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Labの男56

 Labの男56

現代でも
裏で世界を操っていると囁かれる英國。
イギリス発信で諜報戦術が大いに発展し
スパイ活動が活発化
情報が戦況を変えるほど威力を発揮したのは
世界大戦から。
以降は水面下での活動が著しく
情報戦が加熱し続ける。
イギリスの支配から逃れるため
アメリカは独立を宣言
世界史では建国したとされているが
まだまだ現代でも色濃く影響を受け
実質は、独立出来てはいない。
旧ソ連に遅れをとる事を恐れたアメリカは
躍起になって架空敵を創り戦争を起こし
再び儲けようとしていた。
第一次、第二次大戦の時の様に。

黒長髪色白長身の男が
アメリカ軍の偉いさんに提言している。

パイプ片手に恰幅のいい偉いさん
 「徹底した勝利は遺恨を生むぞ。反乱分子をな。
  そこまでして勝ってどうするんだ」

黒髪ロング色白
 「大戦でせっかく減った人口です。
  これ以上増やさず優良な人種だけを残す。
  人類永遠の平和はそれ以外には望めませんぞ。
  その為には独裁の人類コントロール
  しかありません」
拳を強く握りしめて熱弁を発する。

黒髪ロングは、熱弁とは裏腹に
現実的な限界を押えつつ可能な実現ラインを説く。黒髪ロングにしてみれば独裁は
あくまで手段であって世界征服は目的ではない。
国家の安定。
志の高い彼は人類永劫の平和を目指す。
平和をやるからには、
ここまで膨れ上がった人口では到底ムリと
ハナから見切りをつけて
大戦、もしくは災害によって激減した人口を
それはピンチをチャンスに転換する
好機だと捉えてるからだ。
例えるなら
劣勢の戦況下、味方陣地になだれ込んだ敵兵
通常ならもう手も付けられないと判断を下しても
仕方がない状況に
【攻め込んだ敵が集結している。
  このタイミングは好機】と捉え
大量虐殺兵器を躊躇なく使用する
絶好のタイミングだと思う発想に近い。
 『ニンゲン道徳の話ではなく
   あくまでも作戦としての話』
目的の実現可能ラインの手腕は優生思想とも
捉えられる。

パイプをくわえ煙を燻らせ偉いさん
 「君はアドルフ・ヒットラーを知っているか?」

志し高い系黒髪ロング
 「フッふっふふ、
  知りませんな〜ぁ そんなチョビひげ」

  「はっははは
   ジョークも言えるとは知らなかったな。
   時代を読み違えた男
   担ぎ上げられた者のさだめ
   いつでも行きつく先は決まっている。
   キミはチョビひげの化身にでも
   なるつもりかね?」

 「絶対民主制はどこぞの国のように
  軟弱者を生み出す製造機になり果てるだけ!
  放っておけば
  大多数の人類は共喰いになりますぞ」

黒髪ロングは自身の行いを
正義とは言っていない。
公の発言では後の歴史が証明するだろう風に
説いてはいるが共喰いになるであろうと
偉いさんにはハッキリ物申す。

黒髪ロング
 「まぁ、勝ってみせますよっ。
  狂人の化身の闘争 
  とくと、ご覧あれっ!」
手を後ろでに去ってゆく。

偉いさんがヒットラーの話をしてみせたのも
黒髪ロングが好きであるからだ。
黒髪ロングの結末を知っているが故に
悲しく彼を見送る。
凛と立ち去ってゆく黒髪ロングの背中を
モノ哀しげに見送る偉いさん
袂をわかつ瞬間であった。

「惜しいヤツを亡くしてしまうかもしれん
 時代はアイツを選ばんだろうな」

偉いさんは憂鬱な遠い目をして
ケムリじゃないため息を吐く。



ライトアップされた
透明の強化プラスチックに囲われた5Mの立方体
牢獄を前に黒髪ロング全身黒ずくめの長身
腕組みをして突っ立っている。
玄白とマコちゃんが去ってからそれほど
経っていないのだが誰も
彼の存在は分かっていない。というか眼球には
映し出されてはいるが脳が認識していないから
見えていないと言ったところか。

 「キミに会うといつも
  軍部にいた頃を思い出すよ。
  霞目 権三!
  あれだけの失敗事故を起こしても
  研究は手放せない貴様は変わらんな。
  バケモノになっても性根は変えられんか。
  むしろ若返ってるんじゃないか?」

  「お前も変わらんな!時間があの時から
   止まったままの姿だな。
   稗田 清十郎【ひえだ せいじゅうろう】
   また、
   お前の能力でみんな見えてないんだな」

 「オマエはいつもそうだ!
  軍部の命令にも関わらず
  生体兵器を作れ!と言われても
  神経ガスでさえ作るのを拒んでいたな。
  オマエは技術があるんだから
  直ぐにでも兵器を造ってさえいれば
  あの戦争も終結させれたんだよ」

  「あいも変わらず稗田少佐は
   頭の中だけで話すな!
   プライドが高いのと頭でっかちは
   ちっとも治らんな。
   死ななきゃ〜性根ばっかりは
   どぉ〜にもらんか?はははっ」

 「大戦は1964年から約8年は続いた。
  なんて不毛な8年だよ。結局、世間は
  アメリカが悪いと落とし所が決まった」

  「お前は戦地の最前線から消息不明
   そこからは戦死、扱いだった。
   アレからもう60年とはさすがに
   時代の価値観も2転3転
   したんじゃないか?
   なのにオマエはちっとも変わらん。
   志しだけの清い水には
   ヒトは住みづらく感じるんだよ!
   まだ、わからんのか!稗田よぉ」

 「ぬかせ!囚人風情が!俺には響かんよ。
  えらく、あの若者をかってるようだな。
  できるのか?」

  「彼は、素直だから好きなのさ。
   お前とは違ってやせ我慢はしない。
   美徳だけじゃ〜人生豊かにならん」

 「まだお前の身体にはモンスターが
  巣くってる様だが
  まだ手懐けるには時間がかかるのか?
  いやいや、目処は立っている筈だ。
  分かっているのに彼の学びに
  役に立ってもらおうとなんて
  おもっているのか?
  甘いよ、霞目 権三。いくら待とうとも
  人類は同じ過ちを繰り返すだけだ」

  「ははははっ!
   オマエが見ようともしないからだろ。
   お前の嘆きグセは犬も食わんよ」

 「むしろ清々しいくらいだな。
  お前とは交わることの無い平行線だ。
  なんだか楽しくなってきたよ。
  のうのうと暮らす馬鹿どもに罪と罰を
  然るべき鉄槌を喰らわしてやる。
  せいぜい人づてにでも刮目するんだな。
  暴走したお前の能力と
  覚醒の先に到達したワタシの能力
  どっちが正しかったか、しっかり
  プラスティック牢獄で噛みしめるんだな」

  「厳密には覚醒が裏返ったんだがな」

 「ほざいてろ、ナニが暴走と違うんだ
  同じ事だろ?コントロール出来ないんだから」

  「クックック、裏の裏は表なんだよ。
   時間の問題だ。お前こそ吠え面かくなよ」

 「お前は生意気でいいよ。もう私の周りには
  そんな口すら叩けんヤツばかりで
  少々退屈になって来た。
  我が理想への計画は着々と進行中だ。
  オマエも楽しみにしておけ。
  世の中をひっくり返してやる!ははははっ」

くるりと振り返り手を後ろでに
そのまま立ち去ってゆく。

霞目は、ため息まじりのしかめっ面で
 「なんだかんだ、あいつはアイツで
  さみしさを認められないだけだろう」

ジャコウの香りが充満していた。

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