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私の愛する瀬戸内―勝丸恭子さん(お天気キャスター)

勝丸(かつまる)恭子さんは、広島生まれ、広島育ちの気象予報士。NHK広島放送局で気象情報を伝えて10年以上になる地元のお茶の間でおなじみのキャスターです。クルージング出発前、瀬戸内グルメを楽しみながら、この地域の気象の特徴や土地の魅力について教えてもらいました。(ひととき2020年12月号特集「瀬戸内Dramatic――海、空、島、船…」より)

多様な地形が天気に影響

 広島で気象情報を伝えるようになって11年目になりますが、瀬戸内の気象予報は簡単ではありません。それは、天気が地形に大きく左右されるからです。中国山地と四国山地にブロックされているため、普段は風も遠慮がちに入ってきて穏やかですが、風の通り道が豊後水道や紀伊水道に当たると、大きな雨雲ができてたくさんの雨を降らせることがあります。予報の際、風向きと山の存在をそれぞれどれだけ考慮するか、その加減が難しい。沿岸から1時間も内陸に入ればスキーのできる豪雪地帯があるなど、狭い範囲に多様な気象が存在するエリアでもあります。穏やかそうに見える瀬戸内ですが、ときに厳しさを見せる場所でもあるのです。

 経験を重ね、だいぶ地形を考慮した予報ができるようになりましたが、まだまだ勉強中。視聴者の方が「天気予報、頼りにしてるよ」と声をかけてくださったり、小さい子どもたちが「いつも見てる」と言ってくれたりするのを励みにがんばっています。

 同時に年々、気象予報士としての責任が重くなっていることも感じています。気象予報士の仕事を始めて間もないころ、地元で水害が起こり、いざというときに聞く耳を持ってもらうには、普段から信頼してもらうことがとても大切なんだと痛感しました。今は、難しい専門用語はできるだけ使わずにわかりやすく伝えるだけでなく、気象の面白さを感じたり共感したりしてもらえるよう、身近な天気の話題も一緒に届けることを心がけています。それは、日頃から空を見上げたり、気象に関心をもったりすることが防災意識につながると思うから。私の天気予報を見て「空を見ることが多くなった」という声をいただいたときは、本当にうれしかったですね。

心が落ち着く瀬戸内の風景

 今、大好きな地元で大好きな仕事ができていることを、とても幸せだなと感じています。でも、地元の良さを確認できたのは、大学時代に広島を出て、外から見る機会を得たことが大きかったかもしれません。

 瀬戸内の景色って「行き止まり感」がありませんか? このこぢんまりした感じがとても落ち着くんです。山もアルプスのような壮大な山ではなく小さな山ばかり。空も小さい。東京は、大きな関東平野にあるので空が大きく感じられますが、瀬戸内では、視界のどこかに必ず島影が入るので空が小さく見えるんですよ。水平線が見えるところも限られています。以前は、はるか遠くまで見渡せる太平洋の大きさに憧れたりしましたが、今は、瀬戸内の「囲まれている感じ」がいい。湖のような穏やかな海を見て育ったので、日本海のザブーンという波の音もコワイです(笑)。

クルーズ

海の幸や多島美が魅力

 瀬戸内海では、獲れる魚もマグロやカツオのようなダイナミックなものではなく、小ぶりで地味。でもとっても美味しいですよ。夏になりますが、小イワシ(カタクチイワシ)の刺身やねぶと(イシモチ)の天ぷらなどは季節を感じさせてくれる味です。こうした食材の美味しさも広島を離れてあらためて気づいたこと。父親の釣ったメバルを煮付けにして食べるのがいかに贅沢だったかがわかりました。夜、ドライブで訪れた海辺で、釣り人が釣ったばかりのイカを醤油につけて食べさせてくれて、それがものすごく美味しくて驚いたこともあります。牡蠣やしじみなど貝類も豊富。学校の給食に牡蠣ご飯が出たのを覚えていますね。

レストラン

お話を伺ったのは、広島県三原市のすなみ海浜公園の敷地内にあるイタリアン「リストランテ ゾーナ フォルトゥナート」。写真はおすすめのおまかせランチ。瀬戸内の食材を用いたメニュー8種をワンプレートで

 おすすめしたい瀬戸内の景色はたくさんありますが、私はJR呉線沿いの景観が好きです。海沿いに道路と線路が並走し、その背後に山が迫る。まさに瀬戸内ならではの風景です。もっとダイナミックな景観を楽しむなら、しまなみ海道でしょう。私が子どものころに開通した瀬戸大橋も迫力満点です。ここは修学旅行や家族旅行の思い出の場所で、その大きさに驚いたり、橋から見る海の景観に感激したりしました。

 広島県の野呂山(のろさん)や岡山県の鷲羽山(わしゅうざん)など、車で天辺(てっぺん)近くまで登ることのできる小さな山が多いのも瀬戸内ならではかもしれません。見晴らしのいい場所へのアクセスが楽なので、瀬戸内最大の魅力である多島美をぜひ堪能していただきたいですね。

勝丸さん2

勝丸恭子(かつまる きょうこ)
気象予報士。NHK広島放送局のお天気キャスター。広島県海田町(かいたちょう)出身。横浜国立大学卒業。NHK広島「お好みワイドひろしま」「中国地方の気象情報」「ひろしまニュース845」などに出演。「カープとお好み焼きが大好き!」という地元愛と、テレビ番組の取材や制作経験を活かして、わかりやすく楽しい気象コーナーを目指しているという。

文=佐藤淳子 写真=佐藤佳穂

佐藤淳子(さとう じゅんこ)
旅行業界誌副編集長を経てフリーランスに。国内外の紀行文のほか著名人のインタビューも手がける。

出典:ひととき2020年12月号

話題の高速クルーザー「SEA SPICA(シースピカ)」での勝丸さんの船旅の様子は、本誌にてお楽しみください!

H12月号特集トビラ画像

特集「瀬戸内Dramatic――海、空、島、船…」
“空の探検家"武田康男さんに聞く! 日本の空は世界のどこよりも面白い!
◉グラビア 瀬戸内で出会う神秘的な空模様
◉紀行 島めぐり、空めぐり 旅人=勝丸恭子
◉To Do List in 瀬戸内
◉瀬戸内―海、空、島、船…〔案内図〕

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