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【第三十一夜】『スワン家のほうへ』夜話 – プルーストの処方箋

この苦しみがいっそう残酷なものとなったのは——

ハナは話をはじめた。◆

「うーん、スワンさんはやっぱり自分がどう見られてるかってところに気づかなかった感じね。でも、まわりが見えなくなってるときだからわかるけど、途中で気づくって難しいよね」

「冷静に分析しているようでいて、俯瞰できてない感じだよね」

「でも、ヴェルデュラン夫人も程度が知れてるんだから、絶望しすぎだよね」

「まあ、当人にしてみれば自己嫌悪になるよね。
でも、スワン氏が自分はほかの人とは違うって思っていることも凡庸だし、彼が高潔だって思い込んでたヴェルデュラン夫人も凡庸なんだよね」

「それってどういうこと?」

「えっと、「自分は特別だ」って思うことそれ自体が、実は誰でも普通に思ってることで、ごく平凡なことだってこと」

「そうよね、やってることって誰でも思いあたることだし、スワンさんもオデットのことを自分も「囲ってる」じゃないかって思ったときに気づけなかったのって感じ」

「まあ、それがまわりが見えなくなってるってことなんだろうね……」

◆——そうしてハナはゆっくりとまぶたが閉じていくのを感じながら、眠りに落ちていく。

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