#今月の平台 を振り返る。二回目。

では、一回目に続いて8月から。

川上未映子さんの『夏物語』!
4月の『トリニティ』もだが、今年は「女で良かった、女としてこの小説を読めて良かった」という作品が多かった印象。
というかここまで全員女性作家だな、私。何という偏食。
『夏物語』は、川上未映子さんの芥川賞受賞作『乳と卵』(こちらもまるっと加筆修正されたものが収録)を軸に、『乳と卵』のその後を描いた作品。大阪弁の独特なリズムの会話が心地よく、世界に溶け込むように読んだ。
私は女に生まれ、出産を経験している。子どもがいる。自分の中でも大きな転機になっている出産を、まさかこんな角度から描いてくるとは。パートナーとの性的な関わりに嫌悪を示し、父親は必要ないとしながらも、子どもが欲しい・シングルマザーになりたいと願う夏子や、精子提供により生まれ父親の顔を知らない逢坂など、産むこと、産まれることに悩む彼らはむき出しの感情をぶちまける。子どもを産んだところで幸せになれるなんて保証はなく、産まれたからと言って、自分は彼らに、彼らが望むべく幸せを与えられるのだろうか。「子どもを産んで良かった」そう涙ぐむ母親に、「誰が生んでくれなんて頼んだよクソババァ!」と絶叫する子ども、そんな将来だって十二分にあり得るのだ。
出産なんて親のエゴ、そう言い放つ物語は、命そのものと真剣に向き合っていた。
早川書房の『三体』はうちの店でも異例のヒットとなった中国人作家さんのSF超大作で、発売前からの盛り上がりもすごかった。拡材のコメント、バラク・オバマて。そういうものがカブらずに、『化物蝋燭』がカブってくるあたり、#今月の平台の面白いところだなぁと思います。

9月の平台、とうとう来ました『熱源』川越宗一さん。
三つ巴の戦い(いや他の三作品は…)となった9月、『流浪の月』『なめらかな世界と、その敵』もそれぞれにスゴイ作品だったので、いつか書きたい。
とりあえずは『熱源』。noteの別記事にもしているが(と言うかこれが切欠でnoteのアカウントを取得するに至った)、ちょうどこの作品を読んだのが、例の週刊誌見出しが炎上して、「〇〇はいらない」だの、「頭のおかしい〇〇人」だのと言う、いわゆるヘイト本論争が盛んだった時期だ。『熱源』は、文明・人種に優劣をつけることの悲惨さ、虚しさを非常に分かりやすく私に示してくれた。文明・人種にとらわれず、信じるものと手を繋ぎあえることも。『熱源』を読んですぐに、「でもやっぱり〇〇人はいらないよね」なんて言っちゃえる人はいないだろう。いないと信じたい。
私は、ただの一書店員でしかない。入荷したものを並べる、販売する。全ての書物を検閲し、私が善と思ったもののみを並べ、私が悪と判断したものは排除するというのは、私には正直荷が重い。読書はある種宗教のようで、どの神様を信じるかは、その人の自由であるべきだと思う自分もいる。
ただ、『熱源』を自分の推薦本として最前線に並べる事で、私の信条はきっと伝えていける。私はこう思う、ではあなたは?売り場から、静かに問いかけていきたいと思う。
結局『熱源』を、今年一番面白かった本としてほんま大賞にした。と言うか、もうこの時点でこれ以上の作品には今年出会えないだろうと思い「今年のほんま大賞は決めました」と割とあちらこちらで触れ回っていた。素晴らしい作品でした。

10月、とうとう4冠王が現れる。『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼さん。
今月初めて講談社さんの本を選ぶことが出来て、私は正直ちょっとホッとした。いや、講談社さんは勿論そんな事気にしないでくれと言うスタンスなんですよ、しかしね、小心者なのでね…。
ミステリのイヤな読み方をする人ランキングがあったら、私は結構上位に食い込んでくるだろうと思う、ある意味イヤミスの女王だ(違)。
とにかく先を読む、予想をする。これはわかってた、へへーんやっぱりね、なんて一人ほくそ笑む。「大どんでん返し」「あなたは絶対にダマされる」帯に煽られれば煽られるだけ、ムキになって伏線を拾いまくる。そんな読み方が大好き。子どもか。
そんな私なので、前評判が高かったこの『medium』も、予想しながら読み進めた。何だ、よくあるパターンじゃないか…そうタカをくくっt…
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
なんて恐ろしい作品だろうか。まさか、そんなひっくり返し方があったとは。すべてが伏線。もうこれ以上言えないけれど、未読の人は是非体感して欲しい。

11月は、『スワン』呉勝浩さん。
本来、人が死にまくる、暗い話が好きな私にとって、大好物と言うべき物語だった。友人書店員に「スワン面白かったっ」と興奮気味に語り、「あぁ、ほんまちゃんは本当にこういう話好きやなぁ…」と呆れられる。その通り、大好きだ。
人は死にまくるし、テーマは重い、どちゃくそ暗い。
フィクションだが、まるでノンフィクションのように、情景がありありと想像できるリアリティを持っていた。こんなシチュエーション、現代だったらいくらでもありそうだ。とあるショッピングモールを襲う無差別テロ、ショッピングモールの中を逃げ惑う人々…物語にのめり込み過ぎたのか、読了後、ショッピングモールの中を走り回る夢を見た。
青空を覆いつくさんとする雲間から差し込む、強い太陽の光。物語を疾走して本を閉じた時、その差し込む光は、絶望の中から羽ばたかんとする、いづみそのものに見えた。

12月、『タスキメシ 箱根』額賀澪さん。
『荒城に白百合ありて』須賀しのぶさん、強し!須賀しのぶさんは勿論のこと、装丁を書かれた遠田志帆さんの作品が、今年はことごとくHITを飛ばしましたね。やがて全てが遠田になる…←
さて、『タスキメシ 箱根』。前作『タスキメシ』の続編の形をとってはいるけれど、読んでいなくても十二分に楽しめます。
私の大好きな、「天才にはなれない・努力でカバーする(でも限界がある)凡人をブチ折る」という額賀さんの大正義ドSパターンが炸裂する本作。
ドラゴンボールで言ったら、額賀さんは決して孫悟空を主役にはしない。クリリンや、ヤムチャや、天津飯をそれはもう丁寧に丁寧に描く。彼らの苦悩を、どんなに頑張っても乗り越えられない孫悟空との壁を、それでも何かを残さんとする彼らのきらめきを、絆を…って何の話始めたのほんまさん。
まぁ、そんな風に額賀さんが「テレビではスポットライトの当たらない一人一人」をキッチリと描いてくれるからこそ、箱根駅伝という競技自体に興味が湧いてしまう。今の時期店頭には「箱根駅伝直前スペシャル」的なムック本がずらっと並んでいる。『タスキメシ 箱根』を読んだからこそ、その表紙を飾る選手たちの姿に、いちいち涙を浮かべてしまうのだ。

12月の今月の平台までをおさらいした。
見返してみると、あれもこれもと、読みたかった作品が思い返される。読書量少ないなぁ…まだまだ。
来年から、このコーナーは講談社さんの文芸誌『小説現代』にも掲載されるそうです。(ツイートは続きますので、ご安心を)益々面白くなってきそうな、#今月の平台。紙媒体へのお引越しに当たり、ほんまさんは解雇され…ませんでした。引き続き頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。出版社の皆様、新刊のゲラ・プルーフお待ちしております。(買えよ)

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