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#8 広告プロデューサー・日野昌暢(博報堂ケトル)「ローカルおじさんのeyeと愛」(2019.11.22&29)

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「博報堂ケトル」ーー広告業界にそんな詳しくない私でもわかる、そこがおそらく、たぶん、十中八九、相当カッコいいことをやっていて、多くのクリエイターが憧れるステキ1000%な会社であるということを。

でも実際問題一体ナンでしょう「博報堂ケトル」って? 会議相手として呼んどいてナンなんですが、まず日野さんにそこんとこ聞いてみましょう。

2006年に博報堂の中に生まれた会社で。当時、広告会社はCM・新聞・ラジオ・雑誌っていう「4マス=マスメディア」に向けて広告を作るのが主な役割だったんです。そこからインターネットが台頭したりして環境が変わってきた中で、いろんなことをやらないといけなくなった。そのとき「課題に対して一番いい解決方法をフラットに考えましょう、手口(=やり方やメディアの使い方)はニュートラルに考えましょう」ということで「手口ニュートラル」というコンセプトが生まれたんです。簡単に言えば、これまで「テレビCMを作る人」「新聞広告を作る人」と役割が分かれてたけど、広告もPRもメディアをどう使うかも全部ワンストップで一人の人が考えるようになりました。つまり統合的なクリエイティブに変わったんです

ふーむ、とにかく先鋭的で自由そうな会社ってこと? ということで、こちらが本日の会議相手、日野昌暢(ひの・まさのぶ)さん。広島ということでカキ柄シャツをバシッと着こなしての登場です! カキしゃつ夫!

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日野さんはもともと博報堂で営業を担当。軸足をプロデュース寄りに移したいということで、社内公募で博報堂ケトルに加入し、2014年からプロデューサーを務めています。そんな日野さんのケトル内での異名が「ローカルおじさん」。はい、今日の会議テーマは「地方創生」です!

地方創生って2014年にはじまったんです。東京に集中しすぎた人口を地方に移そう、と。それで国から地方に予算が配られて、どの地方自治体も移住促進キャンペーンをやるんですけど、その地方創生元年が僕がケトルに加入したタイミングで。僕の故郷の福岡でも移住促進のコンペがあって、そのお仕事をとったところからはじまりました

福岡出身で仕事は東京、郷土愛も強い日野さんにとって「地方創生」は出会うべくして出会った人生のテーマだった。

福岡での仕事を通じてこれは根深い問題があると思ったんです。当時の地方創生予算がどう使われたかっていうと、みんな「バズ動画」に向かったんです。地方自治体が面白い動画を作って、それが盛り上がって、テレビがとりあげるって流れなんですけど、僕はその喧噪を見て「それで本当に地域の課題が解決するのかな?」と思ったんです。実際動画が盛り上がっても一時的な打ち上げ花火で終わりがちというか、本来の目的である移住まではなかなか果たせなくて。そこから「もっと継続的に地域を盛り上げることって何だろう?」と本質的に取り組みたくなったんです

市町村合併に限界集落、ふるさと納税、B級グルメ、氾濫するゆるキャラ、インスタ映えスポット……みなさんご存知のように、今や地方自治体もサバイバルの時代。市町村も目立ってナンボ、キャラ立たないと沈没よ、と言わんばかりの状況の中、慣れないプロモーションムービーや地元ロケ映画など頑張ってみるものの、冷静に見れば「それ、ぼったくられてません?」という惨状のいかに多いことか。いや、日野さんに文句言ってるんじゃないです。そういう「地方創生利権」もイヤというほど見てきましたんで!

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そんな中、日野さんはひとつのヒントに出会う。群馬県高崎市から依頼を受けたシティプロモーション。視察に向かい町の人々にインタビューするが、みんな口を開けば「うちの町にはなーんもないですよ」と地元民(←地方あるあるな風景)。たしかに中心地もシャッター商店街。これは糸口見えないな……と思って入った大衆食堂。名物でもない、なんの変哲もないゴハン。「こういう料理、なにげに最近は食べられないな……」と思って「また来ますね」と店を出ようとした日野さんに店主から声がかかる。「次来るときはないかもよ~」。店主は齢70歳近く。確かに、そうかも……。

店を出た日野さんたちは言葉を交わす。「いま食べてるおいしいカツ丼が1年後には食べられれなくなるかもしれない。絶滅してしまうかもしれない」。実際、地方に限らず東京でも後継者不足で閉店する老舗がたくさんあった。で、「閉店します」って告知すると一気に人が来たりする。それじゃ遅いんだよ! そういう状況はわかってるんだから、終わると決まって並ぶのではなく、まだあるときにまんべんなく来ないとダメなんだよ!……。

そんなお店のリストに「絶メシリスト」と名を付けた。絶滅の危機に瀕したメシ、略して「絶メシ」。いいねそれ! そしてその店と店の歴史、店にまつわるストーリーと共にお料理をウェブサイトで紹介していくことにする。それがコレ。

これがカンヌ広告祭の銅賞を受賞。ちなみに海外では「絶メシリスト=RED Restaurant LIST」という超訳を用いたのだが(注:RED LIST=絶滅保護種のこと)、一介の地方都市である高崎市で起こってる事象が世界中どこの国でも起こっていたというのが興味深い。この「絶メシ」企画、今やひとつのフォーマットとなって、福岡県柳川版や石川版ができたり、なんと新年からは「絶メシロード」としてドラマ化という広がりも見せていますが……

個人的にこの企画がスゴイと思うのは、サイト内に「絶メシレシピ」や後継者の募集まで加えたところ。ただ日陰の存在に光を当てるだけでなく、失われゆく味を「保存」し、さらに意欲ある若手に「継承」しようというアクションまで加わっているのです。これはもう広告の範疇を超えて、社会運動に踏み込んでるでしょ!

