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イノベーションを支えた中国人材と未来【996→997→?】


はじめに
激変した中国の働き方
996から997、さらには797へ?
超モーレツ社会の原因①:厳しい競争
超モーレツ社会の原因②魅力的な報酬
超モーレツ社会の原因③のしかかる生活費               企業と人材の996への考え方                     結びに‐人間も社会もいつかは休みが必要

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はじめに**

【キャッシュレス経済】【スマートシテイ】【画像認識技術】、2010年代の後半から日本のテック-イノベーション業界における中国の注目度は爆発的に上昇しました。

多くの新技術や新ビジネスが中国で花開いた際、日本では中国の技術力や、社会システムに対する研究が進んでいく一方、【人材】という要素についての理解は進んでいなかったのではないでしょうか?

(あらゆる技術やサービス、社会システムを支えてきたのは人材-人財である)

私自身、中国でキャリアコンサルタントを生業としている身であります。
昨年までは契約関係でお話し出来ませんでしたが、今回は中国のイノベーション人材とそれを取り巻く環境について再度まとめさせていただきます。

激変した中国の働き方

かつて中国は厳格な社会主義を強いており、よく言えばゆったりとした労働環境、悪く言えば労働者のモチベーションが低い社会でした。【いくら働いても給与は同じ】【国家が仕事や役職を割り当てる】という社会では、競争や効率化が起きようもありません。

(国家が職場と収入を保証する社会が1970代初期まで続いていた)

1970代からの改革開放路線によって、【職業選択の自由】と【社員ごとの給与金額の変化】を皮切りに、中国における労働環境は大きく変わりました。2010年代からはBaidu、Alibaba、tencentなどのハイテク企業が社会をけん引し始める時代を迎えています。

(BATと呼ばれる企業群だが、中国でも常に新産業が生まれつつある)

ハイテク企業や中国イノベーション企業で生まれてきたのが、【996.ICU】という労働スタイル-働き方です。

996から997、さらには797へ?**

さて【996.ICU】という言葉の意味ですが、ご想像できますか?答えは【朝9時始業、夜9時終業、週6日労働。その先の未来はICU-集中治療室】という意味で、現在の長時間残業とストレス社会を皮肉った内容です。

(2019年には996.ICUを皮肉ったWEBサイトにて長時間労働を訴訟しようとする社員が集まっている)

996を行っているのは日本企業をはじめとする外資企業ではなく、前述のBATをはじめとするハイテク/イノベーション企業が中心となっております。

(中国の残業時間が多い企業の順位。HUAWEIやTENCENTの1日当たり残業時間は平均で4時間を超える)

前提として中国にも勿論労働法はあり、週5日40時間労働があります。労働法の違反企業には実名入りで会社名を全国紙で報道することや、企業への厳罰は日本よりも非常に厳しく、いわゆるブラック企業の告発には奨励金も支払われます。

近年では【朝9時始業、夜9時終業、週7日労働₌997】や、【朝7時始業、夜9時終業、週7日労働₌797】が生まれつつあり、労働時間はむしろ長くなりつつあります。

(モーレツ社員の労働は続く)

ではなぜ996.ICUが、中国の未来を担う企業で一般化しているのでしょうか?

超モーレツ社会の原因①:厳しい競争

中国国内における各企業の生存競争は過酷を極めるものであり、一説には中国の企業平均寿命は3年といわれています。また各社が競って新しいサービスを打ち出すために、各社ともサービスの改善や営業努力へ全力をもって望んでおります。

(近年の中国国内のスタートアップ倒産数。企業価値100億円が超える企業の倒産も日常茶飯事である)

企業間の競争のみではなく、社員-つまり労働者間の競争も激烈です。中国の高等教育を受けた人材、つまり大卒者数は年々増加傾向にあります。新しい人材が社会に出るとともに、実績や成績をめぐる争いは激化し続けているのです。

(中国の大卒者数はすでに年間800万人を超えている)

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超モーレツ社会の原因②魅力的な報酬

競争が激しい社会ですが、それに見合うだけの給与も提示されています。現在中国国内の新卒者の給与は、額面で6500元前後(日本円で約10万円)となっております。毎年7%前後の昇給率を誇る社会では30歳のころには、1.5倍の10,000元に届くことも珍しくありません。

(成長の鈍化が叫ばれる中国だが、経済成長率は日本の7倍近くになり、可処分所得は日本を上回っている可能性もある)

さらに996社会の中で生きる人材の給与は飛びぬけて高い現状です。【結果を出せる社員には報いる】というのが、現在の中国労働事情です。

(新卒者にかかわらず、技術者や優秀社員にはとびぬけた給与を払う社会である)

超モーレツ社会の原因③のしかかる生活費

急成長を迎えた中国ですが、多くの人材や企業は大都市に集中しております。

(急速に都市化を果たした中国)

その一方で、家賃や不動産価格はとびぬけて高いままであり、優秀な人材が都市でよりよい生活をつづけるためには、高い生活費そして高収入の仕事につかざるを得ない状況です。

(深圳では不動産購入のために世帯全収入の35年分、北京でも33年分が必要である)

企業と人材の996への考え方

企業側も人材も、【今の高成長を支えるためには996は必要なことだ】【自分たちが中国の未来を支えている】という考え方を持っており、ある意味996は広く受けいられております。

(アリババ代表、馬雲‐Jack Maは「996は努力する機会であり、我々はいまこそ努力しなけれなばならない】と述べています)

「中国ハイテク企業の人材を、働きやすい日本へ招くことができるかもしれない」などという、ビジネスアイデアは現状あり得ません。

(中国イノベーション人材にとって、現時点の中国が最高の機会を生み出す国であり、他の国に行くのは【逃走】である)

結びに‐人間も社会もいつかは休みが必要

世界経済の15%を担う中国。イノベーションと積極的な外交政策を行っていますが、深刻な少子高齢化という問題を抱えています。

(2030年には60歳以上が3.7億人、2050年には4.8憶人を超える)

働き盛りの中国ですが、時代の変化とともにまた新しい働き方が生まれるのかもしれません。

(世代ごとに異なる働き方、労働観。今後はどのように変化していくのだろうか?)

筆者連絡先
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・加藤 勇樹(余樹) 2015年より、広州・深セン・香港で人材紹介‐企業へのコンサルタントサービスを展開。17年より中国・大湾区の動向やイノベーションアクセラレーターとの協業で活躍

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