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地方移住を成功させるほんとうの方法「ツーステップ移住」?

たまたま目にした、地方移住がらみのこんな記事を読んだ。2つあるのは前・後編だから。

掲載元の「現代ビジネス」のアクセスランキング上位に入っているので、みなさんが気になるタイトルだったのだろう。もちろんその「みなさん」の中に僕も入っていて、と言うのも、僕は20年ほど前に東京から青森市に引っ越してきた移住者だからだ。この手のネタはとりあえず読むようにしている。

この記事に限らず、移住ネタをいろいろ読んできた中でいつも思うのは「何かがずれてる」ということ。そのずれが「何か」について、考えてもずっとわからなかったし、でもその「何か」の中に移住をどうやったら成功させられるかどうかのカギがあるような気もしていた。

僕自身は、移住成功者の中のメンター的な人の発信の中に微妙に反発をおぼえるほうだ。僕がひねくれた性格だからなのだろうが「私は成功しました」的なマウンティングっぽい感じも少し受けるし、「こういう心構えが必要なんです」的な圧も感じる。ただ、仰っていることには一理あるような気もしている。

なんだか、世の中がいつの間にか移住について「成功させなきゃいけないビジネスモデル」的な捉え方をするように変わってしまったように感じる。確かにお金がかかることではあるし、上の記事に書かれているような「迷惑な人」が移住してきたらお互いにとって不幸なのもわかる。

とは言え、人の人生なんていろいろあるし、逆にメンターの人たちが言ったようなやり方でやったらうまくいかない人だっているだろうし。その辺のもやもやした気持ちについては↓の記事で書いた。

職探しやインカム確保についてはしっかり考えておいたほうがいいだろうけど、その他もろもろ、住環境や人間関係などについては正直「行ってからしかわからない」「なるようになる」としか言えないのではないかというのが僕の意見だ。そんなものへの対応方法は、事前には準備できない。

あと「移住先でコミュニティにうまく溶け込んで新しい友達ができ、自然にも囲まれて楽しく暮らしてます」という成功例も、「地元の人のコミュニケーションが気に入らず仲も険悪になり結局出て行くことにしました」という最悪の例も、レアケースだと思う。どっちもそんなにないって、というのが20年近く地方都市で暮らした印象だ。

書籍やPVを稼ぐ記事に仕上げるにはどうしても「わかりやすい例」というのが必要なのはわかるけれど、そんなわかりやすい成功例も失敗例もそうは起こらない。内容を批判するつもりはないが、どっちかと言うと稀少なパターンのほうを書いている、ということは頭に留めておいて欲しい。

ほとんどの移住者はそのどちらでもないという感じで、移住後の日常を過ごしているんじゃないかな。僕のまわりにも遠い土地から青森市に越してきた人がちらほらいるけれど、この街に対して好きなところも嫌いなところも両方あるって感じの人がほとんどだ。つまり、成功でも失敗でもない。

そこまで考えてきて、何がずれているのかだんだんわかってきた。地方への移住という行動のイメージが、「大都会→自然がすごく豊かな田舎」に固定されていることに違和感があったのだ。

僕が20年近く住んでいる青森市は県庁所在地で人口が30万近い。都会、と呼ぶにはさびれているし、山も海もあるけれど自然そのもののど真ん中にあるわけではない。ほどほどに市街地の雰囲気と自然に囲まれた場所ののんびりした空気をハイブリッドした感じだと言ってもいいと思う。

誰かが移住問題を書く時に金太郎飴的にテンプレネタになっている「移住先での人間関係」的なやつも、青森市クラスの都市だとやはりハイブリッド。首都圏や政令指定都市のような感じでもなければ、山や海や田園に囲まれたほんとうの田舎ほどの密なコミュニティでもない。

大都市に比べれば近所の人と顔を合わせることも多く、あいさつなども多いが、だからと言って「この土地なりのやり方」に否応なく飲み込まれるほど独自のコミュニケーションがあるわけでもない。ちなみに僕の住んでいる地域は田んぼに囲まれた住宅地で、青森市内全般で見ると中心部からははずれた辺りにあたる。

ほんとうに、ふつうの人としてふつうに人と接する程度のコミュニケーションで充分に対応できるし、それで何も問題は起こらない。青森市に住む僕の場合、ご近所さんの親類なんかに農家の人がいる場合があって、りんごやにんにくなんかをいただくこともあった。

