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私選・デザインが楽しい図書館

*投げ銭制なので無料で最後まで読めます*

僕は今、青森県の津軽地方をメインに発行されている陸奥新報という新聞に「図書館ウォーカー」というエッセイを連載しています。

図書館ものというより旅ものエッセイで、あまりまじめには図書館紹介をしていません。

エッセイで触れるのはその図書館がある街の風物だったり、図書館に至るまでの道すがらの情景だったりするのですが、図書館そのものについては建築デザイン面に注目していることが多いです。

なぜかと言うと、この連載のコンセプトはあくまで「旅人が図書館を楽しむには」であり、デザインなどヴィジュアル面はすぐにジャッジできるし、価値が伝わりやすいからです。

ここから少しまじめな余談です。

個人的に、普段使いできない「よその人」がその館のサービスの質について正確に評価するのは難しいと考えています。一方で、良い図書館であるかどうかの判断基準に「来館者数」「貸出冊数」などのわかりやすい数字を挙げるパターンも多いです。

図書館紹介本やウェブサイトなどで、そういう「入館者○万人」とか「貸出冊数○○冊」という数字が書かれていることもありますよね。でもあれってそうした媒体において必要なデータなのでしょうか。

と言うのも、その本なりサイトなりでその図書館をはじめて訪ねてみようと思った旅行者にとって、何の意味もない数字の気がするのです。そこでどれだけたくさん資料が利用されていても、利用者が多くても、ちょっと行ってみるだけの人にはあまり関係ないですよね。

そうした数字(&数字に表れにくい図書館サービスの質)が価値を持つのは、その図書館を利用するということが日常の一部になっている地元住民に対してだけだと思っています。

また、ちょっとまじめなことを言うと、獲得ポイント的にそうした数字を表記することは「数字が稼げることが良い図書館の証」的に勘違いさせてしまう可能性もなくもないんですよね。こういう「積立型」の数字を根拠にしてしまうと、小さな「街の図書館」とか太刀打ちできなくなります。でも、小規模館でも良い図書館はたくさんあるはずです。そういう図書館の良さは、数字では測れません。

図書館を広く浅く紹介する目的でこれまで関心がなかった層にターゲティングしたウェブ記事や書籍は、いっそその手の数字を書かなくても良いのではと思ったりもします。僕が連載で、旅行者がパッと見でわかるような面白いポイントばかり書いているのは、そういう意味合いもあります。

地元の人しか評価できないようなポイントは連載内では意図的に割愛していますし、かえって図書館理解を妨げてしまうようなわかりやすい積立型数字にも触れていません。はい、余談終了です。

ではでは、本題に行ってみましょう!

これまで200館弱の図書館を訪問してきました。その中から個人的にデザイン面で面白かった館をいくつかご紹介します。あくまで「私選」なので、必ずしもたくさんの人が魅力を感じるものだとは限りません。あと、写真など事前情報ではそれほどでもなかったものの、実際に行ってみた実感が期待を上回った例もあります。それこそが図書館ウォークの醍醐味だと思っています。

写真はすべて撮影オラシオです。基本外観のみです。図書館がデザイン面で注目されにくい理由の一つに、観光名所とは違い館内を好きなように撮影できない→SNSでシェアできない→情報が拡散しないという負の連鎖?があると思います。館内撮影は許可制のところが多く、たとえ許可されるとしても心理的にハードルが高いですよね。僕はビビりなので、館内の撮影はあきらめています(笑)。

行ってみたくなった人のために交通アクセス情報も載せておきます。図書館は、パッと見で楽しんでもいい場所なんだということを知っていただければ嬉しいです。あなたの街にある図書館も見え方が違ってくるかもしれませんね。

*ちなみに表紙写真は富山県富山市の複合施設TOYAMAキラリ。隈研吾設計です。富山市立図書館本館や富山市ガラス美術館などが入っています。

小牧市立図書館(愛知県)

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マイ・フェイヴァリット・ウェルデザインド・ライブラリー!! なんでこんな設計に?というものすごい造形の図書館。ここは館内のデザインも面白いので、ぜひ訪ねて欲しいですね。ちなみにこの館には階段に「図書館員の一日」みたいな連作貼り紙があって、発信されることが少ない図書館業務の啓蒙にも力を入れていて、それがまた素晴らしいと思いました。
(図書館ウォーカー第17回で紹介済み)

交通アクセス
名鉄小牧線「小牧」駅から1キロ強、徒歩15分ほど。

小国町図書室(熊本県)

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ここは旧肥後銀行をリノベした図書室です。正確には小国町交流多目的施設「あみだ杉の館」らしい。厳密に言うと「図書館としてデザインされたわけではない」のですが、カッコいいんだからいいじゃないですか。入口を入ると2階天井までぶち抜きの開放的な空間になっていて、名の通りあみだ杉の大きな枝が飾ってあります。
(図書館ウォーカー連載第22回で紹介済み)

交通アクセス
道の駅小国ゆうステーションから700~800メートル、徒歩10分以内。ゆうステーションへは北の大分県日田市か、南の熊本県阿蘇市からのバスがあります。

むつ市立図書館(青森県)

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ここは外観も面白いのですが、館内がけっこう好きですね。光がさんさんと降り注ぐガラス張りの中庭があっていい感じなんです。現むつ市の田名部町出身の映画監督、川島雄三に関する資料を集めた「川島雄三の部屋」も見ごたえありますよ。

交通アクセス
JR大湊線「下北」駅から徒歩10数分くらい。大湊線に乗るには、青い森鉄道で青森か八戸から野辺地駅に行き、乗り換えます。

大船渡市立図書館(岩手県)

