“あこがれ”は憧れ続けるだけでいい。
長いこと憧れつづけている人がいる。
12年間いっしょに過ごしてきて、
お互いの良いところも、弱い部分も
ぜんぶ分かちあった親友だ。
彼女はすごい、ほんとすごいんよ。
料理がじょうずで、
家事全般が得意。
芯が強くて、ガマン強い。
誰にでも、きびしくて優しい。
じっくり考えてから言葉を紡ぐ。
適度にテキトー。
私にないものをたーくさん持っている。
悔しいくらい、すてきな女性なの。
そして、周りの人からすごく好かれるひと。
私はなんせ、嫌われ役になることが多かった。
リーダーとか、委員長とか。
意見をたくさん言いまくるから、
その分批判もたくさんもらう。
キツいことを言って、
人を泣かせてしまったこともあった。
彼女はちがう。
周りの言っていることにじっくりと耳を傾ける。ほんとうに必要だと思った時だけ、声を上げる。
たまに発するその一言が、話題の芯を突くことが多い。だからみんな、ハッとさせられる。
「人前で積極的に話すのが苦手なだけ」と彼女は言う。
でも、時間をかけて説得力の高いことばを紡げるのは、ひとつの才能だと私は思うんだ。
***
高校生の頃。
私は彼女に憧れて、惚れ込んで、
彼女みたいになろうとしていた。
それはもう、めちゃくちゃ頑張った。
普段は料理なんかしないくせに、
家族にスクランブルエッグを振舞ったり。
(彼女の得意料理↑)
感情にまかせて、自分の考えをすぐ声に出さないよう口を塞いだり。
着ている服だって、すこしマネをした。
外見からでも近づくために。
でも、ざんねんなことに、
どんなに頑張っても
彼女にはなれなかった。
それどころか、彼女になろうと頑張るたびに
すごく苦しくなった。
考えてみれば、当たり前のことだ。
やりたいことを我慢して、
やりたくないことを無理にやる。
ありのままの自分を
ひたすら押し殺していた。
まるで心を失った修行僧のよう。
その時ね、気づいたの。
憧れの人には一生なれない。
無理してなろうとしちゃダメだってこと。
彼女が私にないものを持っているように、
きっと私も彼女にないものを持っている。
それをカンタンに手放しちゃいけない。
憧れの人と自分を比べて
その差に悩むんじゃなくて、
憧れの人のステキな部分を参考にして、
自分の良さとミックスするのがいいんだと思う。
叶えたい夢は追いかけたほうがいい。
でも、あこがれは追いかけなくていい。
「すごいなあ」って眺めているだけでも十分だ。
憧れの人になろうとするんじゃなくて、
その人のエッセンスをちょっぴりお裾分けしてもらうくらいがちょうどいい。
あこがれ=自分にとっての”答え”
ではなくて、
あこがれ=”答え”を探すためのヒント
だと思うから。
***
私はもう彼女になろうとは思わない。
でも、ずっとずっと憧れの存在で、
たいせつな親友だ。
「すごいなあ」
「カッコイイなあ」
会うたび、きっと言ってしまう。
私が私らしくがんばるための、
ひとつのモチベーション。
だから、これからも勝手に
憧れつづけようと思う。
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