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ディレクションを調整・管理だと思っている限り、ディレクションは成功しないという話

「ディレクターなんてなりたくないっすよ」
「何で?」
「だって、調整ばかりして何も楽しくなさそうっす」
「・・・」
「何のスキルが身につくかもいまいちわからないですし」
「・・・」
「で、実際どうなんですか?」

今日はこの質問に答えるための記事です。
ディレクターという仕事は、様々な業界で色んな呼び名があるが、すべからく管理、監督、演出、指揮などディレクションをすることを仕事にしている職業だ。
「今回のプロジェクトのディレクションは〜さんでお願いします」
「〜さんのディレクションが悪かったね」
など曖昧な意味でこの言葉は使われることがよくある。

私の周りでもこの仕事をしている人は多い。
ただ、自分のディレクションが上手くいっているのかどうか不安を抱えながら、仕事をしている人がほとんどだ。上手いディレクション、成功といえるディレクションとは何なのだろうか。また、それはどうやったら身につくのだろうか。

ディレクションとは何か?
まずは曖昧なディレクションという業務を定義したいと思う。
ディレクションの業務には大きく2種類ある
①プランニング
②マネジメント
何をするかを決めて(プランニング)→実際に行う(マネジメント)だ。
それぞれ詳しくみていく。

①プランニング
何をするかは既に決める人がいて(プランナーやプロダクトオーナーなど)、ディレクターに決める権限はない!という方がいるかもしれない。はっきり言うと、そう考えている時点で、あなたのディレクションは終わっている。恐らく、途中で炎上するだろう。

プランニングとは「自分の言葉でなぜ何をするのかを語ること」である。
大切なのは「自分の言葉で」という部分である

あなたの上位レイヤーの方が既になぜ何をするかを決めていたとして、あなたはなぜそれをすべきかを自分の言葉で語れるようにならなくてはいけない。何故ならば、後工程の"実際に行う"では幾度となく、なぜそれを行うかをクリエイターや協力者へ語る必要があるからだ。

もし、自分の言葉で語ることができないのであれば、まずは上位レイヤーの人と話すべきである。なぜやるべきなのか、自分はどう思っているのかを納得できるまで話し合うべきだ。

プランニングの失敗のほとんどは、この「なぜやるのか」「何をやるのか」の2点にディレクター自身が納得できていない、もしくは自分の言葉にすることができていないことに起因する。

営業とエンジニアの間で板挟みになる
権威とユーザーの間で板挟みになる
経営とメンバーの間で板挟みになる
ディレクションあるあるではないだろうか。

この板挟み問題を解決するとき、最悪なのは主語を間違えることだ。
「営業がこう言っていました」「経営がこう言っている」
これを始めると、あなたの役割はただの伝書鳩になってしまい、両者を同じ場に引き合わせる会議をセッティングし、修羅場を見つめることが仕事になる。

主語は必ず「私」だ。
つまり、自分はどう思うのかを常に心に問うべきだ。
例えば、経営とメンバーの間で板挟みになる状態というのは、経営とメンバーで意見が異なる状態である。その時、自分はどう思うのか、自分はどうしたほうがいいと思うのかを常に考える。
そして、「私」がやりたい、正しいと思うほうで勇気を持って進めるのだ。

板挟み問題が難しいのは、ほとんどの場合、両者の言い分が共に正しいからだ。スペシャリスト達は見えているものがそれぞれ異なる。自分の見えている世界から意見を言うので、それぞれの論理は通っているのだ。

では、どう判断・決断したら良いのか。
それは最初の「なぜやるのか」「何をやるのか」に戻るべきだ。ここに立ち返り、芯をぶらさずに決めれば良い。どちらかの意見を聞かないことになるかもしれないが、それでも良い。結果がでれば多くは納得してくれる。結果がでなくても、真摯に反省してそれを糧にして進めばいい。
むしろ、芯をぶらさず決めて進めたことを評価されるはずだ。

「自分の言葉でなぜ何をするのかを語ること」
これがプランニングにおいて一番大事で、一番難しい。

②マネジメント
実際に行う工程だ。この工程のことだけをディレクションや工程管理と呼ぶ人もいるが、そう思っているならば、ディレクション業務としては中途半端だと思う。タスクの管理だけでは、うまくいかないのだ。

