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【選んで無職日記53】休日

2024/9/7

 夢と現実の境目がわからなかった。
 と、いうイケてる文章から今日の日記は始めたかった。でもこれは本当で、「ピンポーン」というインターホンの音がちょうど睡眠と起床の真境にあって、本当に鳴っているのか夢で聞こえたのかがわからなかった。
 夢かも、と思って耳をすましていると、もう一度音が鳴ったので、現実か~と思った時に、今日は来客があるのだという事実を突然思い出す。マンションの管理会社が主催する部屋の点検が、九時から十二時の間に予定されていたのをすっかり忘れていたのだ。
 自分で言うのもなんだが私はわりと真面目でしっかりしている方だと思うが、今日という日に限って完全に忘れていた。スケジュールアプリにもしっかり入れておいたのに。
 ぎゃ~!と思いながら寝ぼけまなこでパジャマをぶん投げデニムを履き、ノーブラTシャツの上に季節外れの裏起毛スウェットを着たが、寝起きの尿意に負けてトイレへ急ぐ。出てきた時に、「電話来てたよ」と夫の声(着替える前に叩き起こした)。電話をかけると来るはずだった業者さんで、先に別の部屋をまわるので、あと二十分後ぐらいに行きますとのこと。電話越しに平謝りした。
 少し時間が出来たので安心して、まずはスウェットが暑いのでしっかり外着のTシャツに着替え、髪を2秒ほどブラッシングしてマスクを準備し、目ヤニに水をかけてふやかし、買っておいたリンゴと紅茶のスコーンを夫と半分こした。

 時間通り二十分後ぐらいに業者さんの代表らしき若いお兄さんが来て、これから点検を始めさせて頂きますと挨拶してくれた。先ほどはすみませんでしたと再度謝るも、イラついている様子がないので安心した。
 部屋に付いている各設備の担当者が入室するが、十人ほどいるため混雑の恐れがあり、小分けにして入室の方がいいか、それとも全員で入っていいかと質問される。一気にやった方がこちらも助かるし業者さんも早く帰れるだろうと思い、一緒でいいですよ!というと、本当に十人ぐらいのおじさん・お兄さんたちがぞろぞろと部屋になだれ込んできた。プラス代表のお兄さんと私と夫なので、かなりの大所帯だ。
 お兄さんに事前に、入ってほしくない部屋などありますか?と言われたが、特にないので好きに見てください、というと、おじさんたちは部屋に散り散りになって窓を開けたり、食洗器を確認したり、換気システムを見に行ったりした。
 圧巻の光景だった、というのはちょっと面白い書き方だが、こんなに沢山の人が部屋に居ることなんてないし、しかもみんなバタバタして違うことをしているので面白かった。
 おお~すげえ~と思いながら部屋の端っこにいると、キッチンからおじさんが夫を呼んでいる。ついていくと食洗器の管理方法について説明してくれていた。引っ越ししてまだ四か月ほどで、食洗器の使い方がわからず放置していたのがばれており、最低でも一か月に一回、維持のために使ってくださいとのこと。食器用洗剤はどうすればよいですか、との私からの質問に対しても非常に丁寧に説明してくださった。
 私が住んでいるマンションはまあまあ部屋数が多いため、ずっと同じ点検の作業をしていて飽きているのだろうか、私たちと話すのでさえなんだか楽しそうだったので何故か私が嬉しくなる。

 その後すぐに代表のお兄さんに浴室に呼ばれた。点検の申し込みをした際、設備の掃除に関してアドバイスが欲しければご連絡くださいと言われていたので、浴室の説明をお願いしていたのだ。
 ここで担当者が浴室設備のメーカー代表のお兄さんに切りかわり、髪の毛はここに溜まるので掃除してください、とか、湯船の排水はここが開くので、と言って丁寧に説明してくれた。
 昨日の夜のうちに業者さんが来ることを覚えていれば、排水溝も綺麗にしたのに。髪の毛が溜まっているところを見られたのが恥ずかしく、また髪の毛が水に浮いているところを触らせてしまったことが本当に申し訳なかった。失態だ。
 あまりにも申し訳ないので説明が終わってすぐ、メーカーのお兄さんに声をかけ、洗面台で手洗ってください、石鹸これで、ハンドタオルは捨てれるやつあるのでこれ使って下さい、というと、ちらっとメーカーお兄さんが代表お兄さんを見ているのが確認できた。もしかしたら心象良くないのかなあ、これは私から彼へのオファーなので許してくださいよ、と思いつつ、再度メーカーお兄さんに手洗いを勧める。洗面所は他のおじさんたちもいて大変混雑していたので、ゴミくださいと声をかけられないままに浴室お兄さんはいなくなってしまった。
 その後、寝室に移って業者さんの壁紙のコーキングを見るなどしていたが、各々仕事が完了したおじさんたちは勝手にさっさと部屋を出ていき、そしてまた代表お兄さんだけになった。確認のためサインをして終了。ありがとうございました。

 その後夫がモスの月見をお昼ご飯にしたいというので、徒歩で近くのモスバーガーに向かう。が、モスの月見は来週スタートだったことが判明し、マックにシフトするためまた歩いて店に向かい、無事月見バーガーを手に入れた。
 店内飲食で頼んだので座って食べていると、横に赤ちゃん連れの家族がやってきた。ママもパパも立ったり座ったり、居なくなったかと思えば何かを取ってきたりせわしない様子だ。店員さんが気を利かしてベビーシートを持ってきてくれ、シートに付いているテーブルはつけておきますか、外しておきますか?と聞くと、いらない?いる?いいか?いいよね?と夫婦で相談したうえであ、うん、ありがとうございまーすとなんだか馴れ馴れしい。
 その家族も食事をしだすと、子供はまだ小さいので離乳食を食べているのだが、まだ若そうなクルーが「持ち込み禁止です」と声をかけに来た。さすがに離乳食だから持ち込みNGはないだろうと思って聞いていると、「離乳食なんですけど」と冷たい声でパパが返す。確認してきます、と言い、大丈夫でした、失礼いたしましたと謝って彼が去っていった後に、流石に大丈夫だよね、と笑っているママがいて、なんだかなあという気持ちになる。
 もちろん離乳食はOKにしないと赤ちゃんに優しくない世の中になってしまうが、赤ちゃんがいるから何でも許されると思っている人たちが私は苦手だ。

 その後ハンズに行ってコスメを買ったり、ユニクロで思わぬイケアイテムを見つけたり、茶をしばいたりなんだりして、久しぶりにゆっくり夫と休日を過ごした。早くから活動していたので帰ってきてもまだ午後五時で、こんなに一日楽しくていいのかと口に出してしまった。
 正直な話、仕事を辞めてから毎日楽しい。毎日ちゃんと、楽しい。今まで私は日々を過ごすにあたり、「毎日楽しい」と思ったことがなかった。そんな私が8月頭に仕事を辞めてから、ほとんど毎日面白く過ごせている。ありがたいことだ。

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