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ポーランド・ジャズのライナー2枚執筆しました。参照音源一覧その1

東京エムプラスから発売される2枚のポーランド・ジャズ作品のライナーノートを執筆させていただきました。この2枚↓です。

①アダム・バウディフ「レジェンド~ヘンリク・ヴィエニャフスキの音楽にインスパイアされたアルバム」

②クバ・ヴィエンツェク&ピオトル・オジェホフスキ「ドラキュラの主題」

どちらの作品もポーランド出身の偉大な作曲家(ヘンリク・ヴィエニャフスキとヴォイチェフ・キラル)の音楽をコンセプトにしているのですが、2枚とも「直接のカヴァー」ではなく、それらにインスパイアされた作曲と演奏になっている、というところがポイントです。

一風変わったコンセプトとも思えますが、近年ではジャズ・ピアニストで映画音楽家のクシシュトフ・コメダの楽曲を解体・再構築したスワヴェク・ヤスクウケの「コメダ(RECOMPOSED)」という見事な先例がありました。ちなみにこちらの国内盤(CORE PORT)のライナーも僕が担当していて、その手法について詳しく書いています。ここまでが共通のまえがきで、以下その1とその2でそれぞれ2枚のうち片方ずつに触れています。

本記事では、①(アダム・バウディフ「レジェンド」)のライナー執筆の際に参照した音源を「参考文献」の音楽版としていくつかご紹介します。

その2は↓

「レジェンド」は、ストレート・アヘッドなポーランド・ジャズの最先端にして最高峰といった感じの演奏になっています。スピーディー、テクニカルで美音・美メロ、クラシックとの親和性が高く耳にスッと入ってくる、といったところがポラジャズの特徴ですが、そうした要素がすべて入っています。(試聴動画あり↓)

アルバム・リーダーのアダム・バウディフはジャズ・ヴァイオリン大国ポーランドの中でもとりわけ高い評価を得ているトップランナー。ヨーロッパを中心とした多彩な国外ミュージシャンとも共演していますし、以前来日したこともあります。
<ちなみになぜか出回ってしまった「バウディヒ」という読み方は最悪の間違い(ドイツ語ふうに読んじゃったのかな?)で、バウディフです。今からでも遅くないので、バウディヒとしていた方たちはバウディフへと訂正したほうがいいです>

「レジェンド」とはピアニストだけが違うメンバー+イタリアの名トランぺッター、パオロ・フレスという布陣でレコーディングされたのが、こちら↓。バウディフはドイツのACTからたくさんアルバムを発表していて、どれも良い内容です。

バウディフのACT作品では、ノルウェーのヘルゲ・リエン・トリオとのこれ↓とかも良いですね。

バウディフは同じレーベルAnaklasisから連名名義の別アルバムを発表しています。クシシュトフ・ヘルジンやアダム・ピエロニチク、アダム・シュタバなどがソリストとして参加したポーランドのクラシック曲の再構築もの。ちなみにピエロニチクとヘルジンはジャズ出身のスーパースターで、シュタバは音楽プロデューサー系の才人。

ライナーではポーランドが隠れヴァイオリン大国(特にジャズ)だということも書いています。現代音楽作曲家グラジナ・バツェヴィチや、バウディフよりほんの少し後輩のトマシュ・ヒワなどなど、クラシック、ジャズ双方からいろんな名ヴァイオリニストを紹介しました。ツィメルマンが弾いたバツェヴィチのピアノ五重奏曲はマジで無形文化遺産級の名演

ポーランドのジャズ・ヴァイオリンものとしては、下記アルバムなども参考音源になるでしょう。
Michal Urbaniak / Fusion III
Zbigniew Seifert / Man of The Light
Krzesimir Debski / Debki's String Connection(3CDs)
Mateusz Smoczynski / Berek
Stanislaw Slowinski / Visions Violin Concerto

「レジェンド」では上にも書いたように、いつものバウディフ・グループと違うピアニストが参加しています。それは、超美音抽象ピアノトリオRGGのピアニスト、ウカシュ・オイダナです!

