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高速道路の黒い霧(日常の不思議ファイル 31)

東日本大震災の前の年です。何度か相馬に行く用事がありました。
高速2時間、福島西I.C.で降りてさらに2時間。遠かったです。

何度目かの相馬からの帰りの高速道路。
結構な交通量で、走行車線にも追越車線にもそこそこ車が走っています。

追越車線で片目のトラックの後ろについた時でした。
(片目:テールランプが片方切れている)
道路から黒い霧が湧き始めました。

夜でも霧は白く見えます。
黒い霧というより、黒い湯気でしょうか、道路から湧き出し始めました。

そしてそれはあっと言う間に濃い霧になって
周りが見えなくなりました。

周囲を走る車のライトも見えません。
高速道路の道路標識も、道路脇の白い線も、黒い霧に覆われて、
ようやく前を走るトラックの片方のテールランプが見えるだけです。

普通、視界が悪くなれば車のスピードを落とします。
追越車線を走る前のトラックは全然スピードを落としません。
これは、私にだけ見えている黒い霧なんだなと思いました。

少し前に知り合いが見通しの良いまっすぐな道路で、
自損事故を起こて死にかけたことがありました。
居眠り運転ではなく、なぜそんなところで道を外れたか本人も分からないようでした。

もしかしたら、何の理由もなく事故を起こして死ぬ人は
こんなふうに魔に魅入られて事故を起こしてしまうのかなと思いました。

そんな目にあってたまるかと、
見失いそうになるトラックの赤いテールランプの後を追いながら
目まぐるしくどうしたらいいか考えました。

そうだ!

九字切りがあった!

九字を切る時は
大きく振りかぶって腕を振り下ろしたりしますがそんな余裕はありません。

テールランプを見失わないように必死にスピードを出しながら、

「臨兵闘者皆陣列在前…」

腹の底から声を出すどころか、口先で言うのがやっと…

それでも3回ほど唱えると、
時間はかかったけどしばらくすると徐々に黒い霧が薄くなってきました。

すっかり周りが見えた時には、郡山を過ぎたあたり…
思った通り、走行車線にも追越車線にも車がたくさん走っていました。

パニックになってブレーキを踏んだり、
見えないのに走行車線に移動しようとしなくてよかった…

前を走っていたトラックは阿武隈PAで横にそれていきました。
「ありがとう。」心の中でお礼を言いました。

ああ~やれやれ。ホッとして帰路についたのでした。


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