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ふわっととろっとさっくりと口の中で溶ける。堺の町のおぼろ昆布のこと

とろろ昆布は、おにぎりに巻いてあるアレ。ベージュグレーの地にチャコールグレーの細かいストライプ。
じわじわくる軽い酸味のある旨味です。

おぼろ昆布は、真っ白。向こう側が透けそうに薄いんです。
口の中で溶けるおぼろ昆布を大阪の老舗「をぐら屋 大阪戎橋(えびすばし)筋」の堺市の工場で体験しました。
その技術は、遠く北海道からわざわざ運んだ最高級の真昆布を、最高においしく食べつくしたい大阪人の工夫から生まれたものでした。どんだけ昆布が好きなんだ大阪人。

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削りたてのおぼろ昆布です。
名前のとおり向こう側が、ぼんやりとかすんで見えるような気になります。
あの固くて黒くて厚い出汁昆布を、こんなに薄くするんです。

なぜここまで?
昆布は古代より、遠く蝦夷地から都に運ばれてくる、料理の味をおいしくする大事なものでした。貴重で、有力者だけのものでした         
江戸時代、商いをしながら日本海沿岸の町をつなぐ北前船(きたまえぶね)の西廻り航路ができたことで、寄港地や大坂や京都などの都市で使われるようになり、また、そこから川や陸路で運ばれて日本の料理に使われるようになったのです。限られた人にとってのいいものが、どっと広がりました。

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                                                     *図は、日本昆布協会こんぶネットより
ところが、です。
運んでいる途中で、昆布にカビが生えることがありました。
もったいなーい!!捨てたくなーい!!!どーする??
ウチの町のいい刃物でカビを削ってみよう、ダメ元だー!
(といったかどうかは知らないが。。。堺の町は5世紀ころから打ち刃物の高い技術が伝わっているのです)


表面のカビを削ってみた⇒カビを取り除いてからも削りすすめてみた⇒ふわふわしておいしいぞ⇒もっと削ったら白くてきれい。⇒薄く削って口に入れたら、ふわーっと溶ける。これはいい!!
黒くて固くて厚い昆布が白くてやわらかくてうすーい昆布に。
まったく違うものになりました。

大阪では、道南の真昆布のまったりした味は、大阪料理に不可欠のものとして愛されています。加工することで食卓での昆布の楽しみをいくつもいくつも見つけ出していった大阪人。どんだけ好きなんだ。

をぐら屋さんでは、「白口浜」産の最高級の天然ものだけを使っています。切り口が白いから「白口浜」。生えている距離が100メートル違えば味が違う、テロワールを強く反映する昆布ですが、「白口浜」のものが削っていって真っ白だからこそ、美しいおぼろ昆布になったのでしょう。
そして、肉厚で甘みがあるこの昆布の味の繊細さを表現するために技術を磨いていったのです。

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おぼろ昆布が昆布の貴婦人ならば、とろろ昆布は身近な人気もの。
職人は同じ包丁の刃の角度を、アキタという金属片を使って調整することで食感を変えて削ります。そしてまた、目打ち機という機械でおぼろ用はまっすぐ、とろろ用はぎざぎざに調整します。

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こちらが職人歴60年以上の三田嘉治さん。

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今や本当に貴重な白口浜天然真昆布の、等級の高いものだけを使ってきた三田さんは、
「海で2年間自然に育まれた天然昆布には力(りき)がある」
「これにかなう昆布はない。風味が全然違う」と、昆布を触りながら目を細めます。
その日の天気に応じて、例えば梅雨で湿度が高ければ昆布を酢に戻してきゅっと締める、というように、昆布を会話して、その日の仕事を決めるのです。

包丁の刃を調整して、一枚の真昆布から違う食感の加工を生み出す。
まぁ、よくこんな技術が育まれたものだと思います。
その加工に一番向く昆布を使って、堺の刃物を使って。加工もテロワール。
そして昆布をやわらかく、削りやすくするための酢も、店によって違うのです。削り終わった後の昆布の中心はばってら用に。捨てるところは全くありません。

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全国から食材が集まり、天下の台所といわれた大阪。
人と食材の交流の中で、真昆布は大阪の食の屋台骨を背負いました。

天然天日干し

昆布は採取から乾燥して出荷するまでを同じ漁業者が担います。
それを遠い大阪で受け取った昆布屋が歴史の中で育んだ、形を変えて洗練させていく仕事に感動したので、長くなりましたが。

生産者がこの職人仕事を見たらなんていうだろう。
きっと、彼らは幸せだろうなぁ。

 
 

読んでくださったり、♡してくださったりありがとうございます。北海道の生産者や素材、加工品を、noteでご紹介するのに使います。よろしくお願いいたします。