本当になくしてしまうのは惜しい店ばかりなので、お知らせしたら「僕が跡を継ぐよ!」という人が出てくるかもしれないと思って。後継者不足は飲食店だけじゃなく、日本の産業全体にすさまじい勢いで広がっていて。すごい技術を持ってる町工場のおじいちゃんも後継者がいなくて、その技術は消えていこうといている。その経済損失はすごいですよ

東京vs地方。21世紀に入っても止むことない闘争の中、日野さんは首都圏のクリエイターがローカル仕事をやる意義をどこに見出しているのだろう?

ローカルって語弊があるかもしれないけど、外に開かれたウェブメディアがないんです。「新しいパン屋さんできたよ」「このパスタ屋さん美味しいよ」といった街の人が内側で使う情報はあるけど、街の面白い情報を外に伝えるメディアがあまりない。ウェブ検索しても福岡にいる面白い人が全然出てこない現実があったので、東京のニュースサイトの仕様と視点で取材して、「#FUKUOKA(ハッシュフクオカ)」というニュースサイトを福岡市さんと作ったんです。そしたら福岡の人たちもすごく喜んでくれて。やっぱり地元の人たちだと、その面白さや貴重さに気付かない場合があるんです。「え、これが面白いの?」「たいしたもんじゃないよ」って。僕は「外から目線」って言ってますけど、外にいるからこそ「ここが面白いよ」「ここがもったいないよ」っていう着眼はできるのかなと思ってます

隣の芝生は青い主義か、青い鳥症候群か、いつも楽しいことは他所で起こってココはなんもないと思いがちな私たち。でもちょっと待った! 本当は貴重な何かを持っていたりして。それを気付かせてくれるのが「外から目線」。内⇒内、内⇒外、外⇒内……その声はどこに向けられ、どこまで届くものなのか?

あと、ローカル人として卑屈に思う「東京のクリエイティブが地方の広告費ぶんどって、好きにやり散らかして、任期満了で引き上げていく」感。搾取と呼ぶのは言い過ぎですが、そんな実態どーですか?

地方に博報堂とかの名前で入っていくと「あ、嫌われてるな~」って感じるところはあって(笑)。広告代理店は広告費として多めの予算を持って行くじゃないですか。地元の人で、もっと少ないお金で自分たちの街を良くしようと思ってる人がいるのに、東京からやって来た広告代理店がたくさんお金使ってなんかやってたけど結局どっか行っちゃったね、みたいな。「そりゃ怒るわ」って思いますよ。僕は地元の人をそういう気持ちにさせないよう、地元に意味のあることをやりたいなと思います

ではその「地元に意味のあること」とは何か? 日野さんの考える地方創生の未来、広告の向こう側にあるもの、自身の将来像とは?

プロモーションは誰かに予算をいただいてやるもの。僕、それには限界があると思うんです。それはお金が消えて、どれだけ目立ったかが評価されるけど、継続性はないですよね。だから「事業」をやらなきゃいけないと思うんです。その地域を元気にする装置を作って、ちゃんと自走すること。それがサステナブル(持続可能)であるためには利益を生まなきゃいけなくて、それは結局、事業でしかないんです。だから僕の今の目標は、事業を設計できる人間になって、社会に対していい作用を与えられて、みんながハッピーになれる装置を作るということですね

やっぱり広告を突き詰めていくと「今あるものを引き立てる」という役割を超えて、「ゼロからモノを創る」ということに行かざるを得ないのかな。最後にポツンと漏らした日野さんの言葉が、胸にひっかかりました。

先日ケトルの社長だった嶋浩一郎が社長を退いたんですけど、そのときのスピーチが「ケトルは欲望を叶える会社だ。欲望のない優秀なヤツより、欲望のある優秀じゃないヤツの方がいい仕事する」っていう内容で、僕もその通りだと思うんです。たとえば広告業界でローカルなことやってるプレイヤーってあまりいないし、そのローカルの中で面白いことできるプロデューサーにどうしてもなりたいっていう欲望が自分の中に存在するんです

理知的なテーマの中に秘められた欲望、または渇望。そんな優等生と人間くさいリビドーのバランスがどんなふうに町を、人を、社会を、仕事をよみがえらせていくのか、見てみたいと思いませんか? あと、カキシャツはカープユニ程度に広島に根付いていいと思うのですが、これは内からの意見? 外からの視点?

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2019.11.8@HFM




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