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ラッキーカラーがはじまった


子どもの頃、運動会の話。


ラッキーカラーという種目があった。
これは徒競走にアレンジを加えた種目である。

まず始めに6人がスタートラインに並び、ピストルの音で一斉に走り出す。
中間まで走ると赤、青、黄色の3つの旗がそれぞれのレーンに置かれていて、その中から1つの旗を選び取る。
全員が取るか取らないかの段階で、ゴール地点に立っている先生が、赤、青、黄色いずれかの旗をあげる。
先生の揚げた旗と同じ色を選んでいればラッキー!
そのまま全速力でゴールへと駆け抜ける。
違う旗を持っていれば、先生と同じ色の旗に持ち替えて、ゴールを目指す。
以上が、ラッキーカラーのルールである。

この競技は、旗を使うことにより、足の速さだけでなく運も必要となる競技。
まさにラッキーカラーを選べばどんな人も1位を狙える競技であった。

しかし、当時の私は比較的足の速い方だったため、ラッキーカラーというルールが余計なハンデとなっていた。

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予行練習の時を思い出す。
いつも中間地点で立ち止まって、先生の旗を確認するのがめんどくさい。
「もし、たまたま先生と同じ旗を選んでいたら、走りきった方が案外うまくいくんじゃないか」
そうした安易な考えから、ヤマを張って赤旗を取って走り続けてみた。

しかし神様!酷すぎる!
皮肉にも先生は青い旗を揚げた。
私は、来た道を戻る羽目になる。
戻る先には青旗と、列で待機している友達の顔。
ルールが分からなくて、間違えた人みたいに見えていただろうと思うと、消えて無くなりたい気持ちだった。
青旗に持ち替えて、また翻し、ゴールへと向かった。


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「行こう」
「あっ、ごめん、行く行く」
私はクラスの友達の声かけで我に返った。


今日は運動会本番の日。
「天国と地獄」の音楽とともに背の順6列体系の塊が、校庭のトラックを駆け足する。
ビデオやカメラをもった保護者が手を振っている。
こんな大人がたくさんいる大舞台で予行練習の時と同じ恥をさらすわけにはいかない。

そして全員がスタート地点に並んだ。

ここからはみな体育座りである。

一列目がスタートし、また一列と前の子が走っていく。

はて、何色を選ぶか。
赤は恥を知った色だから、やめておこうか。
それなら予行練習で先生が揚げた青は?
いやいや、また同じようにはいかないだろう。
今まで迷わなかった黄色が正解?
どんどん自分の番が迫ってくる。
どの色にしよう。あぁ決まらない。

そして、ついに私の出番。

「いちについて」
自分の鼓動が聞こえる。


期待と緊張とわずかな高揚感の中。


「ようい、 ドン!!」


ラッキーカラーがはじまった。

赤、青、黄色の旗を選んで
先生と同じ旗の色なら走り抜けられる。

直感的に「赤」の旗を選んだ。

先生の挙げた色は!?



「赤」

まさか当たるとは思わなかった。

周りが本当に赤色の旗を持って走るのを確認し、私も再び走り出した。

必死に走ったけれど、2位だった。



お昼、家族みんなでお弁当を食べている中
足速かったね!とほめられた。

とてもうれしかった。

「でも旗が当たったのにどうして一位じゃなかったんだ?」とお父さんが言った。

家族みんなで大笑い。


そして、私は今までの苦労を思いながら、
照れ笑いをした。



懐かしい運動会の思い出。