しかし全然ひんぱんではないし、数年の間に確かお隣さんに数回くらいいただいて、2,3回お返ししたくらいだったと思う。ひょっとしたら若干失礼だったのかもしれないが、だからといって村八分になったりあいさつされなくなったりとかもない。その程度のゆるいつながりだ。

プライバシーの点でも、お隣さんのことはご夫婦プラスお子さん、くらいのことしか知らなかったし、向こうもうちがペアで住んでるくらいしか知らないだろう。

あと、僕は正直スキルとしてのコミュ力はあるほうだが、人とのつながり的なことをまったく求めていない人間なので、ベースとしてはあまりコミュニケーションを積極的に取りたがるほうではない。青森市くらいの地方都市の人間関係は、そんな僕にとってもわずらわしくない程度のものだ。

逆に言うと、ここくらいの関係ですら嫌だと言う人はたぶんどこでもやっていけないような気がする。

また、これくらいの規模の街だとあいさつやらおすそわけやらもやはり人によるところがあり、新しいお隣さんは会うとにこやかにあいさつをするくらいの仲だが、前のお隣さんみたいに何かをくださったりすることはないし、また別のご近所さんの時々やってくる息子さん?のような男性はこちらがあいさつしてもスルーだったりする。人それぞれだ。

さて、長々と青森市の例を書いてきたが、何が言いたいかというと、都会から地方への移住にあたっての「ミスマッチ」は、人間関係がどうとかコミュニティのあり方がどうとかではなくて、

住む人がほとんどいない大自然メインの集落にいきなり移住する

ことにあるような気がするのだ。僕がずっと感じていた違和感は「何でみんないきなりすごいところに引っ越してしまうんだろう?」ということだったのだ。

地方移住成功者の「地元のコミュニティにとけこまなきゃ」とか「人間関係大事に!」みたいな、何かを言っているようで実はあまりはっきりしたメソッドでないもの(あくまで個人の感想です)を参考にするより、これから書くことを参考にして欲しいなんてちょっと思っている。それはつまり、

いきなり大自然で人の少ない集落に引っ越すのはやめる。

まずその地域の比較的中心的な都市に引っ越してからゆっくりと「地方の空気感」に慣れる。

そのあと当初の目標だったところに引っ越す。

つまり都会→田舎ではなく、都会→地方都市→田舎というツーステップ移住だ。ワンステップだから厳しいのだ。

僕は青森市に来ることで地方都市の水になじめたと思っている。やっぱりそれは大都会とは違うものだ。さらに田舎に住みたい人なら、この辺の規模の街で肩慣らししておいたほうがいいと思う。

でも僕ならこの街の人間関係のあり方がちょうどいい感じだし、もともと田舎暮らしがしたいわけじゃないから青森市に留まるわけだ。これが移住先がたとえば田子とか小泊とかだと、僕のようなひねくれものにとって、つらい移住になったかもしれない。その土地が悪いのではなく、いきなり行くからだ

ツーステップ移住だと、いきなり移住のように「頑張ってその土地に合わせるか、出て行くか」みたいな選択肢を突き付けられることなく、地方の空気に自分を慣らしつつ先のことを余裕を持って考えられるのでは。

また、そのエリアの中でいちばん人が集まっている街に住むことで、多少なりとも地元の人とのつながりもできやすいだろうし、もっと田舎に引っ越してもそれは活きるだろう。

また、僕が移住の成功例・失敗例のどちらを読んでもしっくりこなかったのは、そのどちらを読んでも「田舎って難しい」的なニュアンスで書いているというせいもある。

確かに田舎には独特の人間関係、濃いコミュニティがあるんだろうけれど、単に「いきなり移住する」というミスマッチのせいでしかないのに微妙に悪者にされてるのが、地方側に住む身として何となく納得いかなかったのだ。

そして、そのせいで移住成功メンターさんの書くことが「その難しい環境を乗り越えた自分」みたいなニュアンスを醸し出してしまうのかも。ご本人には決してそんなつもりはないだろう。

僕はただ青森市に仕事が決まった相方に「ついてきた移住」してきただけの人間だから、なんの方法論も持ってはいないのだけれど、ただこの街が自分なりに気に入って暮らせているのだけは間違いない。

なぜそういうふうになれたかと言うと、都会でもなく田舎でもない街に住んだからだと思う。どちらでもない街で暮らすことで、ゆっくり気持ちを地方暮らしに慣らすことができたし、自分なりの好きを育てられたのだ。

移住には、そういうステップが必要なのかもしれない。移住を考えている方、まずは地域の中心都市(青森県における青森、八戸、弘前的な)に引っ越してゆっくり考えてみませんか?

(おわり)

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