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祖父と私と算数


私は数学が好きだ。

数学はいろいろ解法があるが、その中でオリジナルの解き方を見つけられた時が嬉しい。
高校では数学A〜C、数学I〜IIIまで全ての科目を勉強し、空間認知系の図形の問題と微分積分は得意分野だ。
また、高2年の時、数検2級を取得した。
合格率は低い方だか一発合格である。

ちなみに大人になった今でも
時々4桁の数字を見ると加減乗除で10にできるか密かに計算している。


これほど数学好きとなったのは、ある人物の影響があってこそ。
その人物に教えてもらった経験無しでは数学好きの私は構成されていないように思えるのだ。



その人物とは、私の祖父である。



話は小学時代に遡る。
当時の私は算数が嫌いだった。
思い返せば、時計の針の読み方も習得するのはやや遅い方だった。九九の暗記は音の響きが良くて覚えたが、dlやmlが出たあたりで苦手意識が芽生えた。
なぜ、1デシリットルが0.1リットルなのか。
こんな意味のないルールを決めたのは誰なのか。
これを知ることで一体何の役に立つのか。
なんで算数がこの世に存在しているのか。
そんなことばかり考えていた。
算数は答えが1つしかないから、答え合わせではすぐ不正解に気づいてしまう。
自分で答え合わせして、赤ペンのペケマークばかりになると嫌気がさしてくる。

「算数きらい」

ある日、おじいちゃんとの電話で本音がポロリと出た。
それを聞いたおじいちゃんは、
「そうか、でも算数も楽しいんよー」とのんびりと言った。

後日、反応とは裏腹にこれはいかんと思ったのか、おじいちゃんが算数を教えてくれることになった。

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私の祖父は土木・建築関係の仕事についていたため、数学はお手のものだった。
幼少期は神童と呼ばれていたようで、頭も良かったようだ。
どちらかというと口数が少なく、帰省した時も、学校は楽しい?元気にやっとる?みたいな会話が多かった。
今思うと、どう接して良いか分からなかったのかもしれない。


そんな祖父と固定電話についていたFAX機能を使って、リアルタイムでやりとりをした。

「〇〇ちゃんが、メダカ12ひきと金魚3びきをかっていました。メダカの数は金魚の数のなんばいでしょう?」

自分の名前が書いてある手作りの問題と
遠くにいるおじいちゃんと繋がっていることにウキウキした。

こうして、様々な問題を解いていったのである。

解いてみると、簡単な公式を使う問題ならほとんどできたが、文章問題になると途端にできなくなったりした。
そうすると祖父は少し難易度の低い問題を作ってくれた。他の問題集と違って、間違えたところはしっかり解説文が書かれていた。
とても丁寧な解説だった気がする。


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結果として、その時に算数の実力が急激に上がることはなかった。
けれど、その頃から算数が嫌いとは思わなくなっていた。今まで、数字を見るだけで目を背けていた私だったが、苦手だけどまずは解いてみようと思えるようになったのだ。

教えてもらっているけど、テストの点に反映されないことの後ろめたさと、
嫌いが、嫌いじゃなくなった心境の変化から
「おじいちゃんのおかげで算数が好きになったかもしれない」と言ってみた。
すると、それが人づてに祖父の耳にも届いた。
祖父は泣いていたらしい。


その後、数年経ってようやく数学の面白さがわかった。今までの知識が繋がってきて、先生の解説以外の方法で解いたり、友人から教え方がわかりやすいといわれることでどんどん好きになっていった。



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私は数学が好きである。
そのきっかけはおじちいちゃん。


祖父は、口数が少なかった。
けれど、子煩悩でなんでも力になってくれる人物だった。
数学を通して触れ合った期間。
今思うと数学の勉強以上に大切な時間だった。
亡くなって数年経つが、祖父に教えてもらった思い出は、いつまでも私の心に残り続けている。