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噂の中学生、長老(日常の不思議ファイル 29)


3人の老人が中学生を連れてピラミッド温泉に泊まりに来ました。

その子の祖母は、
『この子の母親は生まれてすぐの息子を捨てて出て行ったので
この子は母親に捨てられた不憫な子なんだ。』と話していて

あまりに成績が悪くて授業についていけないので特別学級に入れようか
進学は無理だから、いっそ中学卒業してすぐ大工の跡を継がせようか

その子の行く末を案じて、老人たちはいろいろ話し合っていました。
その間、その子は全くしゃべらず、気配を消しているかのようでした。

おしゃべりも一段落して、みんなそれぞれの部屋に引き上げ
その子の祖母に頼まれて男の子の施術をしました。


うつ伏せになったその子の背中に手を置いて何気なく
『この子の母親は今どうしているのかな?』と思った時です、

いきなり私の中にその子の母親の想念が入ってきました!
私にとっては初めての経験です、

『会いたかった!』

ものすごい強い感情が押し寄せて胸を突きます。

一方で、まったく冷静な私の感情が存在して
いきなり始まったこの突き上げる感情の波にめんくらっています。

  その子を想って毎晩泣いたこと、
  胸が締め付けられるような思い…
  そして今、この子が目の前にいる…

感極まって嗚咽が漏れそうになるくらい、感情が高ぶっていました。
ところが私自身はまったくの平静。まきこまれて戸惑っています。

私自身の感情とは裏腹にあふれ出ようとする涙。

いやいやいやいや…ありえないでしょ、
と思っても、押し寄せてくる感情をどうしようもありません。

この感情の生々しさ、
絶対にこれは生きている人だ!と思ったので聞いてみました。

「あなたのお母さんは生きてるの?」

…声が震えないように気をつけながら。

「わかりません。」

男の子はうつ伏せになったまま答えました。

「あなたのお母さんは…あなたのことを愛していますよ。」

涙をこらえながら(私はちっとも悲しくなんかない)
声の震えを悟られないように、やっとそれだけを言いました。

施術は、尻切れトンボのように終わりました。
押し寄せる激情に、もうそれ以上続けていられなかったからです。

そしてそれが終わった後、自分自身を取り戻して?やっと一息つけました。
本当に疲れた。
本当に疲れた…


それからしばらくして、その中学生のその後を聞きました。
(名前は聞いたのですが、忘れてしまいました)

その時にヒロさんとも知り合ったのですが、
ヒロさんの知り合いの後藤さんが選挙に出る時、お手伝いを頼まれました。

選挙といっても本当に田舎です。
候補者は選挙カーを使わず、一軒一軒回ってお願いしていきます。
選挙事務所は自宅です。

後藤さんの自宅の座敷には大きな炬燵があって
陣中見舞いに来る人たちがそこに集まっておしゃべりをしていきます。

私はそこのおばあちゃんと一緒にお茶と沢庵を出す係です。

そこにいた人たちが話しているのを聞いていると
知っている人の話題が出てきました。

Hの爺さん、最近変わったな。」

「ああ、そうだよ、俺らが挨拶しても苦虫かみつぶしたような顔して返事もしなかったのによ。」

「最近はいつ会ってもニコニコしてるよな。」

「それどころかむこうから挨拶してくるぞ?」

近所の人は口々に不思議がっています。そして中学生の話題もでました。

「大工のところのせがれ、あれも変わったなあ。」

「ああ。そう言えばそうだな。」

「前は向こうから自転車で来るのが見えると、こっちの方を見ながら隠れていたりしてたガキだったが…。」

「今はこっちの顔を見ても逃げるどころか大きな声で挨拶するもんだから、どこのせがれかと思ったよ。」

目の前でこんな会話が飛び交って、知っている人の話題が出て
私は不思議な偶然に驚いていました。(田舎は話題が無いから?)

その後のヒロさんの話では、
その子は急に熱心に勉強しだして、なんと進学高校に合格したとか。

そして家族に内緒で自分で調べて母親が隣町で再婚していることを知り
生みの母親に会いに行ったそうです。
今では時々父親も一緒におばあちゃんに内緒でお母さんに会っているとか。

なんだかみんながうまい方向に行って、良かったなぁというお話。


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え!?ホントに?スキありがとうございます♡
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