ポーランドのジャズ・ベースと言ったらこの人、ミハウ・バランスキも相変わらずすばらしい演奏です。個人的にはバランスキならこのアルバム↓を聴いてほしいかなあ。

ヒップホップなアプローチもバキバキ叩き込んでくる今ふうのドラマー、ダヴィト・フォルトゥナもいつものとんがり具合でたまらんです。DJとも共演しているパヴェウ・カチュマルチク・トリオのこんなん↓とかも彼の魅力全開。

ライナーではヴィエニャフスキやショパンとポーランドの伝統音楽のかかわり、そしてそのつながりがどのように今のポーランド・ジャズ・シーンに受け継がれているかについて書いています。参考音源として本作の参加メンバー、サックスのマレク・コナルスキや、女性歌手オルガ・ボチャルのアレンジがすばらしい「民謡ジャズ」ものを。上で挙げたピアニスト、ウカシュ・オイダナのピアノソロ作品も民謡ジャズです。

民謡ジャズについては、こちらの記事↓も参考までに。

民謡ジャズでは他にもこんな傑作群↓が参考になるかと。
Andrzej Jagodzinski Trio / Muzyka Polska
Urszula Dudziak & Grazyna Auguscik / To i Hola
Anna Maria Jopek / Polanna
Adam Oles / Hurdu_Hurdu
Babooshki / Vesna

あとはポーランドの民謡ジャズの祖にして、ある意味今にいたるまで一番クレイジーなコンポーザーだったズビグニェフ・ナミスウォフスキとか。彼の場合はポーランドの伝統音楽に加えて世界中の音楽(特にダンスのリズム)の要素をミックスしてよりハチャメチャになっているんですよね。

ナミスウォフスキについては、僕のnoteでいちばん読まれたこちらの記事↓もご参照ください。今年の2月7日に亡くなってしまいました。

アルバムのバックグラウンドになっている大ヴァイオリニスト、ヘンリク・ヴィエニャフスキの楽曲については、このアルバムにライナーで触れたものの多くを収録。ヴワディスワフ・シュピルマン(映画「戦場のピアニスト」の主人公)とのワルシャワ・ピアノ四重奏団で有名な名ヴァイオリン奏者ブロニスワフ・ギンペルによる演奏。

あとはヴィエニャフスキとショパンの共通点である「故郷の伝統音楽を(当時の)ミクスチャーな最先端音楽へとアップデートさせる」スタイルを示すものとして、やはり外せないのがショパンのマズルカ集ではないでしょうか。当代きってのショパン弾きヤヌシュ・オレイニチャクの名演でどうぞ。ちなみにこのCDは東京エムプラスのウェブサイトでも購入できます。

僕自身はショパンの作品は持っているドイツ・グラモフォンの18枚組?ボックスセットで聴くことが多いです。ちなみにショパンの「17の歌曲集」をジャズ・アレンジした↓とか傑作なのでいちおう参考までに。

ちなみに本作にはもう一人のヴァイオリニストも参加しています。第13回ヘンリク・ヴィエニャフスキ・コンクールの優勝者で、同世代のヴァイオリニストとしてバウディフとともに今のポーランド音楽を牽引してきたアガタ・シムチェフスカです。クラシック奏者との共演が多いのもこの国のジャズ・シーンの特徴で、その意味では彼女の参加もポラジャズならでは、と言えるかもしれません。

アガタは上で挙げたツィメルマンのバツェヴィチ作品集にも参加していますが、個人的にはポーランド最先端のコンテンポラリー・コンポーザーたちの作品を演奏した↓がとがってて好きですかね。とりあげられた作曲家ではアコーディオン奏者でもあるミコワイ・マイクシャクがプログレっぽい作風でイチオシです。

ちなみに原盤の発売元Anaklasisのレーベル名は、ポーランド現代音楽界最大のヒーローとも言えるクシシュトフ・ペンデレツキの楽曲からとられています。同曲が聴けるこのアルバム↓は彼の代表曲「広島に捧げる哀歌」も収録されててなかなかいいですね。


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