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この図書館もなかなかの異形。正確には、市民文化会館との複合施設「リアスホール」ということになるのかな。図書館内の回廊式?設計もなかなか面白いので、ぜひ実際に訪ねて歩いてみて欲しいですね。施設内のコンクリ打ちっぱなしデザインは、由利本荘市中央図書館が入った文化交流館カダーレがかなり似ていました。

交通アクセス
三陸鉄道リアス線「盛」駅から徒歩15分くらい。盛駅は三陸鉄道の南の起点です。盛岡からJR釜石線で釜石駅まで来て三鉄で南下するか、一ノ関からJR大船渡線で気仙沼駅まで来てBRT気仙沼線で北上して盛まで来てください。

致道ライブラリー(山形県)

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ここは、渡り廊下っぽくなっているところが図書館なんですよ。山形県の鶴岡市と東北公益文科大学、慶應義塾の三者による共同運営という珍しい館です。公益文化大の中にありますが、なんと誰でも入館・閲覧できます。ちなみに鶴岡市立図書館も徒歩圏内にありますよ。鶴岡市民、ええなあ。

交通アクセス
JR羽越本線「鶴岡」駅からバスで15分くらいなのでけっこう遠いです。庄内交通バスで鶴岡市内循環線Aコース、湯野浜温泉行き、あつみ温泉行き、油戸行きに乗り「致道博物館前」バス停下車。いずれも本数はあまり多くないです。

長浜市立長浜図書館(滋賀県)

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ながはま文化福祉プラザや長浜まちづくりセンターなども同居する複合施設「ながはまさざなみタウン」内。昨年12月にできたばかりで、タイミング良く開館後半月ぐらいの時に行ってきました。2枚目の写真のように外壁の面がさざなみ風になっていたり、館外の広場のイスなどのデザインなども含め細かい部分までトータルなコンセプトがしっかりとしている印象です。

交通アクセス
JR北陸本線「長浜」駅から1.5キロほど、徒歩20分くらい。バスは一番近い「さざなみタウン前」というバス停を通る路線がとても少ないので、ほとんどの路線が停車する「高田」というバス停で降りてから400メートルくらい歩くのがいちばん楽なルートになります。

宇和島市立簡野道明記念吉田町図書館(愛媛県)

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おそらく日本でいちばん図書館に見えない図書館でしょう(笑)。この橋、ちゃんと渡れます。昭和61年に吉田藩主の御殿があった場所に二条城を模したこの建物を建て、そこに図書館が入ったそう。2018年の豪雨で1階にあった図書館は相当な被害を受けましたが、2階に移築して再開していました。

交通アクセス
JR予讃線「伊予吉田」駅から2キロ強、徒歩25分ほど。バスだと宇和島市内から宇和島自動車バスで吉田支線の数路線または松山線に乗って「吉田町図書館前」バス停下車。平均して1時間に1本くらいある感じです。

杵築市立図書館(大分県)

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杵築市中心部は歴史的景観を大事にした街並みになっていて、図書館もそれに合わせた和モダンなデザインです。ガラス張りのファサードとかけっこうシャープなんですが、周辺のムードにうまく溶け込んでいました。すぐ裏に竹林があって館内からの見せ方もうまく、「本を読む」に限らない図書館での過ごし方についてよく考えられている気がしました。

交通アクセス
JR日豊本線「杵築」駅から大分交通バスで国東行きか杵築バスターミナル行きに乗り「杵築バスターミナル」下車。そこから徒歩で1キロ強。ただし杵築は坂の街なので、最低1回はきつい上りがあります。20分くらい見ておいたほうがいいかも。大分市からだと大分空港経由国東行きで「錦江橋北詰」バス停下車後ひたすら坂を上って徒歩10分くらい。

諫早市立たらみ図書館(長崎県)

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先日の記事「私選・海が見える図書館」でもご紹介したたらみ図書館。ここは「ん?奥におしゃれなレストランでもあるのかな?」的な、入って行く時のワクワク感がまず最高なんです。パティオみたいなスペースもありますし、館内外の細部の意匠をたっぷり楽しめる図書館だと思います。おまけにすぐそばは海なんですから。

交通アクセス
「私選・海が見える図書館」をごらんください。

延岡市駅前複合施設エンクロス(宮崎県)

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ここは正確には図書館ではありません。延岡駅舎にスタバとか蔦屋書店とかお土産ショップなんかが合体した複合施設の中にある図書コーナーです。貸出はしてませんが、図書館のように装備された本が並んでいて、誰でも閲覧できます。施設全体をTSUTAYA図書館で名を馳せた?CCCが運営しているようです。ちょっと近未来風の建物で、構内をうろうろするだけでもけっこう楽しいですよ。若者がたくさんくつろいでいて、いい空間だと思いました。
(図書館ウォーカー第37回で紹介済み)

交通アクセス
JR日豊本線「延岡」駅構内。大分方面からは、佐伯駅以降はほぼ特急しかありません。宮崎方面からは特急と各停がそれぞれ1時間に1本くらい。

デンマーク王立図書館(ブラックダイアモンド)

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番外編。世界的名図書館はやっぱりすごかった。2018年夏のヨーロッパ4ヵ国取材旅の途中で立ち寄ってみました。中にはお土産ショップとかカフェとかあるし、外のスペースにはデッキチェアが並んでいて飲み物片手に海を見ながら本が読めるし、なんかいろいろすごかった。

以上でした。他にもいろいろご紹介したい図書館あるんですが、まあまたおいおい。図書館は、本を読まない人やよそから来た旅人も楽しめる場所だと思っています。少しでも興味を持ってもらえれば嬉しいです。終わり。

図書館取材(と言っても旅のついでに訪ねるだけですが)は自腹なので、サポート、投げ銭などしていただけるとたいへん助かります。ありがたく経費に充てさせていただきます。

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