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【ココロコラム】他人に甘く自分に厳しい

落ち込みやすい人の考え方の一つの特徴が、他人に甘く自分に厳しいところです。部下が仕事でミスしても、ついなあなあで済ませてしまい、「ああ、それは私がやっておくから」などと、かえって仕事量を増やしたりしてしまうのに、自分が仕事で少しでも失敗すると「ああ、なんて自分はダメなんだ」と、人知れず落ち込むことがよくあります。

これが男女間になると、性別の差があるぶん、さらに自分に厳しい傾向が強まるように思います。異性の事情はわからない面もあるので、わからないところを自分の責任にしてしまうことが原因です。最近は女性が働くのが当たり前になりましたが、家事は女性がやっている例がかなり多い。仕事をしているのに、家事がうまくできず、「両立できないのは自分の能力が低いから?」と自分を責め、落ち込みの原因になることもしばしばあります。

男性にしても同じこと。男性は女性にいい格好をしたいですから、仕事の悩みを女性に打ち明けにくい風土がまだまだ残っています。その結果、「こんなこともできない自分はどうしようもない」などと、相談する人がいてもひとりで自分を追い詰めてしまう。このような思考パターンは、メンタルヘルス的によい考え方とは言えません。

この手の考えに欠けている視点は、「自分を他人から見た場合どうなのだろうか?」という視点です。実際には、自分と全く同じ条件の人を外から眺めた場合、「けっこうがんばっている」「よくやっているよ」という側面が、思ったよりたくさんあります。つまり、客観的に見ればそれなりに努力し、我慢もしているのに、自分の中の主観的な考えでそれを打ち消し、もっぱら悪い方へ悪い方へと考え、自分にひどい言葉をかけてしまうのです。

これを防ぐのが、今回紹介する技法です。やり方は簡単で、「落ち込んでいる自分の状況に、親や兄弟や子供や恋人がおかれていたら、なんと言うだろうか?」を考えてみるということです。

子供に対して「本当にダメだな」とか「もうどうしようもない」と言うことはほとんどないでしょう。どんな失敗をしても、どこか事情をくんであげて、「気にすることないよ」あるいは「でも、ここはがんばっているじゃない」など、優しい言葉の一つもかけるものです。叱るにしても、根底から人間性を否定するのではなく、どこか優しさを込めたメッセージを送っているはずです。

ところが、自分自身のことになると、とたんに一方的に厳しい言葉を使い、自分を責めてしまいがちです。そこで、落ち込んだ場合は、もしこの状況に自分の大切な人がおかれたら、どのような言葉をかけるか?を考えてみることが有効になります。落ち込んでいるときは、たいてい論理が自己完結しています。そこに強制的に他人を持ち込むことで、思考をリセットする効果があります。

自分に厳しい人は、もともと「他人より優れている」というプライドを持っている場合があります。人よりできるわけですから、周囲にはあまり期待しないで、ひたすら自分に対する要求水準が上がってしまう側面があります。

その結果、失敗すると「本来の自分ならできるのに‥」と、よけいに落ち込んでしまいがちです。自尊心を持つのはおおいにけっこうなことですし、満足のいく人生を送るには必要なものとも言えるのですが、落ち込んだときには逆効果になってしまい、際限なく自分を責める結果になりやすい。

ピンチに陥ったときは一度、自分の大切な人が同じ状況になったら、どんな言葉をかけるか?を考えてみてください。意外に、自分が落ち込んでいる状況でも、じゅうぶん救いがあることに気づくはずです。

(精神科医・西村鋭介)


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