ひとり暮らし

私は1人暮らしを始めた。

正社員で成人している私のアパートは、あっさり見つかった。

上京した頃と違って、私には友達もたくさんいた。

数々のバイト先で知り合った友達だ。

もう寂しくて泣くことは無かったし、今日は誰と遊びに行こうと迷うほどだった。

もう同棲している彼を気遣う必要もない。

自由で気ままな1人暮らしになるはずだった。


でもなんだか私は、気が抜けてしまった。

仕事も上の空で、ミスを連発するようになった。

そんな時、1人の先輩が仕事を辞めると言った。

先輩は優しくて慕われていたけど、あまり仕事ができなかった。

高卒の私をバカにする同僚の中で、いつも優しかった先輩。

私は先輩に辞めて欲しくなかった。

先輩を飲みに誘い、先輩がどれだけ慕われているか、会社にとって必要かを説いた。

先輩は笑って言った。

「仕事ができなくて辛くて辞めると思った?違うのよ。私、留学するの」

「へ?留学?」

社内には英語を使う部署もあった。

そこで働く自信に満ちたキラキラした人達。

目の前の、優しいけれど凡庸な先輩と、キラキラな人達が結びつかなかった。

「前からそのつもりでお金を貯めてたの。以前も留学したことがあってね、同じホストファミリーにお世話になるのよ。もしあっちに来ることがあったら、遊びに来てね」



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