「実際に行う工程」の特徴は多くの人が同時並行で関わるということ。また、動くタスクの量が膨大になるということ。そこで必要になってくるのが人のマネジメントだ。関わる人たちがモチベーション高く業務を遂行できるようにエンパワーメントすることが必要になる。
関わる人たちのマネジメントができれば、タスクもみんなが管理してくれるはずである。

ここでの主語は「私」がどう思うかではなく、「みんな」はどう思っているかだ。常にあらゆる関係者の気持ちになり、物事をみるべきだ。

また、この工程ではあらゆる判断が求められるだろう。どっちにしたら良いか?もっとこうしたらいいと思うけど、どう思うか?など、色んな人が色んなことを言ってくる。
この時に大切なのは「客観的な視点」だ。「私」や「みんな」がどう思うかは関係なく、事実は何なのか、それは目的に向かう時に必要なのかを冷静に見極める必要がある。

「〜さん、〇〇の制作進行ってどうなっていますか?」
「はい、間に合うと思います」
「そうか、よかった」

これではダメなのだ。
「間に合うと思う」なんていう主観の意見は聞いておらず、事実はどうなのかを教えてもらい、冷静に見極めよう。

「このクリエィティブにしたらいいと思うのですが、どう思いますか?」
「そうだね、私はこっちのほうがいいと思うな」
「そうですか、ではそっちにしましょうか」

これもダメ。
「私はこっちのほうがいいと思う」なんていう私の意見は何の参考にもならない。客観的な判断材料がないのかを冷静に見極めよう。

「みんなの気持ちになりながら、物事は客観的に判断すること」
これがマネジメント工程において求められていることだ。

ディレクションに必要なスキル
①のプランニングを関係者間の意見を合わせる「調整」
②のマネジメントをタスクを管理する「管理」
だと思っているならば、今すぐ考えを改めたほうがいい。

①のプランニングにおいて、関係者間の意見は無理に合わせる必要がないし、
②のマネジメントにおいて、タスクの管理をするよりも人をマネジメントすることの方が大切だ。

ディレクションに必要なスキルは何か?ディレクションで身につくスキルは何か?と言われたら、私はこう答える。
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「3つの視点を行き来し、それぞれの視点を使い分ける力」
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3つの視点とは「私」「みんな」「客観」の3つだ。
自分はどう思うのか、みんなはどう思っているのか、客観的にみるとどうなのか。常にこの3つの視点を考える。また、考えるだけでなく、今はどの視点で発言をしたほうがいいかを使い分ける力。

非常に高度なスキルだが、一度身につけてしまえば、どこにいっても汎用的に使えるポータブルなスキルだと思う。ディレクションの業務をするときに、これを意識しているかどうかで成果が大きく変わる。

デザイナーやエンジニアなどのクリエイターは具体と抽象の行き来が得意だ。具体的なモノと、抽象的な概念を視野を変えて見ることができるのだと思う。
普段から具体と抽象の行き来をしているからこそ、身につく力だ。

ディレクション業務をする人は視野ではなく視座を変えるべきだ。誰の視点から見ているのかを変える。そうすることで、ディレクション業務は成功に近く。

どうやったらディレクションのスキルが身につくのか
実際にディレクションのスキル=「3つの視点を行き来し、それぞれの視点を使い分ける力」はどのように身につけることができるのだろうか。

至極当たり前であるが、それぞれの視点を業務の中で常に意識することが1番の近道だ。

人は意識をしないと、自分の視点で物事を考えてしまう。私はこう思う、私はこう感じたと。その時に、ふと立ち止まり、その場にいる他人の立場だとどう思うのかを考えてみるといいだろう。
わからないということであれば、その立場の人の業務への理解が足りてないことになる。

デザイナーやエンジニア、カメラマンなど、実際に自分で試すことができる職種は少しでも自分で経験してみると、気持ちがわかるようになる。

経営者や権威など、簡単に経験できない立場の人の気持ちを知るには対話をするのがよい。どう思っているのかを知ろうとすると、喜んで話をしてくれる。

さまざまな立場から物事を見て、どう感じているのかを想像することで、ディレクションのスキルは身についていく。

ディレクション業務は結構高度なスキルが必要なのだ。
私ももっと勉強していこうと思う。


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