岩塩

塩(しお)のお話2-身近な食事での塩味-

前回に引き続き、塩について語っていきます。といっても浸透圧とか話しても仕方ありませんので、身近な塩味について紹介していきます。

1.おいしいと感じる塩分濃度は?お吸い物編

 最近、「素材重量の0.8%の塩の下味をつけて調理する…」というレシピ本を見ることが多くなってきたのではないでしょうか。水島シェフがそれに関連する本を多く執筆されています。

 この塩分濃度は特にお吸い物などのスープ状のものに言えることです。なぜこの塩分濃度体が美味しいかといえば、「体液に近い塩分濃度」だからと言われております。生理食塩水などもこの塩分濃度で出来ています。(ちなみに1%の塩水は何も聞かせずに飲ますとびっくりするほどしょっぱいです。)

 実は、「うま味だけを最大限に感じたい場合は塩分濃度0.6%」くらいが最大に感じます(これは甘味でも言えます)。実は0.8%になるとうま味は減少してしまうのですが、この濃度になると塩の決まりがよくなるとか、塩味とのバランスがいい”塩梅”になっておいしく感じるようです。つまりはシンプルで素材のうま味だけを…という料亭的な場面のときは0.6%、おいしくお出汁をというときは0.8%という使い分けが必要となります。

2.おいしいと感じる塩分濃度は?固形物・複雑編

 魚や肉の場合は微妙に異なってきます。我々は実際のところ30回も噛んで食べたりはせず(そうした方が良いのですが…)、表面の味を強く感じで咀嚼(そしゃく)→嚥下(えんげ)します。このとき表面と内側が混ざって程よい塩分濃度0.8-0.9%付近に到達しうると美味しく感じることが予想されます。肉じゃがのイモの表面に少し濃い目の味付けを施して食べるのはそれと同じです。また焼成により10-20%の水分は減少し、濃縮したり、肉汁により表面の塩が流されたり、もともと素材が持っている塩分濃度を考慮して調整しなければなりません。

 また油や糖類、過剰なうま味の量、スパイスなどの刺激が強いとこの法則は乱れてきます。ラーメンスープが2%ほどの塩分濃度になったりすることは珍しくありません。感覚間相互作用やマスキングなどが起こるからです。

 またインドカレーもちょっとの塩分量が味のバランスを左右したりします。この原因は例えば黒胡椒は塩分の感受性を麻痺させます。よく味が薄い時にらーめんに胡椒を入れ減塩効果を期待しますが、逆に塩味が濃すぎて食べられないものに胡椒(白胡椒より黒胡椒のほうが効果は強い)を加えると食べられるようになります。生姜や唐辛子なども似た効果があります。

 そして先程もちらっと書きましたが、日本人は「おかず+ごはん」という食べ方(口中調味)をします。ごはんも加わって咀嚼したら「おいしい塩分濃度0.6-0.8%」に達して飲み込むということを念頭に入れて塩分濃度を決めていくとわかりやすいです。しかしながら、しょっぱかったらご飯を多く口に入れたり、おかずの量を減らせば良いことですからヒトは臨機応変に食べてくれるので、神経質になるほど気にしなくても良いのかもしれません。以下の記事は以前取材していただいたときのものですのでご参考にしていただければと思います。

3.温度と5味

 温度でも味は大きく変化します。以下の図を見てください(楽しく学べる味覚生理学、山本隆著、建帛社より転載)。塩味は温度の違いによってあまり味の強さは変わりません。一方、うま味は体温付近で最大に感じます。つまりお弁当のおかずが冷えてしょっぱく感じたり、お味噌汁が冷えてしょっぱく感じるのはうま味自体が減少して、塩味が際立って感じてしまうからなんですね。

ちなみに他の味もまとめると「苦味・甘味・うま味は上図のような温度依存性」、「塩味・酸味は温度依存」はあまりないです。


 本日はこれくらいで!今回ご紹介したお話はおうちですぐに試せるかと思いますのでやってみてくださいね。次はもう少し面白い実験になってきます。

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