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具体性がなく、ある意味、傷つけず

食器を洗いながら、テレビから
「優しい味」と聞こえてきた

母に「優しい味ってどんな味?」訊いてみた
母は「素材の味が生かされてるものかな」と言い
弟は「薄味で、実は不味いと解釈してる」
ハッキリしたモノ言いをする弟はキツい

わたしがイメージしたのは
ミルクプリンや塩茹でしたインゲン豆で
母と弟の意見と遠からず近からず

味を「優しい」、漠然と表現するからには
きっと、何か隠したい本音があると感じた

美味しいものは、真っ先に「美味しい」が出て
続いて
○○の出汁が効いている
○○の味が食感とマッチしているなど
食べていない人にもイメージしやすい言葉で伝える

人は感動に出会うと真っ先に
単刀直入の言葉か、目と口元に表情が出る

優しい味で思い出すのが
わたしが発熱すると
母が作ってくれたお粥

米の持つ甘味と若干の塩味
とろみに混ざる、雑な溶き卵
「顔が赤いね」母はわたしの額に手を当てて
「明日も学校、お休みしようね」が、目に浮かぶ

優しい味には、パンチが効いてなかった
今、どう思い返しても
祖母が作るアップルパイにシナモンを感じない
母はシナモンが好きなので、娘のために抜かない筈

「優しい味」の本音には、悪いことだけではなく
人に話すまでもない思い出や
遠い日に受けた恩を振り返る隙間に感じた

「優しい味」のエピソードを話してしまうと
壊れそうな関係性には、まず言わない

具体性がなく、ある意味、傷つけず
曖昧な言葉は言及せず
聞き流すのが礼儀かもしれない