生むのです。
EBPM(エビデンスに基づく政策形成)の観点からも、ワンショットのばらまきで漫然と電気代を補助するのではなく、省エネ効果に見合った支援に構造転換を図ることが重要でしょう。
今後、令和6年度の決算が明らかになった段階で、この事業についても全体像を確認していく予定です。
5)相次ぐJ社への業務委託 過去5年間に総額94億円 大半が特命随意契約
コロナ禍以降、臨時事業の実施が相次ぎ、臨時給付金・補助金の支給も相次ぎました。
杉並区では、それらの事業の数々が、なぜかJ社にばかり業務委託されていました。
感染拡大のピーク時は仕方なかったとしても、あれやこれやと5年にもわたって安易に特命随意契約を続けてきているのは問題です。
先に紹介した区内中小企業向けの光熱費高騰緊急対策助成金(杉並区中小企業光熱費高騰緊急対策助成事業)もJ社に業務委託されていました。
これも入札は実施されず、特命随意契約でした。
区内の中小企業対策として約3億円をばらまきましたが、これに対して約2億円もの経費をかけた結果、最も収益を上げたのは区外の大企業J社であったというのは、皮肉なことです。
この間、議会審議を通じて確認してきたところですが、区側がこのJ社と締結した契約の総額は、決算年度までの過去5年間(令和元年度〜令和5年度)に私費会計を含め94億円を超えていることが明らかになりました。
単独1社に対する発注額としては極めて高額です。しかも、その大半が特命随意契約によるものだったのです。
6)J社は談合認定で公正取引委員会から排除措置命令を受けた
本年5月30日、J社は、公正取引委員会から独占禁止法3条違反で排除措置命令を受けるに至っています。
これを受けて、政府の各機関及び地方自治体も、相次いで指名停止措置(入札参加資格を一時的に停止する措置)を発表しました。
公正取引委員会は、J社ほか4社の法令違反(不当な取引制限)を問題視し処分を行った一方で、自治体の発注方法(入札方法)についても疑問を呈していました。
このような談合が行われた背景として、地方自治体の発注方法にも問題があるとの認識が同時に示されたわけです。
杉並区とJ社との契約については、入札さえ実施されず、ひたすら随意契約を続けていたものが大半で、その総額が過去5年間で94億円を超える事態となっていたものです。区は、この事実を冷静に受け止め、今後の措置を判断する必要がありました。しかし…
7)J社への指名停止期間は、練馬区6カ月に対して、杉並区は2カ月に終わった
公正取引委員会の排除措置命令を受けた各自治体の対応(入札参加資格の指名停止期間)については、各自治体の個性が強く表れています。
例えば、J社については、練馬区で指名停止6カ月とされたほか、政府機関その他多くの自治体で指名停止4カ月とされていました。
これに対して、杉並区がJ社に課した指名停止期間は、わずか2カ月で終わっていました。他自治体に比べ極めて短い期間で終了となったのです。
8)補助金(総額3億円)を2億円もの経費をかけて配った事実は、単に「甘い見通しで事業を進めてしまった」というだけでは説明がつかない
談合(独占禁止法違反)認定を受けて実施される各自治体の指名停止措置は、地方自治法施行令の規定を根拠に実施される措置です。
他の自治体に比べて極端に短く終わった指名停止期間は、いったい何を物語っているのでしょうか。
杉並区が令和元年度から令和6年度現在までに(公正取引委員会による排除措置命令を受けた段階までに)総額100億円超の契約を締結していた相手方(J社)の独占禁止法違反に対して、区が極端に甘い判断を示している事実がよくわかるのです。
長く安易に特命随意契約を続けたうえに、他自治体に比べあまりにも軽い措置で終了させてしまうようでは「背景に官製談合でもあるのではないか」との疑いを持たれかねません。
補助金(総額3億円)を2億円もの経費をかけて配った背景に何があるか、単に「甘い見通しで事業を進めてしまった」というだけでは説明がつかないのです。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
引き続き不毛な党派対立とは一線を画し、地味に地道に調査活動を続けることにより、議会での問題提起に繋げていきます。