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【CURLY&Co.】心地いいセットアップの秘密は高い縫製技術にあり!

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2018年11月号 「メイドインニッポン漫遊録」より)

香川発、上質な大人のふだん着

 昨今、紳士服はクールビズやスニーカー通勤など、どんどんカジュアルになっている。

 そんななかで注目されているのが、カジュアルセットアップである。セットアップとは、ジャケットとパンツが共地(ともじ)で単品でも上下揃いでも着られる服のこと。素材がジャージだったり、スニーカーを合わせたりする着こなしをカジュアルセットアップと言います。

 こう書くと何だか若者向けの格好みたいですが、いえいえ、そんなことはない。カジュアルセットアップはきちんとしていながらも楽ちんで、ちょっとした外出や小旅行など、実はシニア世代のふだん着にちょうどいい。

 筆者のお気に入りは、「CURLY&Co.(カーリーアンドコー)」というカットソーブランドが定番で出しているセットアップだ。ジャケットは本格的なテーラード仕立てながらも伸縮性のある生地で、気どらずカジュアルに着られる。パンツはタック入りで腰回りにゆとりをもたせたシルエット。ジャケットと同素材なので長時間はいてもストレスを感じない。

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トラックジャケットとトラックパンツ。単品での着用はもちろん、セットアップで着られる。布帛〈ふはく〉ではないカットソーならではの柔らかなシルエットを楽しめる。ジャケット28,944円、パンツ20,952円 (*価格はすべて税込です)

 カットソーとはカット&ソーンの略で、ニット生地を裁断して縫製すること。Tシャツや下着といった代表的なアイテムを総じてカットソーとも呼ぶ。カーリー&コーはこのカットソーを得意とするブランドで、上質な生地にこだわった真面目で丁寧な服づくりには定評がある。有名セレクトショップや大手百貨店の別注も多く手掛けており、東京青山に「The Weft(ザ ウェフト)」という直営店もある。

 なにより筆者が気に入っているのは、デザインから縫製まで香川県さぬき市の自社工場で行っていることだ。そこで今回はカーリー&コーを訪ねて、香川県を旅して参りました。

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取材は8月。川北縫製の周辺では、稲の穂がまもなくの収穫を待っていた

奇跡の出会いから生まれたブランド

 小魚が泳ぐ清流に架かる橋のたもとに建つのどかな田舎の一軒家、ここがカーリー&コーの工場兼オフィスである。年季の入った表札は「川北縫製」と書いてある。

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カーリー&コーの工場兼オフィス(真ん中の建物)の前の小川に架かる橋を渡る筆者

 香川といえばうどん県だが、国内生産の9割をしめる手袋の産地としても知られている。川北縫製は昭和38年(1963)、手袋工場として創業。昭和43年にTシャツや肌着といったカットソー専門の縫製工場に転換して輸出用のカットソーを生産。やがて国内向けのOEM*生産にシフトして、最盛期には月に10万枚以上も生産していた。

*Original Equipment Manufacturerの略語で、製造メーカーが取引先のブランドの製品を受注・製造すること

 しかしこの業界もご多分にもれず、90年代半ばからバブル経済の崩壊や急激な円高、安い中国製品に押されて、会社の状況は一変する。ついに平成13年(2001)、川北縫製は大幅な工場の縮小を余儀なくされて、社員をリストラするまでになってしまった。

「品質で勝負しようと頑張りましたが、従業員を3人だけ残してまさに倒産寸前でした」

 社長の川北繁伸さんは、そう当時を振り返る。平成15年、父親から工場を引き継ぎ、モノづくりの誇りをもう一度取り戻したいと懸命に経営を立て直していた。

 そんな時に出会ったのが、デザイナーの伊藤裕之さんだ。元々は高松市のセレクトショップで商品の販売と企画をしていた。川北縫製の技術に惚れこみオリジナルカットソーをお願いしたことから、2人の縁は始まった。

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社長の川北さん(左)とデザイナーの伊藤さん。一回りも年が違う2人だがモノづくりに対する思いは同じだ

「川北縫製のカットソーは着てみるとよくわかりますが、縫製に立体感があるんです。平面的ではなく柔らかな奥行きがあるというか。とにかく縫製の仕事が精密で丁寧なんです」

 川北社長の隣でそう熱く語る伊藤さん。こうして、モノづくりの誇りをもう一度取り戻したい川北さんと、自分の感性を活かして本当に納得のいくモノをつくりたい伊藤さんは奇跡的に出会い、川北縫製はカーリー&コーとして新たにスタートしたのである。

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先代の元〈はじめ〉さん。経営から離れてもまだまだ腕は現役。毎日工場に顔を出してはミシンを踏む。かつては年配の職人ばかりだったが、カーリー&コーができたことで縫製技術を学びたいと入社を希望する若者が増えたという

一つ屋根の下で真面目な服づくり

 カーリー&コーのオフィスはお洒落にリノベーションされてまるで青山あたりのカフェみたいである。いやはや先ほどは田舎の一軒家と言ってしまって申しわけない。さっそく川北社長の案内で工場を見学させてもらう。

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ドアから向こうは、外観の印象をくつがえすシックでスマートにしつらえられたオフィス空間

 日本各地に発注をかけたカットソーに使われる生地が入荷すると、最初にする作業が「延反(えんたん)」だ。ロール状で届く生地の原反を裁断するために、必要な長さや枚数に従って延反機で平らに延ばす作業である。この時、生地は延反機に掛けて延ばす前にロール状の原反を解いてしばらく休ませる。

 こうして延ばした原反を型紙に合わせてマーキングしてざっくりと切っていく。これを「粗裁(あらだ)ち」という。そして粗裁ちした原反をきれいに型紙に合わせて裁断する。この作業を「小裁ち」といって、最も技術と経験を必要とする。小裁ちをできるのは、先代と現社長の川北さんの2人だけなのだそうだ。

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専用の機械を巧みに操り「延反」を黙々と行う川北社長

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裁断したカットソーのパターン(写真右)(型)の柄合わせをするデザインチーム。デザインだけでなく、パターンや生地の企画など、クリエイティブ全般を行う 

 その真面目で丁寧な作業工程は、なんだかまるで職人が美味しいさぬきうどんを生地から打って延ばして作っているみたいである。

「ええ、さぬきうどんと同じですね(笑)。私たちはこうしたすべての作業を一つ屋根の下で行うことで、職人もデザイナーも一緒になって素材選びから縫製方法の細部に渡るまで気を配って服づくりをしています。それがカーリー&コーの強みであり誇りです」

 出来たてほやほやの秋冬の新作のジャケットを試着させてもらう。あちゃあ、お昼に美味しいうどんを2杯も食べちゃったから釦(ボタン)が掛からない。トホホ。

いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
◉CURLY&Co.[有限会社川北縫製]
<所在地>香川県さぬき市大川町田面98-2
☎0879-43-3077
http://curly-cs.com/

出典:「ひととき」2018年11月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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