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まほろ駅前 多田便利軒 三浦しをん


〜ほっとひと息したい時に。
       完璧主義者にオススメの本〜

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『まほろ駅前 多田便利軒』
発行所 文春文庫
2009.1.9
著者:三浦しをん
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【感想】
まほろ市で便利屋として働く多田のもとに、
高校生時代の同級生、行夫がやってくる。
多田と行夫でタックルして、
様々な依頼の問題を解決していく物語。

日常の何気ない動作も細かく描写されているところが私好みである。
例えば、
《行夫は片手でポケットティッシュを開け、鼻をかもうとした。多田は道具箱を持ってやった。》
、、なんて場面は大抵省略されるものだが、些細なやりとりまで書かれている。
このような描写の蓄積から、行夫はマイペースで少し不器用だけど、独特の思考回路をもつ切れ者、
多田は一見冷たい人間に見えるが、心温かく、しっかり者であることが少しずつ見えてくるのだ。
そんな真逆の2人の距離感が絶妙で、登場人物に愛着が湧いてくる。


※これ以下は、ネタバレになるので要注意。


主人公の多田は、ペットの散歩代行などの簡単な依頼を請け負っていたが、行夫がやってきてから、厄介な依頼がくるようになった。
依頼主の問題に触れる度に、行夫はその悩みの確信をつく言葉を投げかける。
多田は、一見どうしようもないヤツに見える行夫の考え方や行動を通して、こんな救い方もあるのだと知る。


この本を読んで、
世の中、理想ばかりが全てじゃない。綺麗なものだけが美しいわけじゃない。小汚いくらいがちょうど良くて、それが最も真実に近いものなんだと思えた。
「こうあるべき!」と固定概念にとらわれた完璧主義者におすすめで、読むと肩の力がほどよく抜ける本だと思う。


《だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ。》

《幸福は再生すると。
形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。》


ところどころに突き刺さる言葉。


読後は、「多少不自由でも幸せは築き上げることができる」と思え、清々しい気持ちになれた。



三浦しをんさん、素敵な物語をありがとう。