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大坂なおみはなぜラケットを投げるのか

「道具を大切にしろ」
「物にあたるな」
「一流は道具の扱い方も一流だ」

ニュースサイトのコメント欄は否定的な言葉で埋め尽くされた。
テニスの大坂なおみがポイントを取られた直後、ラケットをコートに叩きつけ悔しさをあらわにし、不調のまま敗退した。

古来より物にも神が宿っているという考え方が一般的な、ここ日本ではこの考え方は普通なのだろう。しかし、テニス界では頻繁に、感覚としては3-4試合に1回程度か、時には毎試合のように複数回ラケットを破壊する選手もいる。

もちろん、海外の観客にも快くは思われない。この行動は時にブーイングを引き起こす。ただ、日本ほどに嫌悪感を持たれている印象もない。もちろん観客や審判に怪我を負わせるのはもってのほかだが…

強調したいのは、大坂なおみは特別ラケットを投げる選手ではないというのがテニスファンの印象だ、ということだ。もちろんスペインの大スターラファエルナダルのように全く声を荒げて審判に抗議するところすら見たことがなく、ラケットを投げることのない聖職者のような人もいるが、今で言うとフォニーニやキリオスなどもよく投げるし、昔で言うとサフィンはグッドプレー集よりもラケットブレーク集の方が注目を集めるくらいだ。

(そのサフィンは米スポーツメディアESPNのインタビューで、現役の間になんと1,055本のラケットを破壊したと明かしている…)

なぜテニスではラケットを破壊するのが一般的なのだろう。これには理由がありそうだ。

まずよく言われるのは、個人スポーツであるテニスにも関わらず、基本的に試合中のコーチングを禁止していた(最近になりオンコートコーチングが一部認められるようになった?)こともあり、頭の中を切り替える事が難しいと言う事だ。ポイント間は20秒。

コート上には相手と自分だけ。それを囲んで見ている観客。究極の緊張感。チャンスボールを信じられないようなミスをしてポイントを失ったときの落胆は想像に難くない。責任は全て自分だ。手に持っている物に衝動的にストレスをぶつけるのだ。

おそらくラケットのせいでポイントを取られたと思ってラケットを投げている選手はいないだろう。

ポイントを取られた後にも試合は続く、状況は明らかに前のポイントよりも悪くなっているのだ。しかし前を向いてプレーしなければならない。

2点目にラケットの大きさがあると考える。プロになる選手の多くが幼い頃からテニスを始める。たとえば小学生くらいになれば競技として試合に出ることになる。この時、手に持ったラケットは低学年であれば引きずるくらいなのだ。ラケットと地面の距離が極めて近い。うまく行かない時どうするか。まず地面に軽く叩きつけるのである。もちろん非力な少年少女の力では破壊するまでは至らないであろうが、こうしたことからラケットを投げる習慣が始まると私は考えている。同じラケットスポーツであるバドミントンや卓球よりはラケットが硬く壊れにくいことや、屋外でコーチとの距離が取りやすいことや投げた時の音が反響しづらいのでバレにくいと言うこともあるだろう。もちろんコーチに見られたら怒られるのだ。

野球なんかは私から見るとほとんど宗教的に道具を大事にする文化がある。
イチローは道具を大切していたのは間違いないのであろう。それで言うと、テニスでは古くはマッケンローから今のキリオスまで多くのスター選手兼悪童代表としてテニス界を彩ってきた。先輩の真似をして投げてしまう子供も多いのは事実だろう。

我々は仕事中にうまく行かなくてPCを壊すことはないのに。と言う非難もあるが、これはスポーツなのだ。野生的な感覚を研ぎ澄ませることが必要な場面も多々あると考えることはできないだろうか。

私は大きな注目を集めながら、現役でいる限り闘志を燃やして戦っている大坂なおみのことを応援し続ける。うまくいかない時ももちろんあるだろう。皆さんも上記のような背景を知って、もう少し寛容にテニス観戦を楽しんでいただけたら幸いです。


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